ダンジョンとPK
「この近くにダンジョンがあると聞いたんだか、どこにあるんだ?」
「ダンジョンならここを出てあっちの方に行けばありますよ」
門の護衛をやっている人にダンジョンの場所を聞いてみると指をさして方向を教えてくれる。
「再び町に入るときは身分証明ができる物が必要ですが、なにかありますか?」
「ギルドカードならあるが」
「なら大丈夫です。お気をつけて」
礼を言い教えてもらった方向に歩き森に入る。
しばらく歩き続けると開けた場所に出た。どうやら木を斬り倒して広げたようだ。
その真ん中に土が盛り上がってできた山があった。
山といっても2メートル程で人が入れる窪みがあり、そこには下へ降りる階段がある。
どうやらここがダンジョンの入口のようだ。
階段を降りダンジョンに入る。中は太陽の光がないから真っ暗と思ったが、ダンジョンの通路自体が光ってるのか灯りもないのに明るく、通路も広かった。
初めてのダンジョンで階層もまだ1階だ。そうそう強い魔物なんて出ないと思うが、一応警戒はしておこう。
スキルの【サーチ】があるため半径200メートル圏内なら人も魔物もどこにいるか把握できるがレベルまではわからないからな。
なんて思っていたら魔物がいた。
1体だけだからレベルしだいでは余裕だ。
魔物がいる方向に行き曲がり角で魔物を確認する。
グリーンスライム Lv2
RPGでは定番のスライムか。緑色の粘液が地面を這いずっている。
レベルも低くし1人でも大丈夫そうだ。
STR強化スキルの【バイセクト】を使い、グリーンスライムに向かって走り出す。
「うおりゃあ!」
フルスイングでグリーンスライムを斬りつけるが、今まであった斬った感触はなくただの棒などで叩きつけた感じだ。
もしかしてあの粘液の体で物理攻撃の威力を軽減しているのか?
よくわからんがとりあえずスキルを使わずに何発で倒せるか試してみよう。
一旦距離をとり相手の様子を窺う。
グリーンスライムは跳び跳ねながら俺に近づき、潰れたようにへこんだと思ったら勢いよく俺に向かって跳んできた。
「うおっ」
上半身を傾けグリーンスライムを避ける。いきなりだったので驚いたが避けれない攻撃ではない。
さらに攻撃には予備動作もあるので当たる事はないだろう。
俺は攻撃を避けつつダメージを与える。袈裟斬り、横薙ぎ、突きなど斬りまくったがグリーンスライムはなかなか倒れない。
Lv3のウェアウルフは確か4発で倒せた筈だが、グリーンスライムはもう5発以上攻撃してるのにまだ倒せないでいた。
やはり物理耐性があるようだ。
こうなったら意地だ。とことんやってやる。
ブロンズソードを握り直し決意をあらたにするが、グリーンスライムが上に伸びいままでにない行動をとった。
新しい攻撃と思い身構えたとグリーンスライムが俺に覆い被さるように倒れてきた。
サイドステップで避けようとするが間に合わない。苦し紛れで攻撃すると、そこでやっとグリーンスライムは煙になった。
「危なかった。なんなんださっきの攻撃は。まるで俺を取り込む感じだったが……」
そう口にしたとき背筋がゾッとした。
HPのダメージもあるが俺がこの1番に思いたったのが窒息死だった。
都合よく頭だけ出してくれるわけないよな。
あの攻撃だけは喰らわないようにしよう。
【バイセクト】を使った状態の通常攻撃だけなら9発もかかってしまった。しかもドロップはしなかった。
「今度は魔法のスキルを使ってみるか。そういえばまだ1回も使ったことなかったな。手でも向ければいいのか?」
よくわからないがスキルは持っているからなんとかなるだろう。
【サーチ】で1体しかいない魔物の所に行くとまたグリーンスライムだった。
「レベルも一緒だし比べるならもってこいだな。くらえ【フォトンブラスト】!」
剣を抜かずにグリーンスライムの前に立ち、手を前にかざし魔法を唱えるが何も起こらない。
「まあ想定内だな。おそらく上位クラスの魔法だし」
俺が持っている魔法は上位クラスの魔法使いからコピーした物だから、消費MPが多いのだろう。
つまり今の俺ではMP不足で使える魔法は少ない。
「なら【ファイアーボール】」
俺が持っている中で1番消費MPが少なそうな魔法を唱える。
するとかざした手から掌サイズの火の玉が現れ、グリーンスライムに向かって飛んで行く。
ファイアーボールを受けたグリーンスライムは炎に包まれた。
「おお、これが魔法か。消費MPは【バイセクト】より少ないな。これならレベルの低い魔法使いでも何発かは打てるなって怖っ!」
魔法の感想を言っているとグリーンスライムが熱さを感じないのか、炎を纏った状態でこちらに近づいて来る。
まだ距離はあるがあんな状態で体当たりは喰らいたくないので、2発【ファイアーボール】を当ててグリーンスライムは煙になった。
