ホワイトラビッと【エンチャント】
「主もう1度とは言わず何回でもぶってくれていいんだぞ」
「いいからさっさと進むぞ」
俺達は今2階層を進んでいる。
1階層ボス? サクッと終わったからカットだ。カット。
2階層の魔物はホワイトラビッ。兎の魔物で素早い動きで翻弄するらしいが単体ならそこまで脅威にはならないそうだ。
いつもどおり単体でいる所を狙い進んで行くと白い兎がいた。
ホワイトラビッ Lv3
スキル【跳躍】
レベルもスキルもあるが見た目はまんま普通の兎だ。ちょっと異形だったり角とか付いてたら魔物らしいんだろうが。でも獅子はうさぎを狩るにも全力を尽くすとも言う。ここは油断せずにいこう。
「という訳でジェイルさんお願いします」
「またか!」
「ホワイトラビッは素早いので盾で殴るいい訓練になります。俺は回復魔法を使えるのでHPが危なくなったら言ってください。1発でやられない限り負けませんから」
「……それを何回くり返すんだ?」
「もちろんちゃんと当たるまで」
ジェイルさんが絶望的な顔をした。
「と言いたい所ですが1日そこらでできる事ではないので道中に遭遇したらお願いします」
「……それご主人様の気分しだい」
エルさん余計な事言わない。今日パーティーに入った3人にはダンジョンの地図や魔物の場所がわかるのはまだ黙っているのだ。
教えてもいいのだが俺が他にもバフが使えてそれ頼みでいられても困る。いくらかは地力を鍛えておいた方がいいからね。
「なら最初は俺が戦いますからホワイトラビッの早さの確認と対処法を考えておいてください」
「お、おう」
ジェイルさんにそう言うと俺のは前に出てホワイトラビッと対峙する。
相手は小さくスピード重視のステータスと予想できるが戦ってみないと実際の強さはわからない。
「よし、来っ!」
来いと言う前にホワイトラビッが肉薄してきた。まだ距離があったはずなのに一気に間合いを詰められてしまった。
咄嗟に剣の腹で受け流したがあの早さは基本的なものなのかスキルで早くなったのかわからないがあの早さだけでも脅威になるぞ。
俺は剣道でも基本の中段で構えてホワイトラビッの動きに集中する。
ホワイトラビッが俺の方を向き足に力を入れるのがわかった。
「来る!」
ホワイトラビッがすごい早さで跳んで来た。
俺はホワイトラビッに剣を向けたまま動かずにいた。相手がこちらへ向かって来るのなら剣を置いておくだけで自分から剣にあたりに来てくれている様なものだ。
空中では方向転換ができずそのままの軌道でホワイトラビッは剣に貫かれ霧となって消えた。
どうやらHPは低いようだ。これなら当てることができればそこまで苦戦はしないだろう。
【白い皮】
【白色の皮。防具の素材になる】
皮と同ランクのアイテムみたいだ。あ、このアイテムとローブで新しい防具が作れる。まだ個数が足りないけどここで戦ってたらそのうち集まるか。
「随分すんなりと倒したな。俺には何の参考にもならなかった」
「そうですか? 早かったですけど軌道がわかればそこまでてこずらないと思いますが」
「いや、その軌道もわかんねーんだが……。はあ、まあいいや。次は俺だな」
ジェイルさんは溜息をつきながらも俺の指示に従ってくれて次に遭遇したホワイトラビッの相手をしてくれた。
その結果はぐだぐだだった。盾を構えるがホワイトラビッの体当たりを防げなかったり剣を振るが空振ったり始終翻弄されていた。
最後は自分の体に当てて捕獲してから攻撃して倒すといった荒技でなんとかなった。
「よくあんなの軽々しく倒せたな……。なんかコツとかあるのか?」
「コツですか? そうですね。しいて言えば相手が力を込める場所とタイミングですね」
「力の場所とタイミング?」
「そうです。これは対人戦にも言える事ですが強い攻撃をするためには力を入れなければいけない場所があります。例えば体の中心となる軸足そこから上にいって腰、肩、腕など力の流れ伝えて最終的には武器に集中します。ここまではわかりましたか?」
「お、おう……」
上半身を固定して打つパンチより腰を回して打つパンチの方が痛いというのと同じ。
「その力の入れる場所で相手の動きを予測するんです。それができれば今よりずっと戦いやすくなりますよ」
「力の流れ、予測……。うぐぐぐ」
ジェイルさんは頭を抱えながら変な動きをしている。こればかりは場数で馴れてもらうしかない。がんばって。
「主は何か武術の心得があるのか? 見ていて素人とは思えない体捌きだった」
「あー、昔道場……ってわかるのか? えーと修練場でいろいろ教わったんだよ。剣もその1つ」
フィアも誰からか戦い方を教えてもらっていたのか俺の戦闘を見たりジェイルさんへの問答だったりで俺が何かしら指導を受けていたのに気付いたようだ。
あまり思い出したくない記憶だがここで役に立っているから複雑だ。本当ならこうやって人に教える資格もないのに。
