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――男は、煌めく星屑のように眩しい彼女に思いを寄せる。
流れる金髪、青金石を思わせる瞳。
人形のように美しい少女。
しかし、その内に秘める気高さと情熱は大人すらたじろぐほど。
彼女の名はクレア。王国の第一王女だ。
そして、彼女には裏の顔がある。
闇を統べる吸血鬼達を駆逐する、吸血鬼狩りという裏の顔が。
クレアの父が統べる王国は、夜の帝国――即ち吸血鬼たちの暮らす国と同盟関係にある。
王国は吸血鬼たちの持つ失われた科学を受ける代わりに、彼らに血液を提供しているのだ。
しかし、中には同盟に反し、人を襲い血を奪う者もいる。
そんな吸血鬼たちを駆逐するのが、クレアの役割だった。
夜の帝国、その皇帝――吸血鬼の王である男の名はアルビレオ。
闇がそのまま抜け出したかのような黒髪と黒曜石の瞳は夜の王の二つ名に相応しいだろう。
そして彼は今、客人と対面していた。その人物とは、王国の使者であるクレアだ。
吸血鬼の王と、人間の姫が向かい合って座る。出されたお茶は血のように赤い。
ハイビスカスとローズヒップのブレンドハーブティーだ。
「悪趣味」
ぼそりと呟いたのは勿論クレア。
出されたお茶に口をつけることなく、目の前の男を睨んでいる。
そんなクレアに腹を立てることなく、余裕の表情でアルビレオは笑っていた。
「乳離れしたばかりの子供に洒落たお茶は早かったかな」
嫌味には嫌味で返す。それにカチンと来たのか、クレアはティーカップを手にとって一気に飲み干した。
それには流石のアルビレオも目を丸くする。
「……まあ、悪くないわね」
素直にお茶を誉めたクレアに、アルビレオは思わず笑みを溢す。
ヴァンパイアハンターとしてのクレアと関わることが多いアルビレオなのだが、王族であるクレアは育ちが良い。
「気に入ったのなら土産に持っていくか?」
「いいえ、結構よ。あなたから施しを受けるつもりはないわ」
それは明らかな拒絶だった。
クレアはアルビレオに歩み寄る気はないのだ。
お茶に口をつけたのは、同盟関係に亀裂を入れないため。
最低限のライン、そのギリギリを攻めている。
「本題に移ろうか」
「ええ、そうしましょう」
二人の会合――その本題というのは、本能のままに人を襲うはぐれ吸血鬼のことだ。
帝国では規則を設け、王国との共存を続けているのだが、反皇帝派の吸血鬼や一部の下層吸血鬼は、王国の人間を襲っている。