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つぼみの君ともう一度  作者: 鳴神鈴蘭
2/2

口では語らない、手で語るの

少女の名前は安川花。その名にふさわしく、穏やかで花を愛でる美しい少女だ。

花は半年前の火事で家族を全員失った。そのショックにより、記憶を失い、話すことが出来なくなった。また、極度の対人恐怖症も患った。

知り合いもおらず、家に塞ぎ込む毎日を送っていた彼女に初めて出会ったのが、その一ヶ月後。彼女のカウンセラーからの紹介だった。

目は虚ろで、髪も乱れ、とても話しかけれる状態ではなかった。私は修道女として、そんな彼女を救いたいと思った。


────。

「こんにちは、花さん。お話を聞かせてもらえませんか?」

「……………。」

なんの反応もない。まぁ、当たり前か。

「何か話したいことがあれば、この紙に書いてください。」

彼女が話せなくなったことは前任のカウンセラーから聞いていた。

カリカリ、カリ……

彼女は静かに何かを書き始めた。

『あなたは誰ですか?』

「私は教会で修道女をしています。みんなはシスターと私のことを呼びます。」

カリカリ……

『シスター、聞いてもいいですか?』

「はい、なんでしょう。」

『私は一体誰なんですか?』

私はその質問に固まってしまった。いつも教会に訪れる人々に言うように「神の子」というふうに言えばいいのか……。いや、この子はそんなもので納得はできないだろう。

「あなたは、安川花。それ以外の何者でもありません。」

この答えがきっと一番いい。

「…………。」

少女は無言のまま少し納得のいった顔をした。

「…………、花さん。」

『はい』

「手話を覚えませんか?」

『手話?』

手話とは手で言葉を話す方法だ。

「花さんは、今、話すことができません。だから、口ではなく、手で話すのです。」

「…………。」

私も正直、手話を完璧に出来るわけではなかった。ただ、前に相談に来ていたおばあさんが言葉を使うことが出来なかったので、少しだけ覚えたのだ。

「私が教えますので、一緒に覚えませんか?」

『わかりました』

その日から私と花の交流は始まった。


花は物覚えがよく、すぐに手話を覚えていって会話できるようになった。初めは私のことも怖がっていたが、少しずつだが信頼を得れるようになった。

話してみると、花は、動物や植物好きなこと、音楽が好きなこと、読書が好きなこと、空を見るのが好きなこと………など、好きなことをたくさん教えてくれた。しかし、それは記憶を失ったあとに出来た趣味らしく、彼女が記憶を失う前に使っていたSNSなどに載せていた趣味はほとんど出てこなかった。

記憶を失った彼女にたくさんの経験をさせようと私は彼女を色々なところに連れていった。例えば、温泉や、海、山など、できるだけ人が多くなく、自然に触れることが出来る場所に。

そうこうしてるうちに半年近くが過ぎ、彼女からの信頼も得たであろうと思われた。

私は彼女にある提案をした。

「花、私のいる教会に住み込みで働きませんか?」

今、彼女は高校に通っていない。働いて生きる術を身につけるべきだ。しかし、対人恐怖症である彼女に無理な仕事は紹介できない。最終的に思いついた回答がこれだ。

《はい、シスター》

彼女は花のような笑顔と共に手話でそう応えた。

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