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合流と不機嫌

「今度はこれを使って戦えってか?」

「そうです」


 クリティカルナイフを作った後すぐにジェイルさん達と合流しさっそく使ってもらう事にする。


「シールダーでも使える武器なんて珍しいな。でもこんなもん何処で手に入れたんだ?」

「あー、まあなんか出てきたのでお気になさらず」


 作ったって言ってもその後の説明がめんどいので適当にはぐらかす。カノンも深く追及してこないので話を進める。


「ジェイルさん盾は利き手の方に着けてください」

「はあ!? 攻撃に使うナイフを利き手に持つのが普通だろ」


 そう普通なら利き手に攻撃用の武器を持つ。だが盾役として戦うならそうじゃいけない。


「シールダーのメイン武器は盾です。ジェイルさん盾にはどういった使い方ができますか?」

「んなもん盾で相手の攻撃を防ぐ以外ないだろ」

「ならこう来た斬撃をどう防ぎますか?」

「? こうだろ」


 俺がゆっくりと振り下ろす剣を真っ正面から受け止めるジェイルさん。


「では次は剣の横を盾で殴ってください」

「?? こうか? ……あ」


 殴られた剣はそのまま横に弾かれ俺の正面に大きく隙ができた。


「防ぐにも方法は様々あります。さっきのように殴ったり盾に角度をつけて受け流し、当たる瞬間にさがって衝撃を和らげたり。ジェイルさんには相手の隙を作って倒すというのが俺の理想です」

「嬢ちゃんから基礎を教えてもらったが実際やるには難しいぞ」

「そこは馴れるしかありませんね。カノンは受けて耐える戦法ですがジェイルさんには素早さをいかして避けるまたは相手の動きを先読みして攻撃を封じるのがオススメです」

「先読みして封じるってメチャクチャ難しそうなんだが……」

「そうですか? 例えば殴りかかってくる相手に対して殴る前に相手の肩を押して攻撃を止めたり肘が曲がった状態で先に受けて威力を殺したり」

「いや無理だろ」

「馴れです。がんばってください」


 子供の頃じいちゃんから体術やらなんやら無理矢理仕込まれたからな……。あれは虐待と言ってもいいような内容だったよ。


「なるほど。確かにそれができれば戦いやすそうですね。受けるだけじゃなくてもう少し観察するべき……でも私の大きい盾でそこまで速く対応できるかな……」


 俺とジェイルさんの話を聞いてカノンがブツブツ考えだした。

 自分の戦闘スタイルを模索するのは良い事だ。ゲームでも戦法を変えれば難しかった所も簡単に倒せる事があるからな。あとはプレイヤースキルを上げる努力かな。ガチ勢はシステム関係も考えた戦略を立てるけど俺はそこまではいかない。


「3人と合流するよう進みながら戦って行きましょう。もちろん戦闘はジェイルさんだけでお願いします」

「俺だけかよ!」

「俺が戦ったら1撃ですよ」


 この階層にはジェイルさんとバングさんの基礎を固めるためにいるんだ。率先して戦って戦闘経験を積んで欲しい。

 俺達(主にジェイルさんだけが)ジャックコボルトを倒しながら進みエル達と合流したのだがなにやら様子がおかしい。

 エルはよくわからないがフィアさんはあきらかに不機嫌そう。バングさんはオロオロとキョドっている。


「えと、どうかした?」

「なんでもありません。早く次の階層へ進みましょう」

「エル?」

「……フィアが変態だっただけ」

「それは知ってる」


 エルは俺達と別れた後なにがあったのか話てくれた。





 とりあえず魔物とエンカウントするため移動することにしたらしい。


「まずは私の戦い方を見せてやろう」

「……なんで?」

「なんでって同じパーティーなのだから互いの戦い方は知っておくべきだ。味方がどう動くか知っていると連携がしやすいからな」

「……戦いながらすればいい」

「まだ浅い階層とはいえなめてかかると痛い目に会うぞ。初めてのパーティーで戦いながら連携なんでできるわけないだろう」

「……? ……ご主人様の命令で連携とれてる」


 あー、まあ基本俺の指示で2人共動いてくれるから連携はとれる。だが普通の冒険者は我が強かったり状況しだいでリーダーの指示通り動いてくれるかわからない。

 だから個人の得意な戦法やらできることを事前に知っておく必要がある。


「主が優秀なのはわかる。だが今はその主がいないのだから個人個人が考えなから動かないといけない。もし主が指示を出せない状況になったらどうする? 今回みたいに別行動をするのなら指示は貰えんぞ」

「……むぅ」

「わかったのなら行くぞ。なるべく多く魔物と戦いたいからな」


 しばらく歩いて2体のジャックコボルトと遭遇しフィアが前に出た。


「さあ、かかって来い」


 剣も抜かずに両手を広げて立つフィアさんはどうぞ攻撃してくださいと言いたげだった。

【不撓不屈】の効果でわざとダメージを受けて攻撃力をあげるためにしてもどうかと思う。スキルの事を知っている俺ですらドン引きなのにその事を知らないエル達はさぞ異様に見えただろう。

 ジャックコボルト達は目の前の敵に向かってナイフを突き刺した。


「ぐああぁぁ~~」

「た、助けなくては」

「……ほっといていい」


 普通ならバングさんが正しいがエルは助けようとは思わなかった。なぜなら攻撃されているはずのフィアさんの顔が笑みで歪んでいたからだ。


「そうだ! もっと! もっとだ! 全力で来い!」

「…………」

「……変態」


 魔物に攻撃されて喜んでいる奴なんて初めて見たのだろう。バングさんは呆気にとられ、エルは事実だけを口にした。





「……その後フィアが倒した。……問題なし」

「その状況を見て問題なしと言えるのはエルぐらいだと思うが……。で、問題の等の本人はなんであーなってるんだ?」


 エルが話している最中も腕組みをしながらブツブツ何か言っていた。


「……さぁ?」

「主よ! 話しが終わったのなら早く次の階層へ進みましょう!」

「お、おう。ところでフィアさんはなんでそんなに機嫌が悪いんですか?」

「…………主。私にはタメ口、命令形でお願いします」

「いや、でも年長者に対して……」

「……………………………………………………」

「わ、わかった」


 無言の圧力に負けて了承してしまった。

 まあ、今までも敬語を使ってなかった時もあったしいいか。


「それでなんで不機嫌なんだよ。ここに来るまで何かあったのか?」

「それは……」

「それは?」

「ここの魔物が弱すぎて攻撃が全然痛くないんだ! 最初は気のせいかと思ったのだが何回も当たっていくうちにちっとも痛くないのに気が付いたんだ! こんなのじゃ全然満たされない!」

「………………」


 俺は無言で1発叩いてやった。

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