序章 神様、俺?
ふと、こういう設定が頭に過り、それを下地にして書いてみたら1つの物語が出来たので、投稿する事にしました。
よろしければご覧くださいませ。
お楽しみいただけたら幸いです。
「お前、異界で神になるつもりはないか?」
「はい?」
目の前で特撮に出てくるような怪人のような外見をしたあの世の窓口を担当している鬼はそう言った。
俺の名は五十川大作、何処にでもいる平凡な30歳のサラリーマンだ。いや、今となってはだったというべきか・・・。
何故ならば俺は死んだからだ。ある日、会社帰りの途中で、大型トラックに撥ねられそうになった子供を、とっさに助けた代わりに俺が撥ねられてしまったという訳だ。
そして、今、俺はあの世にいるのだが、あの世は俺が想像していたのと違い、役所の受付にしか見えない。
俺以外にも多くの死者と思われる者達が順番待ちをしており、10ある受付口からそれぞれに名前を呼ばれた者から受付に座って話をしている。
そして俺の番になり、受付口の1つに行くと一瞬固まった。そこに額から二本の角を出した赤い身体をした鬼が書類を持って座っていたのだが、その見た目は絵本などに出てくるコミカルな外見ではなく、特撮に出てくるような醜悪な怪人のような外見をしており、それだけで俺はびびってしまい腰が引けてしまった。
もっとも思わず周りの奴らを見ると、他の受付の鬼も同じ様な外見らしく、大抵の者達が腰が引けている。
「おい、何時まで突っ立ってやがる。危害は加えないから、さっさと座れ!」
鬼の言葉に俺は「あ、はい。」と答えて素直に従った。逆らっても良さそうな事は何1つ感じられなかったからだ。
「俺がお前の担当の鬼だ。と言ってもこの場限りだがな。」
「あ、そうなんですか。」
「お前が転生もしくは、地獄天国に行った後まで関わる訳ないだろう。」
鬼のもっともな意見に成程と俺は頷いた。
「さて、さっそく始めるが、ここはあの世だが、正確にはあの世の入り口だ。ここでの審査、手続きで死者であるお前達は転生もしくは、地獄天国行きが確定となる。それでお前、五十川大作についてだが。」
鬼は受付台の上にある種類を手に取り、渋い表情となった。
「・・・事実だけを述べる。お前の死は予定外のモノだ。」
「は?どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ。お前が死ぬ原因となった子供。あの子供は本来、お前の助けがなくても助かっていた。つまり、お前の死は全くの無駄死にだ。」
淡々と冷静に言う鬼。しかし俺は自分の死が無駄死にだと言われて思わず激高しそうになった。
しかし鬼は間を挟む事なく「そこでだ。」と言って1つの提案をしてきた。それが冒頭の言葉だった。
「まず、世界は可能性の数だけ無限にあるある。そしてランクもあり、何ランクも分かれている。まずここまではいいか。」
「え、ええ。」
神になるとはどういう事かと尋ねたところで、目の前の鬼はその説明をする前に世界の概要について説明すると言った。
まずはこれを基礎知識として知っておかないと、説明するのが面倒になるらしい。
「そしてどの世界にも当然、神々がおり、さらに神にも善神と悪神がいる。しかしこの善神と悪神がおり、それぞれが世界に働きかける事によって世界は成り立っていく。」
「善神は分かりますが、悪神は必要ないのでは?」
「分かっていないな。善だけでは物事は成り立たない。ただどこまでも綺麗な歪んだ世界になるだけだ。悪があり、そこから引き起こされる事態によって物事が進む事だってある。必要悪なんて言葉もあるだろう。善神と悪神、その両方がそれぞれの力を使って世界に大なり小なり影響を与える事で世界は進化していくのだ。」
鬼の説明に俺は何となく言いたい事が理解できたので、何も言わずに説明を聞くのを続けた。
「そしてその世界の神々とはどれもワンランク上の世界から来た者達なのだ。一定の善行、悪行を重ねた・・・な。お前の世界の神々もそうだ。」
「な、何だって~~~。」
鬼の説明に俺はノリに任せて返したが、鬼はそれに対して反応する事なく言葉を続けた。
「そして神になる資格を持つのは、その者達が生前に重ねた善行による徳もしくは悪行による業だ。つまりは一定以上の善行を重ねたか、振り切れた悪行を重ねた者が神になる資格を持つ事になる。しかし例外もあり、その例外がお前のような予定外の死を迎えた者だ。定められた死を迎える前に死んだのだからな。見方によっては定められた運命を変えたともいえる。そういう者も神になる資格がある。」
鬼の説明に俺はそういうものかという気持ちで聞いた。
「神になるならば行く世界は、当然、お前の世界よりもワンランク下の世界だ。」
そして俺は鬼に詳しい説明を聞いた。
その世界は剣と魔法世界で戦乱の世界だそうである。おまけに神々も善神・悪神の勢力で長い事争っている様である。
