ホーンラビッとミッタークコッコ
しばらくして中のパーティーの戦闘が終わり前に並んでいたパーティーがボス部屋に入っていった。これでイライラが収まるかと思ったが後ろに来たパーティーも2人を見ながらヒソヒソ話をしている。しかもそれが丸聞こえなんだよ。
シールダーなんかが2人もいるぞなどこのパーティー終わったななど好き勝手言ってくれる。
「おい、そこのお前達いい加減鬱陶しい。黙れ」
フィアも我慢の限界だったのか後ろの連中に睨みながら言う。
「まったく。私に向かって言うならまだしも他の者に向かって言うのは我慢ならん」
「そっちかよ」
怒ってる理由がズレているがこれで後ろの連中も黙るだろう。
「あの人って……」
「いや気の所為だろ……」
「でも……」
連中がまたヒソヒソ話を始めたがカノン達のことじゃないっぽいので放っておこう。
ボス部屋の戦いが終わるまでそこそこの時間がかかった。6対1なのにここまで時間がかかるのはやはり相手のスピードについていけず碌にダメージを与えられないからみたいだ。
「ボス部屋に入ったらフィア以外はその場で待機。フィアは好きに戦ってくれ」
「はい」
「……ん」
「了解した」
「わかった」
「ウッス」
みんなそれぞれ頷くのを確認してボス部屋へ入る。
部屋に入ると黒い霧が集まり額に角が生えた白兎が現れた。
ホーンラビッ Lv10
スキル【跳躍】【衝撃波】
【衝撃波】
【直線上の相手との距離で威力が変わる遠距離攻撃、使用者を中心とした範囲攻撃の2種類使い分けができる】
ホワイトラビッが持っている【跳躍】のスキル以外に【衝撃波】を持っている。能力的には真っ直ぐにしか飛ばない【ブリューナク】と【クラック】2種類のスキルが使えるようなものか。
ホーンラビッがホワイトラビッと同じスピード系ならそこまで攻撃力が高くはないはずだ。でもそんなことは考えずにフィアならゴリ押しでいくな。
「さあ! 思う存分私に攻撃してくれ!」
フィアはあろうことか両手を広げてホーンラビッの前に立った。わざと攻撃を受けるとはわかっていたがここまでわかりやすいとは思わなかった。
「おい、坊主あれは流石に助けに行ったほうがいいんじゃねーか?」
「大丈夫ですよ。それに彼女まかせてもいいかと聞いたとき無論って自信満々に言ったんです。なら信じましょう」
そんなことを言っている間にホーンラビッが角をフィアに向けて突っ込んできたがフィアはその攻撃を避けるそぶりもせずにそのまま腹で受けた。
フィアには【不撓不屈】のスキルでHPが減れば減るほど攻撃力が上がる。だからこの行為は前準備みたいなものなのだろう。
「はぁ……はぁ……。さあ! もっとだ! もっと私に攻撃をしてくれ〜!」
違うわ。これアイツがただ単に痛みが欲しくてやってるだけだわ。
頬を染め、涎を垂らし、息を荒げながら攻撃を受けているフィアは嬉しそうでこれがボス戦なのか疑いたくなるような緊張感の無さだ。
「ハルキさんアレは止めなくていいんですか?」
「……時間の無駄」
「気持ちはわかるがここは我慢しよう」
何度も何度もこうを受け続けるフィアに痺れを切らしたのかカノンが進言しエルもそれに続く。
カノンやエルの言いたい事はわかる。さっきのジェイルと違い心配より呆れからくる発言だ。
わかる。わかるよ。でもここでフィアに蹴りでもいれたらHPが危険ラインに入ってしまうかもしれない。……別にいいか。
「【スラッシュ】!」
フィアの1撃でホーンラビッは霧となり消えた。
チッ、不穏な気配を読んで早目に片付けたようだ。それにしても1撃か。さすがは腐ってもBランク。
「なにやら失礼なことを考えていないか主よ」
「気のせいだろ」
「そうか……。その時はぜひ口に出して言ってくれ! 私は主の全てを受け入れよう!」
「ボスも倒したことだし3階層へ行くぞ」
フィアの言葉を無視して俺達は次の階層に進んだ。
「称賛なんかより無視して先に進むなんて私の扱いをわかっているな。さすがは主だ」
3階層に来たがここでは本来の目的である素材の1つ卵がドロップする階層だ。ドロップ率の高い俺がとどめを刺した方がいいか。
「卵をドロップする魔物はモルゲンコッコです。大きな鳴き声で威嚇してきます。それに嘴と足の爪で攻撃してくるので気をつけてください」
カノンの説明を聞きつつ通路を進む。この階層にもチラホラと人がいるので鉢合わせないように進みながら魔物の位置まで行くと赤いトサカに白い羽毛した普通よりひと周り大きい鶏がいた。
モルゲンコッコ Lv5
スキル【マリシャスハウル】
【マリシャスハウル】
【鳴き声による範囲攻撃。稀に相手を動けなくする】
動けなくなるスタン効果がある範囲攻撃か。今回は1体だけだが複数による波状攻撃なんてされたらハメ技になりかねないぞ。今までの戦闘で魔物のスキル発動率は低いみたいだが楽観視はできない。さっさと倒してしまおう。
「【バイセクト】【スラッシュ】」
攻撃力アップのバフをかけての攻撃スキルによる横薙ぎ1撃で倒せた。モルゲンコッコは黒い霧になりモルゲンコッコの場所には卵が1つ落ちていた。極々普通にスーパーなどに売ってある鶏卵だ。
