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ヒトミの哲学  作者: 京衛武百十
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家族って、何だっけ? (アヤの疑問)

ホント言うと私は、家になんて帰りたくなかった。ピカの一件があって以来、お父さんのことは少しだけ見直したけど、家ではやっぱりぐうたらしてるだけだし、それ以上にお母さんがウザかった。相変わらず口を開けば小言か愚痴で、お父さんのことも少しも大切にしていないのが見え見えの態度にイライラさせられっぱなしだし。あの人は本当に自分だけが可愛い人なんだってつくづく思う。


だけどそれでもなんとか家に帰れるのは、こうやってヒトミやみんなに癒されてるからだっていうのを最近は特に実感してる。何だかもう、ヒトミ達と一緒にいる時こそが本当の私っていう気がする。自分の家に帰ることの方が何だか仕事みたいな感じ。


でも、不思議なもので、自分の家に帰るのを仕事みたいなものだと思えば、割と気が楽になるんだよね。逆転の発想ってことかな。


「結婚や友達のことはそういうことでいい気もするけど、家族ってホント何なのかな? うちはお母さんがお父さんのこと全然好きじゃなさそうなのに夫婦で、そのお父さんとお母さんのところに私や弟が生まれて、一応それって家族ってことなんだと思うけど、私の家族のことを考えたら家族って何のためにあるのか分からないんだよね。あの人達が歳取って介護するとか考えたら、マジ憂鬱だし」


コノやピカの質問に答えてるヒトミを見てると、私も改めて訊いてみたくなって本音をぶちまけてみた。そしたらコノが、


「あ~、それ分かるわ~。あたしもおんなじ~。あいつらの介護とかマジ無理って感じだよね。うちは兄貴が二人もいるから、あっちが面倒みるのが普通だと思うけどさあ」


だって。こんなこと、普通の大人がいるところで言ったらどうせ綺麗事並べてお説教だと思うけど、そういうのってすごい無責任って言うか、『でも介護すんのはあんたじゃないでしょ?』って感じだよね。ここだとヒトミのお父さんが隣で寝てるけど、全然平気なのが不思議。


「アヤの家もコノの家も、ヒトミの家に比べれば普通のようにも見えますけど、随分と荒んでますね」


と、ピカの相変わらず容赦ないツッコミ。確かにその通りすぎて、ぐぬぬっていう気にもなれないけどさ。そこに、


「アヤもコノも大変だね」


っていう、こっちも相変わらずなヒトミのゆるい反応。だけどそれでこそだよねって感じでヒトミが続ける。


「だけどいつだったかピカが言ってたみたいに、人間って生まれは平等じゃないっていうだけのことなんじゃないかな? どんな家庭に生まれるかっていうのは選べないしさ。私もお父さんの子供に生まれたのは嬉しいけど、お母さんのことは今でもほんとは辛いんだ。それから思ったらお父さんとお母さんがちゃんと生きてるってだけでも羨ましいかなって思うよ。でも、お母さんが生きてるんだから文句言うなって私は言わないよ。嫌なことは嫌だし、辛いことは辛いよね。そういうことを正直に言える相手がいるっていうのは大事だと思う」


なんかすごく重いことを言ってるはずなのに、ヒトミの言い方はやっぱりどこかのんびりしてた。嫌なこととか辛いことなんてあって当たり前。嫌なら嫌、辛いなら辛いってちゃんと言えばいいだけだよねって言ってる気がした。


「ほんとはさ、それが家族だったらいいと思うんだ。せっかくずっと一緒にいられるんだから、そういうこともちゃんと言えて、話ができる相手が家族だったらいいと思う。私はお父さんにならそういうことも言えるよ。お父さんはそういうことも聞いてくれる人だから。でも、そういうことも得意な人と苦手な人がいるんだと思うんだよね。アヤやコノのお父さんやお母さんはそういうのが苦手な人っていうだけじゃないかな? だったらあんまり、そういうのが苦手な人にやってもらおうと思わなくていいんじゃないかな?」


…そっか、そうかも知れない。親だって思うから子供の話くらい聞いてよってつい思っちゃうけど、人間だもんね。歌が苦手な人に上手に歌えって言ったり、料理が苦手な人に美味しい料理作れって言ってるみたいなもんか。


「私、みんなとこうやって話するの好きだよ。嫌なこととか辛いこととか、誰かに聞いてもらいたいと思ったら言ってほしいって思う。自分の家じゃ話せないことがあっても、話せる人がどこかにいたらそれでいいんじゃないかな。一緒の家に住んでる人も家族だけど、一緒に住んでなくても家族っているよね? そういうのは普通血が繋がってたりするかも知れないけど、一緒に住んでないし血も繋がってないけど家族みたいな人がいて、それがいろんなことを話しできる家族だったら、そういうのもありなんじゃないかなあ?」


どうして、ヒトミはそんなことを当たり前に考えられるんだろう? どうやったらそんな風に考えられるんだろう? 私が欲しいと思ってる言葉を言ってくれるんだろう?


「お父さんはお母さんとは今でも友達みたいなものって言ってた。だけどお父さんとお母さんは夫婦だから、友達だけど家族なんだよね。じゃあ、家族みたいな友達がいたっていいと私は思うんだ。私は、みんなのこと友達だと思ってるよ。こうやっていろんなこと話しできる友達。こうやって私の家で一緒にいると、家族みたいだなって思うよ」


ヒトミは、私達一人一人の顔を見てそう言ってくれた。


「くう~っ! ちくしょう! あたしが男だったら嫁にもらいたいところだぜ、ヒトミ!」


そう言ってコノはまたヒトミを抱き寄せて、ワシワシと頭を撫でまくった。「だから私にはそういう趣味はないって~」と平然とした顔でヒトミがまた応える。


私は正直言ってジンと来てて、何も言えなかった。今何か言ったら泣き出しそうで照れ臭かった。


「ヒトミに言わせると、友達も夫婦も家族も同じものってことになってしまいますね」


ピカがちょっと皮肉っぽいことを言ったけど、でも嫌味には聞こえなかった。ピカなりの共感なんだと思った。


「同じでも別に問題ないと私は思うよ~。だって人間同士の関係っていう意味じゃ同じだし、別々に考える理由が私にはないし。他の人はどうか知らないけど」


コノに頭を撫でられたままで、ヒトミが応えた。


こうやってヒトミと話してると、親に対してイライラしてる自分がバカバカしく思えてくる。あの人達は私の親だけど、私とは違う人間なんだって素直に思えてくる。違う人間なんだから私の思ってる通りにやってくれなくても当然だよねって思えてくる。もちろん今でも思い出したらムカついたりするけど、私がムカついたってあの人達は変わらないんだから、私が考え方を変えた方が早いよね。


将来、介護とか考えなきゃいけなくなるとしてもそれはまだ先のことだし、何が起こるか分からないから今からイライラしてたって意味ないか。結局はその時に考えなきゃいけないんだから。


あの人達の子供として生まれてしまったのは、正直、残念なことだという実感しかない。でも生まれてきたからこうやってみんなとも出会えたんだし、ゲーセンとかカラオケとかで楽しまなくても、何かイベントとかなくても、こんな風にダラダラと一緒にいるだけで癒されるのって、ホントにすごいことだと思う。家庭環境が良くなくて不良になったりする人って、こういう出会いがなかったんだなってすごく感じる。


家族みたいな友達かあ。『友達は一生の財産』みたいなことを言う人がいても今まではそういうのあんまり本気にしてなかったんだけど、今は素直にそうだと思えるよ。


ヒトミ、ありがとう。



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