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ヒトミの哲学  作者: 京衛武百十
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結婚って、何だっけ? (コノの疑問)

自分の妹に襲い掛かるようなクソ鬼畜兄貴といまだに一緒の家に住んでるあたしも、たいがい神経太いよなあ。と言っても、今はまだ行く当てもないし自活するだけの能力もないし、とにかく油断しないようにして何とかやり過ごすしかないんだけどさ。それに、あいつも大学に合格すれば一人暮らしを認められて家を出ていくらしいし、それまでの我慢だな。


クソ鬼畜兄貴の一件と、学校での事件のせいもあって、あたしの中での男っていう生き物の評価は底抜けでダダ下がりだ。クラスの男子連中も、実行しないだけで結局同じようなことを考えてるんだろうなとか思ったら、吐き気がする。父親は、自分の息子が何しでかしたか気付きもしないポンコツだし。ま、それは母親も同じだけどさ。


元々結婚なんかしたいとか思ってなかったけど、こりゃ、


「あたし、一生独身決定かなあ」


日曜日、ヒトミの家に集まってる時、あたしは思わずそんなこと呟いてた。そのとき読んでたマンガ雑誌に載ってた、何人ものイケメンが冴えない主人公の女の子を取り合うベタなマンガと現実を比べてみた絶望感から出た、魂の呟きだった。


「何いきなり?」


スマホでアプリゲーをしてたアヤが驚いた顔で訊いてきた。


「二次元の世界と現実の格差に絶望でもしましたか?」


って、スマホで何か作業してたピカがいきなり核心を突いてくる。こいつ、相変わらずそういうことには鋭いよな。


「私も結婚なんかしたいと思ってないし、別にいいと思うよ~」


そんな二人とは対照的に、タブレットでゲーム実況動画を見てたヒトミがいつもの感じで呑気に応えてくれた。


「あ~、やっぱりヒトミだけだよ、分かってくれるのは~」


感激のあまりヒトミを抱き寄せて頭をなでなでする。


「はいはい、でも私はそういう趣味もないからね~」


と、あたしに頭を撫でられながらタブレットの画面からは目を離さずヒトミは言う。ホント、ヒトミってばそういうとこはドライだよな。んもう、ツレナイお人!。


なんて冗談はさておいて、


「けど、みんな結婚とかどう思ってる?」


なんて、あたしはけっこう真面目に訊いてみた。この際だからみんながどう思ってるか訊いてみたかった。


「そんなこと言われたって、今はまだ全然イメージ湧かないな~」


は、アヤ。さすがに無難な答えだ。


「私は皆さんがご存知の通りです。今は鋭意計画の進行中です。ですがそれとは別に、結婚して子供をつくる。それも国民としてこの国に貢献する方法の一つだと考えていますから、積極的に貢献していきたいと考えてます」


は、ピカ。まあ最初の部分は聞くまでもなかったけど、その後はどうして結婚一つでそこまでの話になるんだろ?。


で、一番訊いてみたかったヒトミは、


「お父さんみたいな人がいたら結婚するかもしれないけど、お父さんみたいな男の人ってあんまりいないみたいだから、たぶんしないかな」


だって。あ~、やっぱりお父さんみたいな人がいいんだ~。でも、こう言っちゃ失礼だけど、ヒトミのお父さんって、全然カッコ良くはないよな。マンガやアニメだと娘の友達の誰かがその子のお父さんのこと密かに好きになるとかいう展開もあったりするけど、現実ではそんなことまずないよ? 友達のお父さんだもんなあ。男の人って感じには見れないよなあ。でも逆に、男っていう感じがしないから、男に対する嫌悪感みたいのからも外れてるって感じだけどさ。


