突入と組み合わせ
「よっと」
土壁が屋根まで着くと伸びるのが止まり屋根へと跳び移る。
「場所的にこの窓の部屋に2人がいるけどひとまず中の様子を窺ってみよう」
屋根の縁を掴み逆さの状態で部屋の中を見てみる。
部屋には見た目が派手な置物や絵の他に机もありここはマケオーンの執務室のようだ。その部屋の中央に縄で縛られたタマキさんが床に座らされていた。そのタマキさんの前に立ち見下ろしているおかっぱ頭で小太りのおっさんがマケオーンだ。金ピカで悪趣味な服装をしておりゲスな笑みを浮かべながらタマキさんを見ている。
「うぇっへへへ。いい加減この契約書にサインした方が楽になれるぞい」
「ふんっ! 誰がそんなモノにサインするか! 読んでないけどわかる。絶対碌でもないことしか書かれてないだろ!」
「うえっへへへ。なに。ただの労働時間と給料のことが書かれてるだけぞい。なんならベットの上での仕事も追加してもいいぞい。言葉は汚いが顔は整ってるしいい身体をしているから妾にしてやってもいいぞい」
うえっへへへと笑いながら舌舐めずりするマケオーン。典型的な悪役ムーブだ。
「相手役に異議があるがシチュエーションには興奮するな。主よ、いつかあのようなプレイをしてくれないか?」
フィアがどうでもいいことを口走っているがエルは眉間に皺が寄ってる程度だが他の2人はマケオーンを嫌そうに見ている。
今すぐ突入するべきか。部屋の前に護衛らしき2人がいるから窓を割って突入したらすぐにバレるだろう。その2人を戦って無力化できればいいが最悪仲間を呼ばれたら面倒だ。
「キッッッショ! オマエなんかの妾なんぞに誰がなるかい!」
「ふうむ……。もう少し自分の立場を解らせた方がいいぞいか」
「な、なにするつもりだい」
「なに、最近いい薬が手に入ってな。全身性感帯になり感度も何倍にもなる薬ぞい。まあ、前に使った女は快感で頭が狂ったのか面白くなくなったがいい性奴隷としていい値で売れたぞい」
何だそれ? 1000倍にでもなるのか? 気にはなるがそうも言ってられない状況のようだ。
「みんな突入するぞ。部屋の外に護衛が2人いる注意してくれ」
屋根の縁を掴んだまま体を投げ出し遠心力を利用して窓を蹴破る。窓は大きな音をたてて割れガラスの破片が部屋に無数に散らばる。
「な、何者ぞい! 護衛! 護衛早く来るぞい!!」
「アンタは……」
タマキさんが人質になる最悪の状況を避けるため突入後すぐにタマキさんの前に立つとマケオーンは扉の方に走り出し外にいる護衛を呼び出した。
「なんだ。大声を出すからどんな奴かと思ったらガキじゃねぇか」
「でも女は上玉が揃ってるなー。殺すには惜しい。ダンナ、コイツ等俺等の好きにしていいかー?」
部屋に入って来たのは体のゴツい男と槍を持った体の細い男の2人だ。2人は俺達を見るなり格下と決めつけ嘲笑っている。
「好きにしろぞい。だから早く始末するぞい」
「ヘイヘイ」
雇用主のマケオーンの了承を得た2人は戦闘態勢に入る。が、いちいちそれを待ってやる必要もない。
「【アースウォール】」
体の細い男の頭上から土壁を伸ばし床に押さえつけようとしたら男に当たる前に土壁が消えた。
「おっと、俺に魔法は効かないぜー」
ニヤリと自信の装備品の能力に勝ち誇りながら男が笑うが俺には想定内の事だった。
ドロフ 村人 Lv21 男
武器 火遠槍
防具 魔法無効の腕輪
スキル 俊敏【小】
【火遠槍∶火の玉を出す事ができる】
【魔法無効の腕輪∶自身を対象とした敵の魔法を無効化する】
【魔法無効の腕輪】のアイテムで魔法は効かないのは知っていたがその範囲を調べるためにあえて魔法を使った。見たところ当たる寸前まで魔法が消えなかったので単体魔法なら気にする事でもないようだが範囲魔法なら周りも攻撃しようにも無効化されて意味がなくなる。
なら体の細い男から無力化すればいいのだがもう1人の男がそうもさせてくれない。
