命令の抜け穴と剣の相手
ダンジョンを後にして俺達は魔物に襲われる事なく首都に帰還した。
「では査定しますので少々お待ち下さい」
「それとこの人のクラスアップもお願いします」
ギルドへ行きクエストの白い皮5枚の納品と卵、レイピア以外のドロップアイテムの売却、バングさんのクラスアップを頼む。
「この方は奴隷のようですが?」
「構いません。お願いします」
「わかりました。こちらへどうぞ」
受付の人はバングさんの首元を見て訝しんだ様子だったが俺が再度言うと諦めたように案内した。
「坊主もよく奴隷なんかをクラスアップさせようと思うな。俺ならしねーぞ」
「なんでです? 奴隷でもクラスアップさせればスキルも覚えれますし戦力向上をするならこれが早いじゃないですか」
「もし後ろからその奴隷に襲われたらどうするんだ? 奴隷には犯罪を犯した奴もいる。主人を殺して逃げ出そうとする奴だってきっといるぞ。だからクラスアップは戦力は上がるだろうが同時に自分の命も危険に晒すって事だ」
「なるほど」
それでもジェイルさんはバングさんへのクラスアップを許してくれた。それ程切迫してたのかただ単に俺が嘘をついていると思っていたのかは知らない方がいいな。
「でも首輪の効果で主人の命令は絶対なのでは? それで主人への攻撃は禁止すれば」
「そういうのにも抜け穴があってな。目を閉じていれば効果がないんだよ。なんか理由があったみたいだが俺には難しくてよくわからん」
「たしか奴隷が認識できない命令には効果がないだったか。読めない文字を読みという命令には従えないっといったようにな」
出来ないことを命令されても出来ないのなら意味はない。なら目視出来ない主人を攻撃しても自分が攻撃したとわからなければいいといった具合か。
かなり無理矢理過ぎるな。でもそれができるなら問題は奴隷の首輪にあるんじゃないのか?
「戻りました」
バングさんが戻って来たのでこの話は終わりにする。下手にこんな話を聞いてふとした時行動されても困るからな。
バング男
ファイターLv1
スキル【孤立奮闘】【剛腕(小)】
戻って来たバングさんのクラスはファイターになっていた。最初にあったガルドさんのクラスがウォーリアだったから順調にクラスアップできればウォーリアになると思う。
「それではこちらが買い取りのお金になります。それとクラスアップに銀貨5枚になります」
受付の人から金が積まれたトレーと空のトレーが出された。
「銀貨5枚ですか? 俺の時は3枚でしたよ」
「はい。ギルド登録者なら銀貨3枚ですがこの方はギルド登録者ではなかったので銀貨5枚です」
そういう事は始めに言ってほしかったんだけど。まさかそのための確認だったのか?
それに1回目のクラスアップは銀貨3枚だったのに2回目のクラスアップは銀貨5枚だった。段々と値上がりしてるんだよな。
「ジェイルさんこの際バングさんもギルド登録しませんか?」
「そうだな。仮に俺のだけじゃあギルドランクが高くてもシールダーだからって鼻で笑われそうだ。バングお前も登録しとけ」
空のトレーに銀貨を置くとすぐにトレーは戻されかわりにギルド登録の紙が出された。
バングさんも文字が書けないようなので代筆を頼んでいる。
その間に売り上げ金を6人分に分けて渡す。
「ん? なんか俺の取り分多くねーか?」
「それはバングさんの合わせての取り分です。バングさんは奴隷なので主人であるジェイルさんに渡すのがいいですよね」
「いいのか?」
ジェイルさんは目を丸くしながら皆を見た。
「ハルキさんですから」
「……気にしない」
「さすが私が決めた主だ」
よくわからないやり取りをする4人に首を傾げるしかできない俺であった。
「終わりました」
バングさんは手にギルドカードを持ってこちらに来た。当然ランクは1番低いGランクだ。
「そういえば坊主達のランクはどのくらいなんだ? 今日の戦闘を見て3人共2回目のクラスアップもしてるようだし結構上の方じゃねーのか?」
「あー、俺とカノンはEランクでエルはGランクです」
「「E!」」
俺の返答にジェイルさんもフィアも驚く。
「あそこまで戦えてまだEって! しかも嬢ちゃんはバングと同じGって!」
「おかしい! 主達ならCくらいあっても良いくらいだ!」
2人共俺に詰め寄ってくる。しょうがないクエストをせずにダンジョンでひたすら魔物を狩ってドロップアイテムを売ってただけなのだ。