「そういえば卵って生で食べた事ある?」
「えっ!? 卵は普通火を通さないと食べません。そうじゃないとドロドロで食べづらいんです」
「つーか逆にそれ以外の食べ方なんてあるのか?」
「……聞いた事ない」
卵を拾って気になった事を聞いてみたらみんな首を傾げている。日本では卵かけご飯など卵を生で食べる事があるがこちらではあまりないようだ。海外の卵ではサルモネラ菌で生では食べれないとネットで見たことがある。
「そうか。でもお腹を壊したりしてなかったら食べても問題なさそうだな」
「はっ! その生の卵を私に食べさせて口の端から出てきたドロドロを見て視姦す「するわけねーだろ!」痛いっ」
フィアが言い終わる前に頭をひっぱたき黙らせる。
叩かれて喜んでいるフィアを見ないようにして次のモルゲンコッコの場所まで行くことにする。
「なんだかんだ言いつつあの2人気が合ってるのでは……」
「……むう」
その後もモルゲンコッコを狩って卵を集めていった。数も50は越えたあたりでフィアがそろそろ帰るべきだと声を上げた。
「帰路でも魔物との連戦があるかもしれないしその後もギルドでの買い取りやクラスアップもあるのだろう。早目に切り上げた方がいい」
フィアはバングさんをチラリと見た。
バングさんのクラスはまだ村人のままだ。このままレベルを上げてもスキルは覚えないだろうし今からでもクラスアップをするべきだ。でも当初の目的は卵と牛乳の入手だったはずなのにその内の卵しかまだ手に入ってない。
3人のパーティ加入による連携の修正やらジェイルさんの戦闘方針見直しやレベルアップなどで大幅に時間を食ってしまったのが原因だ。
まあ、後ろ2つは自分から首を突っ込んだ結果だから自分に否がある。
日が暮れてからの帰路は危険なのはわかっている。目先の利益よりパーティメンバーのことを考えれるフィアはいいリーダーになれると思う。
「わかった。この階層のボスを倒して今日は帰ろう」
ボス部屋を最短距離で行けるルートを選んで進み、道中の魔物も難なく倒してボス部屋前まで来た。
「3階層のボスはミッタークコッコです。モルゲンコッコと同じ鳴き声での攻撃と稀に爪での強力な攻撃をしてくるようです」
「今回は全員で戦う。カノンが相手の注意を引いてるうちに他の皆で攻撃。強化をしたら1人1発ずつ当てれば倒せるよな?」
かなり大雑把な作戦だからフィアの方を見ながら問題ないか聞いてみる。
「道中でほとんど自己強化なしで苦戦しなかったのだ。ただ主だけで戦っても大丈夫だと私は思う」
「まあボス戦だしな」
「前の階層ではフィアさん1人でしたが?」
「それは高ランクの冒険者の実力を見ておきたかったからだ。カノンも参考に……ならなかったな」
フィアの戦い方は独特過ぎてマネしたくない。
でも初めての6人フルパーティなんだ今まではバラバラで戦っていたけど最後ぐらいは全員で戦ってみたい。
「それじゃ行くか!」
最後にみんなを見てから扉を開ける。中に入ると黒い霧が集まり茶色の羽毛をしたモルゲンコッコより大きな鶏が現れた。
ミッタークコッコ Lv15
スキル【マリシャスハウル】【シャープクロウ】
【シャープクロウ】
【爪による鋭い攻撃】
脅威になりそうなスキルもなさそうだ。これなら6人でゴリ押しでいけるな。
「行きます。【挑発】【プロテクション】【ガードフォース】!」
カノンの新しく覚えた【ガードフォース】はパーティ全体の防御力を上げるスキルだ。これで前衛も多少攻撃を受けても大丈夫だ。
【挑発】の効果でミッタークコッコは脇目も振らずカノンの方に突っ込み盾でガードされて動きが止まった今がチャンスだ。
「【バイセクト】【インパルス】!」
「【ブレイジング】【スラッシュ】!」
「おらぁ!」
「ふん!」
俺とフィアが左右側面からジェイルさんとバングさんは後ろへ攻撃を仕掛ける。
「……全員離れる【ヴァンストーム】」
エルの言葉で皆がバックステップで離れる。ちなみに攻撃を受け止めていたカノンは盾を斜めにして力押しでくるミッタークコッコの側面に回り上から盾で押さえつけ嘴を地面に突き刺せてから離れた。器用な事をする。
エルの【ヴァンストーム】がトドメとなりミッタークコッコは霧になり剣がドロップした。
【フェザーレイピア】
【装備者のAGIを上げるレイピア】
武器ということはレアドロップだ。俺以外のトドメでレアドロップするのはこれが初めてだった。
おそらく俺が装備している【アスカノのバックル】により【幸運(大)】のスキル効果がパーティメンバー全員に少し付与されているからレアドロップの確率も上がっているのだろう。
でもレイピアか。刺突武器より斬撃武器の方が好きなんだが。
「どうしよう装備してみるか?」
「いや、私にはコイツがいるからな」
俺以外で剣が装備できるフィアに聞いてみるが今装備している大剣を見た。
とりあえず保留だな。バングさんのクラスアップでソルジャーになったら持たせるか。
「さて、それじゃあ帰ろうか」
そうして今日のダンジョン攻略は終わりにして外に出ることにした。




