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全属性持ちと視線

 今更ではあるがエルが闇魔法の【ブラックアウト】をコピーした時から全属性を使えるようになっていたのだ。

 いや。気付いてましたよ。普通なら多くても2つしか覚えられない属性攻撃を6つ全部使えるようになったですよ。そんな大事なイベントをスルーするなんて……。

 はい。気付いてませんでした。だってあの時は新しく使えるようになった魔法の検証やらなんやらでそこまで気が回らなかったんです! しょうがない! うん、しょうがない!

 気を取り直して【エンチャント】で防具に全属性を付与する。


「ほんのり光ってる?」


 防具一式から少しオーラを纏って光っていた。

 今までバフをかけて体から光っていたのと同じようだがこっちはそれよりも薄い。はっきり言ってかなり地道だ。


「効果は地道じゃなければといいけど今は試せないしな」


 レザーラビッは属性攻撃をしてこないから試しようがない。自分の魔法をくらうのもどうかと思うしこれは保留だな。

 やれる事もなくなったのであらためてジェイルさん達の所へ向かう事にする。


「おう、遅かったな。坊主」


 地面に胡座(あぐら)をかいて待ってたジェイルさんが俺に気付き手を振ってくる。

 ホワイトラビッを倒しているのは知っていたがさすがにのんびりしすぎじゃないか?俺は【マッピング】と【サーチ】のスキルで人や魔物の位置を把握できているが彼はそんなスキルはない。いくらバングさんが辺りを監視しているとはいえ複数の魔物が来たら危ないぞ。


「もうちょっと緊張感を持ったほうがいいですよ。いつ魔物に襲われるかわからないんですから」

「ちょっとした休憩だよ。坊主ならすぐに戻って来るだろうしその間だけな……っと」


 そう言いジェイルさんは後ろへ転ぶと両手をつき腕と足の勢いでジャンプして立ち上がる。


「こっちは特に問題はなかったがそっちは何かあったらしいな」


 ジェイルさんは俺を見ながらニヤニヤしている。

 まあ、【エンチャント】を試してオーラが出てるから一目で何かあったとわかるからな。


「新しくスキルを覚えたので試して使ってみたんですよ。なんなら使ってみましょうか?」

「おう、どんなもんか知らねーがやってくれるんならたのまあ」


 信頼してくれているのだろうがせめて効果くらいは聞いた方がいいのではと思いつつも口には出さずクリティカルナイフに【エンチャント】を使う。

 本来盾がシールダーの武器なのだが使ってもあまり意味がなさそうなのでナイフの方に使ってみた。


「ん? ナイフからなんか(ころも)が出てねーか?」

「【エンチャント】って言うスキルで武器や防具に使えば付与した属性の攻撃や防御ができます」

「…………今さらだがお前何の属性を付与したんだ? 虹色の衣なんて見た事ねーぞ」

「全属性使ったらそんな色になったんですよ」

「……は?」

「ん?」


 今誤魔化しても後々ボロが出ると思い正直に言うことにした。俺が答えるとジェイルさんが何故か理解出来ないと言ったような顔をして少し間を開けてから聞き返してきた。


「スマン。よく聞こえなかった。もう1回言ってくれねーか」

「全属性付与しました」

「…………」


 また少し間がありジェイルさんは大きなため息を吐いた。


「あのな、全部の属性なんて無理だろ。普通2つが限度だろ。バングお前もそう思うよな」

「ウ、ウス」

「まあ、信じなくてもいいですけど……。とりあえずそのナイフが強くなったのか試してくださいよ」


 そう言いジェイルさん達をホワイトラビッのいる所へ連れて行き戦ってもらう。近くに1体だけなのがいたのでちょうど良かった。


「バングさっきと同じようにいくぞ!」

「ウッス!」


 ジェイルさんが盾を構え前に出てバングさんはその後ろで腰を落とす。

 ホワイトラビッがジェイルさん目掛けて体当たりをするがジェイルさんは上手く盾で防ぐ。最初より盾の扱いが上達してるのが見ていてわかる。

 攻撃を防いだジェイルさんはそのまま大きく腕を振り上げホワイトラビッを上へと上げた。いきなり飛ばされたホワイトラビッは体勢を崩しジャンプしたバングさんに掴まり地面に押しつけられた。


「いいぞバングそのまま離すなよ」


 ガッチリと抑え込まれたホワイトラビッは動けずナイフで滅多刺しにされている。

 これわざわざジェイルさんが攻撃するよりそのままバングさんが攻撃した方がいいのでは?どうもバングさんは自己主張というか、あまり自分から物を言わず言われたとうりにしか動かない節がある。

 これが奴隷としてなのかそもそもバングさんがこういう性格なのかはわからないがあまりいい関係とは言えない気がする。


「どうだ。俺もそこそこ戦えるようになってきただろ?」


 ドヤ顔で言うジェイルさんに指摘するべきか少し悩む。調子がいい時に変に指摘して調子が悪くなっても困るし、それでバングさんに気を使わせることになるかもしれない。

 う~ん。初日だしバングさんをクラスアップしてからどう変わる様子を見る事にしよう。


「そうですね。それとナイフの強化の感じはどうでした?」

「ん? そうだな。確かに刺してるとき熱くなったり濡れてたりしてたな。アレが属性攻撃ってやつなのか」


 効果はちゃんとでていたようで安心した。熱くなったのは火の属性で濡れるのは水の属性かな。でもジェイルさんの反応からして威力はあまり上がってないようだ。

 いや、元から攻撃面では絶望的なんだ。無いよりマシと思いジェイルさんには使い続けよう。

 その後もジェイルさん主体でホワイトラビッを狩り続け適当なタイミングでカノン達と合流した。

 そして全員の武器に【エンチャント】を使い検証してみた結果、全属性より1つの属性にした方が効果が大きかった。他にも元から属性攻撃ができる武器に同じ属性を【エンチャント】したり杖に【エンチャント】した同じ属性の魔法をつかったら威力が上がる事がわかった。