「それと私がEランクに上がったのは山賊の討伐のクエストをハルキさん1人で片付けたのですが一緒のパーティーにいた私もFランクを飛ばしていきなりEランクに昇級しました。だから私も実質Gランクです」
カノンが補足を入れてくるがそれは火に油を注ぐようなものだ。余計に2人が詰め寄って来た。
「冒険者にとってランクは大事なんだ! ランクが上がれば難しくはなるが高額な報酬が手に入るんだぞ!」
「それにギルドからの信用にも繋がる! 指定のクエストやギルドが保有する情報を教えてくれたり、こちらが欲しい情報を探してくれたりいい事が多いのだ!」
ジェイルさんとフィアがランクの昇級による利点を教えてくれるが、いかんせん距離が近い! なかなか頭に入って来ない。
「わかった! わかったからちょっと離れよう!」
そう言い2人の頭を鷲掴みにして一旦距離を取る。
2人の言い分も分かる。高ランクは複数の多種のクエストをこなし試験により実力も評価して上がるものだ。難しいということはそのまま死に直結する。そんなもの経験の浅いランクの低い冒険者には任せられない。
必然的に高ランクの冒険者に危険なクエストを任せるしかない。そのためギルドによる高額報酬、情報提供などによる高ランクへの利点でなるべく多くの冒険者が高ランクになるよう促す目的なのだろう。
「はあ、ランクは毎日コツコツとクエストをするとして明日はどうしますか? 俺は今日と同じダンジョンへ行く予定です」
「もちろん私の同行する」
「俺もだ。坊主達はもちろん俺やバングもランクを上げないといけねーからな」
「では朝ギルドに集合でいうことでいいですか?」
皆同意見のようなので明日もこのパーティーで行く事が決まった。
ジェイルさんとバングさんは泊まってる宿があるらしいので早々に帰っていったがフィアがなかなか帰ろうとしない。
「ずるい! ずるいずるいずるい! 何故カノンとエルは主と一緒で私だけ別々なのだ!」
「別々と言うか長い間宿を自分で取ってたのならそっちの方がいいんじゃないのか?こっちはまだ最低限の家具しかないぞ」
「それでもいい! 私は主のペットなのだから主は私を養う……いや、私が主を養うのだ!」
「訳のわからん事を言うな。それにペットとも認めてないぞ。なんでそんなにこだわるんだ?」
「もちろん主の寵愛を受けるため! 私も主をお慕いしているので嫁の1人に加えてもらいたいのです!」
寵愛? 嫁? は? フィアの目には俺達がどう見えているんだ?
よくわからないがこの誤解を早急に正さないと何されるかわかったもんじゃない。
「カノン、エルどうする? コレ住まわすまで絶対めんどくさいやつだぞ」
「……同意。……殺る?」
そう言いながらエルが親指で首の前を横に引くジェスチャーをする。それこっちでも通用するんだ。
「エルさん物騒な事を言わないでください。私はハルキが決めるべきだと思います」
「俺?」
「はい。家主はハルキさんですし、もし嫌がられても……ハルキさんが強く言えば自己完結して黙ってくれるはずです」
カノンは少し間を開けてはぐらかして言うが変な妄想で勝手に納得して終わるといった感じだろう。
今までの行動を見ていたら想像するのも容易だ。
「フィア、お前がどういう妄想をしているのか知らないが1つ条件をのむなら一緒に住んでもいいぞ」
「わかった。夜の相手はまかせてくれ」
条件を勝手に決めるな。いやある意味ではあってるけども。
「夜じゃなくて朝に相手をしてもらおうと思っている」
「ハルキさん」
「……ご主人様、大人の女がいい?」
おっと、話の流れで俺の条件が卑猥な話に聞こえるな。
「違う。フィアには剣の相手をしてもらうつもりなんだ」
「剣の相手ですか?」
「……なんだ」
「主私は夜の相手もいつでもウェルカムだ」
魔物の相手だけじゃなくて対人の戦闘もしないといけないと思っていたところだ。魔物は直線的でやりやすいが対人は搦め手や駆け引きも重要になってくる。
その勘を鈍らせないためにフィアに剣の相手をしてもらう。カノンは盾役で攻撃を練習するときはいいんだけど守備の練習ではちょっと心持たないしエルはそもそも前衛に出る必要がないから練習する意味がない。
なら同じ剣を使うフィアが適任だろう。そんなワケで朝に剣の相手をすることを条件にフィアが家に住む事となった。
奴隷は主人の持ち物なので奴隷への報酬は発生しませんがそのことをハルキは知りません。




