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五日目 スイレンside

 レイダーが家に戻ってから成長をずっと見ていた。

 最初は幼児に負けてしまうんじゃないかと思う程度の身体能力しかなかったのに、たった五日ほどで私の通っている学園の生徒の平均と同じぐらいの身体能力を身についている。

 正直に言えば、その成長速度に嫉妬してしまう。


 そして父上と戦っていた時を思い出す。

 あの時は何度、父上の攻撃を受けても立ち上がっていた。

 私なら一撃でも直撃すれば立ち上がれなくなっている。

 それなのにレイダーは何度でも立ち上がった。


 それにレイダーは母上との魔法の訓練をして次の日も道場で体を鍛えにきた。

 その精神の強さがレイダーの強さの理由なのかと考える。


 少なくとも、つい最近まで病院生活をしていたのに、これが才能の差なのかと嫉妬してしまう。

 それが認められなくて私は弟に勝負を挑もうと思う。


「明日、私と戦いなさい。父上とも互角に戦えた貴方の実力を生で感じたいわ」


 最初に父上と戦った時は病院生活が終わったばかりだったのに。

 それなのに私の眼からは互角に戦っているように見えた。

 あの時、負けたのは単純な身体能力の差だと私は思っている。

 五日だけとはいえ、あの時以上に成長したレイダーの身体能力なら父上に勝てる可能性も増えている。

 それが認められなくて私は挑む。


「は?」


 そして弟に睨まれる。

 なぜ、睨まれるのか私には分からない。


「レイダー、当主様と互角に戦っていうのは本当なのか?」


「違う。俺はボロ負けだった」


 道場の皆にどちらが本当か聞かれそうになるが私は先に首を縦に振って互角に戦っていたことを肯定する。

 逆に弟は首を横に振って否定していた。

 そのせいで道場の門下生たちは、どっちが正しいのかと困惑する。


「は?レイダーは父上と互角に戦っていたじゃない」


「何を言っているんだ?あれはどう見ても俺のボロ負けだ」


 私たちはお互いにどちらが正しいのか言い合う。

 その時、私は自分でも自覚してしまうぐらいに頬が緩んでしまう。

 学園の同級生にも兄弟姉妹がいる友達がいるが中には普段喧嘩ばかりしているという話も聞く。

 それでも健康だと言うことで私は羨ましかった。

 今まで病院生活をするほど虚弱だった弟とこんな喧嘩が出来ることが嬉しくなってしまう。

 それでも私の考えが正しいというは変えるつもりはない。


「二人とも落ち着け」


 私たちが喧嘩をしていることに父上が止めに来る。

 丁度良いから、私以外にレイダーと戦っていたのを実際に見ていたものとして。

 そして実際に戦った者としてレイダーとの戦いの感想を聞く。


「親の贔屓目で見たらたしかに互角だったように思えるが少し待ってくれ」


 親の贔屓目と言っていたが互角といったことに私は弟に私が正しかったとどや顔を向けるがレイダーは期待の目で父上を見ている。

 互角と言ったんだから私が正しいのに実際は違うと思っているみたい。


「俺はあれはレイダーのボロ負けだと思っている。何度も俺の攻撃を耐えたり避けたりしながら攻撃をしていたが全くいたくなかったからな」


 だが父上の親の贔屓目無しの言葉にショックを受ける。

 互角だと最初に言っていたのに、言い直したことがショックだ。

 弟に負けたことがひどく悔しい。


 そして弟の顔を見るが弟も悔しい顔をしていた。

 なんで同じような顔をしているのかと考えたが、すぐに思いついた。

 それは父上に負けて悔しいからだと。

 それは良い事だと私は思う。

 悔しさは強くなるのに必要な感情だから。


「ボロ負けでも何でも良いわ」


 でも私にとって今はどうでも良い事でしかない。

 私は弟と本気で戦いたい。

 私から見て父上と互角に戦えていたように見えていた弟と。

 何より父上から見てもボロ負けだったとしても、身体能力が少しでもあったら、魔法が使えていたら勝てた可能性は十分にあった。


「私と戦いなさい。そもそも、よくよく考えたら貴方が父親に勝てるなんて傲慢すぎるわよ。最近まで病院生活をしていた癖に」


 それを考えながら私はそう口にする。

 父上との戦闘に興味を持った他の道場の門下生にとられないためだ。

 現に私の言葉を聞いて興味津々にしていた門下生の目が減っていく。

 病院生活をしていたからこそ無理に突き合わせるのは悪いと思ってくれたからかもしれない。


「それでも貴方は父上と戦えていた。だから私は貴方と戦いたい」


 それでも私はレイダーと戦いたいと言うと頷いてくれた。


「なら明日の午前、道場で良いわよね?」


 レイダーは父上の目を向けて、父上も頷く。

 どうやら父上も賛成らしい。


「今日も午後から母上の魔法の訓練?があるから俺は屋敷に戻るけど良いか?」


「かまわない。がんばれよ」


「私も帰るわね」


 弟が帰ると言ったから私も帰ることにする。

 その時に手を繋ぐことも忘れない。

 弟がなぜか動揺する。

 姉弟だかはずがしがることは無いと思ったけど直ぐに理由は理解できた。

 道場の皆から微笑まし気に見られているのが何となく恥ずかしい。

 私のこの顔を見られる前に弟の手を引っ張って私たちは屋敷へと戻っていった。

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