「【エンチャント】についても大体わかったしそろそろボス部屋に行こうと思う」

「2階層のボスはホーンラビッですね。額にある角での攻撃が強力です」


 すかさずカノンがボスの説明をしてくれる。

 素早さもホワイトラビッと同じかそれ以上と考えて攻撃力が上がるのは厄介だな。


「ジェイルさん」

「嫌な予感がするが、なんだ?」

「囮お願いしますね」


 やっぱりなと言いたげに手で顔を覆うジェイルさん。

 それがシールダーの役割なのだからしょうがないと割り切ってもらうしかない。頑張れジェイルさん。


「ジェイル殿が嫌がっているなら私が囮になりろう! いや、是非させてくれ!」

「フィアは黙って……フィアは基本ソロで戦ってたんだよな? ランクはどのくらいだ?」

「うむ。今のランクはBだな」

「B!」


 え? この人そんなにすごい人だったの? この性格もとい性癖で碌にパーティに入っていたとは考えづらい。ならずっとソロでこのランクまで上がったのか?


「……次のボス1人でもいけるか?」

「無論だ」

「なら任せよう。カノンもジェイルさんも援護は必要ないから」


 自信満々にフィアが頷くので試しに任せる事にした。

 ソロじゃないせいかフィアはまだ手を抜いて戦っている。それが駄目とは言わない。余力を残して戦うのは長期戦ではあたりまえだと思うしジェイルさんとバングさんをメインに戦わせるためにフィアが本気を出してしまうとこちらが困る。

 俺の考えを予想してあえて手を抜いてくれているのらな優秀な人だ。


「はあ……はあ……下層とはいえボス相手ならちゃんと快感を与えてくれるはず」


 などと小声でのたまっていたで尻を蹴りをいれる。


「うぅ……。いきなり無言で蹴りかかるとはなんたる所業。もっとやってくれ!」

「うるさい。さっさとボス部屋へ行くぞ」

「坊主はアイツへのあたりがキツいな。本人が嬉しそうだがあまりパーティメンバーを蔑ろにするのは感心しねーな」

「私はハルキさんが望むならそういう扱いでも構わないです!」

「……ご主人様カモン」


 フィアだからこんな対応をしてるだけで他の人には普通に接いてるだろ。だからカノンそんな目で見るな。エルもカモンじゃない。


「蔑ろっていうならバングさんの事はどうなんですか?」

「バングは俺の奴隷だからいいんだよ」

「奴隷であってもこれからは隣に並んで戦うんですからこれまでと違って食事や睡眠、体の管理はしっかりしないといけません。冒険者は体が資本ですから」


 わかったよと目を逸らしながら呟くジェイルさん。

 奴隷の体調が悪くちゃんとした戦闘が行えないならそれはそばにいる主人にも危険が生じるということ。まあ、最初から奴隷を肉壁と思っているなら囮にして1人だけ逃げる奴もいるだろうがわざわざ金を出して買ったのだから積極的に捨てる事はしないだろう。





 ボス部屋の前に1組のパーティがならんでいた。今ボス部屋では6人のパーティが戦っている最中だ。今戦っているパーティが勝ったら次のパーティがボス部屋へ入れば新しいボスが現れ、負たらそのままボスが残るらしい。HPが見れないからどんな戦況かわからないけど長い間戦っている。


「ホーンラビッの相手は長期戦になりやすいようだからな。気長に待つとしよう」

「フィアはホーンラビッと戦ったことがないのか?」

「もちろんあるぞ。ダンジョンで戦ったこともあれば森の中でも戦ったりもしたぞ」


 ダンジョン外の魔物はダンジョンから出てきたと聞いたがボス扱いの魔物まで出てくるなんて聞いてないぞ。


「ならなんでようだって他人から聞いたふうなんだ?」

「それは他人から聞いたからな。私からしたらスピードをどうにかすればさほど脅威にはならないしすぐに終わる」


 フィアよ。そのスピードをどうにかできないから長期戦になってるんだと思うぞ。

 攻略法なんてカウンターかダメージ覚悟で受けて捕まえるくらいだろ。コイツは絶対後者だ。

 それにしても順番が来るまで待つにしても暇だ。しかも前にならんでる奴らがこちらを見て正確にはカノンとジェイルさんを見てニヤニヤ笑って気分が悪い。


「シールダーっというだけであんな視線を向けられるとは……なんて羨ましいんだ!」

「そう思ってんのはオマエだけだよ。毎回こんな感じなんですか?」

「そうだな。程度によるがこんなのはまだいい方だ」


 ギルドでは人目があるためシールダーを馬鹿にしている奴等もあまり干渉はしてこないが屋外では話は別らしい。なんでも変にいちゃもんをつけたり時には直接手を出す輩もいたりジェイルさんはまだ経験はないが魔物から逃げるためにワザと横を通って敵を擦り付けたりされるらしい。

 ダンジョンでは俺が人と出会(でくわ)さないように進んでいるから気にならなかったけどそんな事をする奴等もいるのか。そんな事になってるのはシールダーが不遇クラスだからだろう。この世界は弱い相手を見下し優越感に浸るクズ共が多すぎるのか。

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