俺がその世界の神になった場合、善神勢力の一番下っ端の神となるらしい。階級は無名、三級、二級、一級、そしてその世界の善神勢力を統べる最上神となっており、その世界で活躍などをして、人々の信仰を集め続けたら階級があがり、神としての力も使える奇跡も増えるらしい。
ただ、俺のような予定外の死を迎えた者は特別特典として無名の状態でも部下を1人つけてくれるそうである。
「その部下ってどういうモノなんですか?」
「基本、天使や戦乙女だ。ヴァルキリーといってもいいかもしれないな。」
部下になる存在の詳細を聞いて、俺は思わずアニメやラノベなどに出てくる天使や戦女神を思い浮かべて一瞬、美人の部下とのロマンスを思い浮かべてしまった。
目の前の鬼はそれに気づいている様で「部下の希望は戦乙女か。」と言っている。
「それでどうする?選択するのはお前だ。」
俺は僅かに思案した末に、その提案を飲む事にした。
鬼は書類を記入した後、
「これでお前は神になる事が確定した。先程、説明した様に行った世界では無名の神から始まり、何を司る神になるかは、その後のお前の行動次第だ。」
俺にそう説明した後、俺の書類を見た後、いささか驚きの表情になりながら、
「見たところ、お前は思ったよりも徳を積んでいるようだな。僅かな信仰でも神として使える強力な奇跡を1つ最初から使えることが出来るぞ。」
「強力な奇跡?」
「そう、奇跡だ。お前にも分かる様に言うならばゲームにおいての強力なスキルや上級魔法と思えばいい。神になる時、本来ならば神となった世界で信仰を得、偉業を重ねる事で奇跡を使えるようになり、それが一定のラインを超えないと凄まじい奇跡は使えないのだが、一定の徳もしくは業を重ねている者は、その数から換算して1つから複数の奇跡を最初から使うことが出来る。まぁ、それも僅かでも信仰がなければ使用できないが・・・。」
「でも俺はこれと言った徳を積んだ記憶はないが・・・。」
「書類を見たら、度々、募金や図書館への寄書、後はボランティア活動の参加による徳の積み重ねだな。」
「えっ!?あんな事で?!そもそもどれも善行を重ねようと思ってしたわけじゃないですよ!」
俺は募金やボランティア活動の参加は、それによって女性に少しでもよく思われたい、もしくは性格の良い女性と巡り合いたいという気持ちからしたもので、図書館への寄書も要らなくなった本や漫画を捨てるのはもったいないぐらいの気持ちで図書館に持っていっただけで、善行を積もうと言う気持ちはこれっぽっちもない。
俺がそう思っていると、鬼はまた俺の考えている事に気付いたのか「『善行を積むためにした訳ではないのに』と思っているな?」と俺の心中をズバリ言い当てた。
「分かっていないな。お前の動機云々は関係ない。それによって僅かでも救われ感謝した者がいるというのが重要なのだ。善行とはそういうモノだ。」
鬼の言葉にそういうものかと思っていると、鬼は受付カウンターの下から大きな箱を取り出し、俺の前に置いた。
上の部分に大きな丸い穴が開いており、どうみてもくじ引きをするための箱にしか見えなかった。
「この箱の中から1つ好きなカプセルを取れ。その中に入っているのがお前の神となった時に最初から使用できる奇跡だ。」
あ、安直なと思ったが信仰さえ得たら使える強力な奇跡と聞いたので、俺は箱に手を突っ込んで箱の中を引っ掻き回した。
どれにしようかなと思って箱の中を引っ掻き回していると「あいたっ!」と人差し指の先に痛みが走り思わず手を引いてしまうと、そのまま1つのカプセルが人差し指の爪に刺さった状態で、一緒に出て来た。
どうやら、このカプセルは思ったよりも柔らかいらしい。
「ふむ、それがお前の得た奇跡だ。カプセルを自分の胸を押し当てろ。」
出してしまったものはどうしようもないので、俺はカプセルを爪先から抜いて、言われた通り胸元に押し当てた。
カプセルは、そのまま俺の身体へと入っていき、頭にスキルの効力が流れた。それによると”最高神化”という奇跡で”ごく僅かな時間だが、奇跡会得者が行く世界での最高神と同等の力と奇跡を使用できるようになる。奇跡会得者の神格が上がり階級が上がれば、奇跡を使用できる時間が延びる。現段階では会得者が最高神の力をつかえるのは三分”というものだった。
ウルト〇マンか!?と言いたくなるような何とも微妙な能力だった。
鬼は俺の会得した奇跡を書類を通して把握していた様で「これはまた扱いの難しいのを得たな。」と一言言ったので、余計に落ち込んだ。
「何はともあれ、奇跡も得てお前が神になる手続きも終えたので、お前の相手は終わりだ。この書類を持って一番左の出口を通れ。お前のこれからの神としての活躍に期待する。」
鬼はそう言い、最後に二コリともしないで明らかに社交辞令と分かる言葉を掛けて俺に書類を渡すと、さっさと行く様に、手で払った。
俺も、このクソ鬼には用がないのでさっさと指示された出口に向かった。
こうして俺は異世界で神になった。
こういして大作の物語が幕を開けます。