「【ファイアーボール】3発で倒せるのか。これなら魔法の方が楽だな。お、レベルも上がってる」
ステータスを確認するとLv3に上がっていた。
だが★は付いてないのでまだクラスアップは出来ないみたいだな。
そして煙が消えドロップしていることに気づく。
茶色で10センチ程の正方形のブロックがあり、【鑑定】で見てみると肥料だった。
「スライムが肥料をドロップするのか。成分的な何かか? ……いや、こうしたものは考えたらダメなやつだ。そんな事言ったらドロップ自体いろいろおかしい。そういうものと思うべきだ。うん。」
肥料のブロックはそこそこ硬いので、そのままリュックサックに放り込み先に進む。
散々歩き回った結果、この1階層ではグリーンスライムしかいないようだ。
あれから5体グリーンスライムを倒したがドロップは2回しかしなかった。
「【サーチ】で魔物の場所はわかるんだけどな。それだけだと効率がよくないな」
そう【サーチ】のスキルでわかるのは人やまだ魔物の場所だけ。ダンジョンは迷路のように入り組んでいるため、場所だけがわかっていたとしても行き止まりだったり、行きたい方向に道がなかったりで上手くいかないのだ。
「もう今日はやめにして明日にしよう」
来た道は覚えているのでその道を戻り帰ることにする。
下手に方向だけで進むより手っ取り早い。MPを回復させるために休み休み進む。
途中でグリーンスライムが2体いるのを見つけ、計6発の魔法を連発して倒し、2体共ドロップした。
ドロップ率が上がっているのかいまいちわからん。
ダンジョンから出てから振り返り、ダンジョンを見る。
「今日の成果は肥料が5つにLv1上がったぐらいか。こんなんで大丈夫なのか? 依頼も文字が読めないと内容もわからないしな」
「おい。そこのおまえ」
俺が今後の事を考え物思いにふけっていると、後ろから声がしたので振り向くと男が三人いた。
周りには誰もいないので俺に言ったのだろう。
「悪い、邪魔だったな。すぐに」
「いや。よかったら俺らのパーティーに入らないか」
退くと続ける前に真ん中にいたノッポの男が言葉を遮った。どうやらむこうは俺がこれからダンジョンに入ると思ったらしい。
「おまえ冒険者になりたてだろ。俺らもまだ初心者だから1人でもパーティーに欲しいわけよ。だから一緒に行った方がお互い安全だと思うぜ」
ノッポの男は笑いながら提案してきた。後ろのチビとデブの2人も笑っている。
初心者ね。30代後半のおじさん3人がその年齢で初心者なんて……、場合によってはあるかもしれないが、この3人は違う。
【鑑定】で見ればすぐにわかる。
ノッポはソルジャーLv11、チビはヒーラーLv8、デブはマジックユーザーLv10だった。
ベテランとは言えないが少なくとも初心者ではない。
装備品は初心者用の安っぽい装備だったが、デブのスキルに気になるものがあった。
「わかった。俺も1人だったから丁度よかった」
俺はコイツら魂胆がわかったが【スキルコピー】はパーティー内にしか使えないのでパーティーには入る事にする。
俺は送られてきたパーティー申請に同意しつつ、パーティーを抜ける言い訳を考える。
「それじゃあ、俺が先頭を進むからちゃんと後ろからついて来いよ」
ノッポが先頭に進み、次に俺が進むように配置される。
前にノッポ、後ろにチビとデブで挟まれる配置だ。
スキルもコピーさせてもらったので、パーティーを抜けるなら早い方が良さそうだ。
「あ、ヤッベ‼ 道具に買い忘れがあったの思い出した。悪いが今日は止めとくわ」
「おいおい待てよ。こいつはヒーラーなんだ。攻撃を受けても回復できるから心配いらねーよ」
ノッポが俺を引き止めようとするが聞く気はない。
「冒険者の心構えを教えてくれた人は絶対準備は怠るなと言っていたからな。それにお前等も初心者なんだろ。なら用心に越したことはない。今日は止めとく」
言うだけ言って俺はチビとデブを避け、走ってダンジョンを出てから、そのまま振り向くことなく全力で走り続ける。その時場所がわからないようにパーティーからも抜けておく。
森を抜けようとする頃に振り返り、奴等が追って来てないことを確認する。
「どうやら撒いたようだな。しかしあんな奴等もいるなら余計に気をつけないとな」
あの人はおそらくプレイヤーキラー。通称PKだ。
他のプレイヤーを攻撃して倒し、所持品を奪うプレイヤーのことだ。
だが、俺の所持品で価値がありそうなのは右手首に着けている牙の腕輪ぐらいだ。
もしかしたらオンラインゲームでも初心者を狙う愉快犯がいるが、そういう類いの奴等だったか。
まあいい。ダンジョンにも行けたし宿屋に帰ろう。試したい個別スキルもあるしな。
俺はダンジョンを出て感じた不安はなくなり逆にワクワクしながら宿に帰った。