人との交流
子供の頃からなぜか分からないが、外国に興味があった。もしかしたら、外国に移住するような先祖がいたのかもしれない。最初に外国人に会ったのは小学生の時だ。ELTとして僕が通う小学校にウェールズ出身の英語の先生がやってきた。彼はウェールズ出身を誇りにしていた。ある小学生がイギリス人の先生と言っていたが、彼は頑なにイギリス人とは言わなかった。中学生になるとカナダ人の英語の先生がいた。彼女は日本に興味があり、治安も良いと聞きELTに応募したそうだ。イギリス(ウェールズ)もカナダもイギリス連邦の一部だという事を学んだ。この流れなら、高校はオーストラリアかニュージランドの先生になると思っていた。しかし、病気を患い高校は1年生の夏休み明けに辞めることになった。両親は特に深く考えておらず、辞める際にも淡々と事が進んだ。1年後、病状が快方に向かい進路をあれこれ考えることになった。元々、頭は悪くなく大学に入る資格を取り、無事に大学に入学することができた。大学では外国人の生徒が数人いた。彼女らは留学生なのだろうか? 好奇心旺盛だが、臆病な僕は質問することができなかった。話している言語を聞いてみると、どうやら中国人と韓国人のようだ。まさか、こんな地方の大学に来るなんて。外国に対する興味はより強くなった。学生時代には有り余るほどの時間があった。2ヶ月に及ぶ夏休み、春休みなど。行こうと思えば、憧れの外国にいつでも行けただろう。ところが、好奇心よりも怖さが上回ってしまい、結果的には一度も行くことができなかった。光り輝くような学生生活は花火のように一瞬で終わってしまった。優柔不断な僕は、ろくに卒業後を考えていなかった。周りの同級生は次々に内定を貰っていた。それでも焦りは感じなかった。単に感覚が麻痺していただけだろう。結局、卒業後も進路が決まらずあれこれ悩む日々が始まった。そんな中で、ある制度により企業で働ける機会がやってきた。正社員としてでは無かったが、働けるならありがたい。その会社はプログラミングの会社だった。何も知らない僕にとってプログラミングを学ぶことは新鮮に感じた。会社で働き始めて数ヶ月たったある日、一通のメッセージが届いた。それは学生時代に登録していた外国人との交流サイトだった。外国に行けないなら、インターネット上で外国人に会いたいと考えていた。よく見るとメッセージの差出人は女性のようだ。その時点で自然にテンションが上がった。動物のマークが顔写真に載せてある。臆病な僕が言えることではないが、シャイな女性なのだろう。「こんにちは。私は来年の秋に桜市に行きます。良かったら、その時に会いませんか? カレン」まさか、僕にこんなメッセージが来るなんて夢にも思っていなかった。登録後は何人かとメッセージをやりとりしたことがあったが、実際に人に会うことは一度も無かった。と言うより、外国人と交流したいと思っていただけで、会うことは想定外だった。「こんにちは。メッセージありがとうございます。もちろん良いですよ! その時は桜市を案内します。」僕は興奮が収まらなかった。カレンさんという名前か、良い名前だ。会える日がとにかく待ち遠しい。それ以降、何度かメッセージのやり取りが始まった。よく聞くと、彼女はスウェーデン人で大学の交換留学生として初めて日本に来ると言っていた。選択肢は複数あったそうだが、小規模で暮らしやすい桜市を選んだという。今まで、学校や大学で外国人に会う機会はあったが、個人的に会うことは一度も無かった。楽しみのような、不安のような。年が明けて彼女が日本に来る日がやってきた。最初は東京に一日滞在し、木曜日に桜市に新幹線で着くそうだ。僕は徐々にわくわくしてきた。その頃は仕事もある程度覚え充実した日々を過ごしていた。「明日の20時に木葉駅で待っています。黒色のジャケットを着ています。カレン」「分かりました! では仕事が終わったら車で向かいますね。」ところで、僕はそのサイトにかなり遠くから撮った顔写真を載せている。彼女は動物のマークなので、どんな人が全く分からない。現時点で分かっていることは、僕より2つ下の年齢と名前とスウェーデン人ということだけだった。18時に仕事が終わった。そもそも、その日は仕事が頭に入らなかった。まだ見ぬ留学生のことしか頭に入らない。18時30分、家に着く。急いで考えられる限りの最高のコーディネートを選ぶ。念の為、歯をいつも以上に丁寧に磨き上げる。いや待てよ? デートではない。ただ、人に会うのにこれだけテンションが上がるのは経験したことがなかった。19時、余裕を持って家を出る。季節はちょうど過ごしやすい秋だった。外国人留学生にとっての入学時期は秋になるらしい。日本の大学はそのあたりを考慮し柔軟に対応している。中心部の繁華街が近づいてきた。待ち合わせの木葉駅はもうすぐだ。ここで僕に異変が起きた。会う楽しみより、僕は彼女を‹楽しませることができるか›という考えで頭が一杯になった。そういえば何語で会話するのだろう? 彼女は日本語を勉強しているそうだが、どの程度話せるのだろう。僕の英語力は世間でよく言う中学生レベルだった。ふと、【引き返す】という選択肢が頭に浮かんだ。より正確に言うとビビった、ということになる。果たして大人の男としてそんなヘタレでいいのか。僕の頭の中でバトルが始まった。車は徐々に駅に近づいている。数分悩んだが、今回は臆病よりも好奇心がかろうじて勝った。スウェーデンの国の名前は知っていた。中学校くらいの地理の授業で習った気がする。そういえば女性とプライベートで今まで会ったことがない。僕は楽しみと不安が入り混じっていた。そうこうしているうちに木葉駅が見えてきた。小規模ではあるが利用者はそこそこ多い。「駅の南側で待っています。」「分かりました。今、着きます。」車を路肩に止めて駅を見渡す。そこにはブロンドの女性が立っていた・・・