「もしかしてと思ってたけど、ヒトミってファザコン?」


この際だから、直球で勝負してみる。


「え~? たぶん違うよ~。お父さんのことは好きだけど、お父さんは男の人じゃなくてお父さんだから」


と、ここに至ってもタブレットの画面から目を離さずにヒトミは平然と答えた。


「なるほど。ヒトミのお父さんに対する認識は、やはりそういう感じなんですね。私が予測していた通り、ヒトミはまだ思春期を迎えていないのだと感じます」


とか、ピカがいきなり考察をぶっ込んでくる。それに対してヒトミは、


「ひどいな~、人を子供みたいに。…子供だけど」


ひどいと言いながらちっともそう思ってなさそうな返し。


「ヒトミは、お父さんみたいな人がいいと思ってるだけで、お父さんがいいとか思ってないってことでしょ?」


ていうアヤの言ったことが一番分かりやすかった。そりゃそうか。けど、アヤが続けて言う。


「だからピカの言ってる、思春期を迎えてないっていうのもちょっと違うかなって私は思うんだ。だって、お父さんが好きな女の子って、思春期前だとお父さんと結婚したいみたいなこと言ったりする子もいるし。だけどヒトミはお父さんと結婚したいとか思ってるんじゃないもんね?」


さすがにスマホじゃなくてヒトミの方を見ながらアヤが言うと、「そうだよ」とヒトミは答えた。


「なるほど。確かにそういう見方も出来ますか」


ピカもやたらと反論とかせずに、アヤの言うことを認める。それを見てあたしはふと思った。こいつも随分と丸くなったなって。何となくヒトミに似てきた気もする。


「結婚ってことで思い出したけど、お父さんはこんなことも言ってたんだよね。私やショウタが生まれたことで、お父さんが生きていた証拠がこの世に残るんだって。だから、私やショウタにお父さんは救われたから、その恩を返すために私達を育ててるんだって言ってた。恩返しの為に育ててるんだから、お父さんに育ててもらったことを私達が恩に感じる必要はないって。恩返しとか考えなくていいって。お父さんは自分が生きたいように生きてるし大人だから、自分のことは最後まで自分でやる。ただ、もし病気で自分のことができなくなったときはちょっとだけ力になって欲しいって」


「…」


「…」


「…」


あたし達三人は、言葉もなかった。世間が普通言ってることって、親が子供を育ててやったんだから、子供は親にその恩を返すべきだってことばっかりな気がする。だけど、育ててやったとか言われても、こっちも好きで生まれてきたんじゃない。お前らが好き勝手やった結果として子供ができたんだから、その面倒見るのは親の義務だろ。義務でやってることで恩を感じろとか何様だよっていう気もしてた。


それなのに、ヒトミのお父さんは全く逆のことを言ってる。子供が生まれてきてくれたことが親にとっての恩だから、その恩を返すために育ててるって。そこまで言われたら、何だか申し訳ない気持ちになってくるから不思議だ。親が義務でやってるはずのことを子供への恩返しとか言われたら、素直にありがとうって思えてくる。


ヒトミの言うことに納得できない人もいると思うけど、あたし達はここまでずっとヒトミのことを見てきたから、何となく分かる気がする。調子に乗って自分が偉いとか思って他人を見下すようなことをしないヒトミが言うと、気持ちに余裕があるからそんな風にできるんだって思える。


今は結婚したいとか思えないし男も信用できないけど、もしあたしが男で、結婚して子供ができたら、ヒトミがしてもらったみたいにしてあげたいと思う。自分の親には子供のことで相談とかできそうにないけど、ヒトミがいたら何とかなりそうな気がする。


あたし、ヒトミに会えてよかったと思ってる。彼女に会えてなかったら、たぶん親とケンカばっかりして、それどころかあのクソ鬼畜兄貴のいる家なんて、用心してれば何とかなるかもなんて思えなくてほんとに飛び出してたかもしれない。だからあたしはヒトミにありがとうって言いたい気分なんだ。


まあでも、そんなこと考えるのがこんな日常的ないつものだらけ切った集まりでっていうのが、いかにもあたし達らしいって言えばそうだと思うけどね。



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