「そ、そうか。嫌な事を言わせたみたいですまない」
「ああ、いや、そこまで嫌な記憶って訳でもないから。うん」
俺の口ぶりで察したのかフィアが謝ってきた。その後ろでエルが「……でも嫌な記憶」とポツリと呟いていた。
エルさんそこはスルーでお願いします。
「よくわかんねーけど坊主がつえーのはいろいろ訓練したからなんだろ。ならそれでいいじゃねーか。さあ次だ次」
ジェイルさんは腕を回しながら進んで行く。
変な空気になったからジェイルさんなりに気を利かせてくれたのかな。俺達もジェイルさんに続いて進み連続してホワイトラビッとエンカウントしていった。
その結果ジェイルさんは少しずつだが確実に動きがよくなってきている。
「主いい加減我々にも戦わせてもらえないだろうか? さっきからジェイル殿ばかりでいい加減暇なのだが」
おっと、そういえば2階層に入って最初の1戦以外はジェイルさんばかり戦ってるな。1人で戦ってるから時間も掛かるしまた2手に別れた方がいいかな。
「なら今度も2手に別れよう。メンバーは俺、ジェイルさん、バングさん。カノン、エル、フィアでいいか」
「ちょっと待ってくれ主よ! それではまた私は主と別々ではないか!」
俺がメンバーを振り分けるとフィアが異議と唱えてきた。
「それならエルもそうだろう。バランスを考えたら俺とフィアが分かれたほうがいいんだよ」
俺を前衛として考えてフィアと一緒にいたらもう一方が火力不足になってしまう。他のアタッカーはバングしかいないけどまだレベルも経験も足りない。なら俺とフィアが分かれるのは必然である。
「ぐぬぬ……。だがここはまだ2階層だ。そこまでバランスを考えなくても……」
「……浅い階層でもなめてかかると痛い目にあう」
「………………」
「……フィア言ってた」
エルが言った言葉はフィアがエル向かって言ってた言葉だ。自分が言った事を撤回するのが嫌なのかフィアは口をきつく閉じプルプルと震えていた。
「あ~、次の階層は6人での連携を考えて攻略してみるつもりだから我慢してくれ」
「わかりました……。いや、これも放置プレイと考えればこれはこれで」
フィアの発言の後半は無視して俺達は2手に分かれ行動する事にした。アイツがソロをしてるのってあの性癖で避けられてるからでは?
「それでまた俺1人で戦えばいいのか?」
「いえ、次からはバングさんと協力して戦ってもらいます。基本的にジェイルさんが前に出て相手の動きを止めバングさんが攻撃して倒す感じです」
「わかった。気合い入れていくぞバング」
「ウスッ」
戦う2人が前で俺が後ろで控える隊列で進んで行くと前方に3体の魔物の反応があった。
元々2人はパーティーだったが今では役割が違う。この編成でいきなり3体では荷が重いか。
「前に魔物が3体いますが2体は俺が引き受けます。2人は残りの1体に集中してください」
「おう」
「ウスッ」
2人の返事を聞いてから俺は走り出す。
「先手必勝【インパルス】!」
スキルで更に加速してホワイトラビッを突き刺しもう1体を思いっきり蹴り飛ばす。
突き刺したままのホワイトラビッを連れて蹴り飛ばした方へ走る。これで置いてきぼりにしたホワイトラビッはジェイルさん達が戦ってくれるだろう。
「2人の連携を見たいからさっさと終わらせてもらうぞ【スラッシュ】」
刺したままだったホワイトラビッにスキルを使って切り裂く。もう1体のレザーラビッが体当たりをしてきたがわざと攻撃を受けて剣を振り下ろし串刺しにする。
「さて、向こうはどうなってるかな? ……ん?」
【スキル【エンチャント】を覚えました】
ドロップした白い皮を拾って歩きだそうとしたときそんな言葉が頭に浮んできた。聞こえたじゃなく頭に直接訴えかけられた感じだ。テレパシーとても言えばいいのか?
そして自分のステータスをみるとLv10に上がっておりスキル欄に【エンチャント】が増えていた。今更ながら自分のレベルアップでスキルを入手したのはこれで初めてだ。こんなふうになっていたのか。スキルの内容も一緒に頭に流れ込んで来たので他の人が【鑑定】がなくてもどんなスキルかわかるのはこれのおかげか。
【エンチャント】
【武器、防具に一定時間自身の属性を付与する。武器には属性攻撃、防具には属性カットがつく】
武器は付与した属性の攻撃ができるようになり防具は付与した属性のダメージ軽減か。武器はいいが防具の方は付与した属性と同じ属性攻撃にしか効果が発揮しないのが欠点かな。
だが俺は複数の属性が使えるこの場合どうなるんだろう?
「【エンチャント】」
試しに使ってみると武器か防具の後に属性の選択が出てきた。
火、水、土、風、光、闇の中から選ぶみたいで複数にも選択できた。これなら全属性を付与して全属性カットできるじゃ……ん……。あれ? 俺全部の属性使えてる。




