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カルガモ亭と防具

「ここか」


 途中で人に聞いてカルガモ亭の前までやって来た。

 宿は思ったより大きく、3階建てで屋根に瓦が敷かれていた。

 木の看板にはカルガモが彫られている。文字が読めないから分かりやすくて助かった。


 エリカ 24歳 女

 村人Lv12★


「いらっしゃいませー。食事ですか? それとも泊まり?」


 中に入るとフロントにいた女性が聞いてきた。

 茶髪のサイドポニーでつり目気味な活発そうな女性だ。


「泊まりだが長期の滞在はできるか?」

「できるよ。前払いで朝昼晩の食事付きで一日銅貨50枚。今日のは食事付きで銅貨35枚だよ」

「なら、とりあえず7日で頼む」

「1週間ね。え~と、合計で銀貨3枚と銅貨35枚よ。銀貨がなかったら銅貨335枚ね」


 なるほど銅貨100枚で銀貨1枚か俺は銀貨3枚と銅貨35枚をカウンターに置き料金を払う。

 7日で1週間はこちらでも同じのようだ。


「食事は1階の食堂で母が作ってるからそこで食べてね。頼めばお弁当にもしてくれるから」


 鍵を渡され食堂の場所を教えてもらう。まずは昼食を食べよう。

 食堂は横長のテーブルが4つに椅子が6つずつあり、客と厨房を分けるカウンターの下には文字が並んでいた。

 俺には読めないがたぶん料理のメニューだろう。


「お客さん、なににする?」


 リサ 43歳 女

 村人Lv18★


「…………」


 奥から40代の女性が出てきたのだか、見た目があきらかに40代ではない。

 フロントにいた女性の姉ぐらいにしか見えないが【鑑定】で年齢までわかるのだ。

 実年齢は40代なのだろう。


「どうかしたの?」

「えと、フロントにいた娘の母親がやっていると聞いていたんだが思ったより若かったから少し……いや、かなり驚いた」

「あらいやだ。そんな事言われるとおばさん嬉しいわ。御飯の量サービスしてあげる」


 頬に手をあて娘と同じ茶髪のポニーテールを揺らしながら嬉しそうに答える。

 しゃべり方や仕草はやや年齢を感じるがそれでもこの人が一児の母には見えない。

 俺は文字が読めないのでオススメを頼んで椅子に座り待っていると料理がカウンターに置かれた。取りに行くついでに俺がこの宿にしばらく滞在すると伝えたら自己紹介をしてくれた。

 名前は【鑑定】でもう知っているけど。


「私はリサ。このカルガモ亭のオーナーなんだけど娘のエリカが大きくなって宿の経理関係はあっちに任せっきりでね。今は料理専門になってるね」

「リサだけなのか。父親はどうしたんだ」


 ふと疑問が浮かんだので俺は何気なしに聞いてしまった。

 リサは俺の言葉に顔を伏せた。


「旦那は冒険者でね。2年前に出かけたっきり戻って来ないのよ」

「……それって」

「冒険者ってのはいつ死んでもおかしくないからね。しょうがないって割り切らないと冒険者の妻はやっていけないわよ」


 リサは無理に笑顔を作り強がりながら言った。

 この世界がゲームならばHPを回復させる薬やHPが0になっても復活させてくれる教会やら薬があるはずだ。

 そういう設定なんだろう。


「ごめんね。食事前にこんな湿っぽい話しちゃって」

「こちらこそ変な事を聞いた。俺も冒険者になったばかりだから肝に銘じとく」


 気にしなくていいと伝え、料理をテーブルに運び食べ始める。

 料理は白米とハンバーグに野菜を刻んだサラダ、ベーコンと葉物が具のスープだ。

 昨日の宿でも料理は出た、食べ物はそんなに違いはない。

 だが化学調味料などが使われていないため少々薄味だったがここの料理は素材そのものの味を生かしているのかそれでも十分美味しかった。

 気づいたらあっと言う間に完食していた。


「ごちそうさま。久しぶりに美味しいと思える料理を食べたよ」


 家では親ともなるべく会いたくなかったので、リビングに親が居なくなった後に冷めた料理を食べたり、インスタントラーメンなどで済ませるのが日常になっていた。

 だから本当に料理を美味しいと感じたのは久しぶりなのだ。


「本当に。そう言ってもらえると作った甲斐があるわ。今晩も美味しい料理を作るわね」


 リサに礼を言い自分の部屋に行く事にする。

 晩飯も楽しみだ。


 客が泊まる部屋は2階と3階にあり6部屋ずつある。

 俺の部屋は2階の1番奥になった。

 もらった鍵にはなにやら文字が書いてあり、その文字と同じ文字のプレートが扉に付けられている。部屋番号らしい。

 鍵を開け部屋にはベッドの他にクローゼットや机と椅子もあった。

 リュックサックから買ったもう1着の服とジャージを出しクローゼットにしまい、リュックサックの中を空にする。


「ダンジョンに行く前に防具屋に行ってみるかな」


 服屋には靴は売っておらず靴だけこの世界感にあってない。

 聞けば靴は装備品になるらしく防具屋で売ってるようだ。

 今の靴はレアアイテムと言えばいいだろうがそれでも防具屋は見ておきたい。


「あ、外に出るなら鍵は預かるわよ」


 部屋の鍵を閉め、宿屋を出ようとするとエリカが声をかけてきた。

 あたりまえか。鍵を持って外に出て魔物に襲われてやられたらが鍵がなくなるわけで。そのための措置だろう。

 エリカに鍵を預け外に出て、大通りを歩きながら防具屋を探すと武器屋と防具屋を見つけた。

 武器屋の看板は剣、防具屋の看板は鎧が描かれていてとてもわかりやすかった。

 防具屋に入り店内を見て回る。

 店内には革や金属で作られた鎧等が所狭しに置かれているが装備箇所で分けられている。


「いらっしゃい。何をおさがしで?」


 足装備の場所を見ていると店のおやじが聞いてきた。


「足の装備品で1番安いのはどれだ」

「1番安いやつは銀貨5枚でサンダルだな。その次が銀貨8枚のシューズだ」


 おやじは最初に紐で足自体を縛るタイプの靴を出し、その次に皮で作られた足を包むタイプの靴を出してきた。


「サンダルは大丈夫だろうがこのシューズは走っているときに脱げないか?」


 サンダルは足を縛るから多少サイズが違ってもいいだろうが、シューズは走るとすっぽ抜けそうだ。


「なに言ってんだ? 防具は装備したらその人物の身体に合うように作られているから大丈夫だぞ」

「……そうだったな」


 なるほど防具はそうゆうふうに出来ているのか。


「胴体の装備で安いやつはどれだ」

「胴体のはこの皮の鎧だな。銀貨12枚だ」


 鎧と言いつつ胸当ての部分しかないのだが。

 しかも足装備にくらべて結構高いな。


「ならそれとシューズをもらおう」

「まいどあり」


 代金を払い皮の鎧とシューズを受けとる。金がだいぶ減ったな。

 今履いている靴を脱ぎシューズを履いてみる。

 すると俺のサイズより大きかったシューズがなぜか俺のサイズに合うように縮んだ。皮の鎧も同様だ。

 これらにも魔法とかが使われているのだろうか。

 脱いだ靴をリュックサックに入れダンジョンに行くため町の門に足を向けた。

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