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それ故に王国は、はぐれ吸血鬼を狩るヴァンパイアハンターを募り、クレアがそれを率いているのだ。
「最近、王国の婦女子がはぐれ吸血鬼の餌食になっているのは報告が行っているわね?」
「聞いている」
「どうもその背後にいるのが、反皇帝派の吸血鬼のようなの」
反皇帝派――アルビレオの統治に不満のある吸血鬼たちが徒党を組んでいる。
そしてその中には、帝国貴族の地位を持つものも居た。
「あなた、同族からも信頼されていないのね」
呆れたような、憐れむような、複雑な表情で呟くクレア。
王国と同盟を結んでから、反皇帝派の勢力が強くなった。
彼らにとって、人間は家畜のような存在であり、対等に同盟を結ぶ関係ではないのだ。
人間との共存を選んだアルビレオ。
彼自身も、王国との同盟で反皇帝派の動きが活発になることを予想していた。
「対策は考えてある」
アルビレオはクレアの瞳を見ながら言う。
それを聞いた彼女は、バンっとティーカップを乗せていたテーブルを叩いた。
「対応が遅いわ! 今朝、十八人目が殺されているのが見つかった。王国はもう一刻も待てない」
「わかっている」
「全然っ、わかっていないわ!」
冷静を失い、声を荒げるクレア。
無理もないだろう。はぐれ吸血鬼に血を吸われ死んだ者の中に、彼女の友人もいたのだ。
変わり果てた姿を見たときのショックは今の比ではなかった。
「落ち着け、クレア」
「私は落ち着いているわよ!」
叫ぶクレアの瞳には涙が浮かんでいる。
青金石は深い悲しみに染まり、潤んでいた。
「こちらでも探っている。だからもう少し待ってほしい」
「そうやって引き伸ばすのね」
「違う」
「違わないわよ。人間の命はあなたたちより短いの。そして今、奪われているのも人の命だわ」
涙に濡れた瞳に見つめられ、返答に戸惑うアルビレオ。
溢れ落ちそうなほどに涙を溜めたクレアの瞳がゆっくりと閉じられる。
「バケモノ……」
呟きと共に開かれた瞳には憎悪が浮かんでいた。
クレアも頭ではわかっているのだ。アルビレオも慎重にならざるを得ないと。
帝国の全ての吸血鬼、そして王国の人間に関わることなのだから当然だ。
しかし、頭ではわかっていても、心が許さなかった。
悲しみと憎しみ、深く深く沈んだ感情に捕らわれ呟いた言葉は重く。
アルビレオとクレア、吸血鬼と人間との間に深い溝を作った。
「待て! クレア……」
涙を溢し、走り去る彼女を追い掛けようとするアルビレオ。
しかし、彼女の呟いた『バケモノ』という言葉が胸に刺さり、動けなかった。
煌めく星屑のように眩しい少女。
宝石のように、流星のように、その双眸から溢れ落ちる涙。
「クレア……」
彼女が走り去った後、残されたアルビレオは名前を呼ぶが答えるものはない。
彼は黒幕を突き止めるため、再び集められた書類へと目を落とす。
そこには、ある男の名が書かれていた。