バルイ 村人 Lv27 男
武器 鉄壁のガンドレッド
防具 守護のお守り
スキル 鉄壁【中】
【鉄壁のガンドレッド∶装備者の防御力を上げる】
【守護のお守り∶装備者の受けるダメージを減らす】
見た感じゴリゴリの近接戦闘型。しかも防御力を上げてダメージカットのおまけ付きだ。
攻撃もできる盾役で後方から遠距離攻撃をしてくる魔法キャンセラー。悔しいがいい組み合わせだ。でもクラスが村人で攻撃スキルがないのが致命的だ。これなら槍のスキルに注意していれば苦戦はしなさそうだ。
「カノンはタマキさんの護衛。エルとフィアは俺と一緒にこの2人を無力化するぞ」
「わかりました。タマキさんこっちに行きしましょう」
カノンがタマキさんを連れて部屋の角側へ移動し自身が前に立ち盾を構える。これなら死角もなく前にだけ集中できるし俺達の戦闘に巻き込まれにくい位置だ。
「あの2人冒険者ではなさそうだが場数を踏んでそうだ。主は何か策はあるか?」
「策って程のものでもないけど1対1に誘い込もう。俺はガンドレッドの男と戦うから槍使いはフィアに任せていいか? 魔法を無力化するなら魔法が使えないフィアなら関係ない。エルも槍使いに魔法が撃てそうなとき撃ってくれ」
「……魔法効かない」
「それでもいい。相手の気が逸れて隙ができたらめっけもんだ」
「……わかった」
「そろそろいいか?」
ゴツい男が両拳を打ち合わせて聞いてくる。こっちが指示を出してる間動かなかったのはどうやら待ってくれていたようだ。どう動くか様子見しつつ指示を出していたが意味がなかったか。
「ああ、さっきも言った通りサシでやらないか?」
「いい度胸じゃねぇか。おもしれぇ、ドロフ! それでいいよなぁ」
「問題ないなー。むしろ願ったり叶ったりだー。いい女が泣き叫ぶのを見るのが1番の至福なんだー」
体の細い男はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながらフィアとエルを見る。
「ほう、できるのならばやってみるがいい。だが後悔しても知らんぞ」
「……ぶっとばす」
敵の挑発を流しつつフィアは自分の得意な間合いに移動している。エルもフィアの後方位置にいて魔法を撃つ機会を狙っている。
「おらぁ! 余所見ばっかりしてんじゃねーよ!」
「おっと」
エルとフィアの方ばかり見ていたらゴツい男が殴りかかってきたので避ける。さすがに向こうが終わるまで待ってはくれないか。剣を抜き戦闘態勢に入る。
相手の武器はガンドレッドだ。長物の武器で懐に入られたら防戦一方になってしまう。それなら近付く前にたたっ斬るまでだ。
「【エアースラスト】」
斬撃を飛ばす剣の付与スキルを放ち俺も斬撃に追従し剣を振る。
「おらぁ!」
ゴツい男は【エアースラスト】の斬撃を右アッパーで軌道を逸らし追撃する俺を左手で殴りかかってきた。
「くっ!」
俺は咄嗟に剣の向きを変えて剣の腹で拳を受け流す。拳を受け流したためゴツい男は体勢を崩したので剣の柄で殴ろうとするが相手も体を回転して裏拳を当てに来た。
「ほう。これも躱すか。思ったより楽しめそうだ」
ヤバイ。コイツかなり場馴れしてる。攻撃スキルはないがコイツ自身の戦闘センスもかなり高い。裏拳もバックステップで避けたがかなりギリギリだった。
「これだけ動けるのにどうしてこんなクズのお守りなんてやってるんだ?」
「く、クズとは私のことぞいか! バイル早くそのガキを叩きのめすぞい!」
マケオーンを親指で指しながら聞くとマケオーンは顔を真っ赤にして地団駄を踏みながらゴツい男に命令する。
「はあ。俺も好きでダンナの護衛をしてる訳じゃねーよ。オマエが思ってるより人生上手くいかねーモンだ。……無駄話もここまでにするか」
ため息をつきながら何やら意味深なことを言うが直ぐに戦闘態勢にはいる。




