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ドラゴンとクリティカルナイフ

 あれから10体程度倒したのだかジェイルさんはまだ認めようとしない。


「あれは弱い方だった」「たまたま強い1撃が出たんだ」「あー、見てなかったわ」


 なんなんだこの人は最後の方はただのイチャモンでしかないぞ!どうしてここまで(かたく)なに認めようとしないのか。


「……ジェイルさん。ここまでしてもまだ認めないんですか? こう言ってはなんですが貴方が攻撃に参加しても殆ど意味がないんです。だから盾役になって少しでも戦闘に貢献を」

「意味がないなんてお前が勝手に決めるな! ……勝手に…………決めんなよ」


 なんだ? ジェイルさんが怒鳴るのは何回も聞いているが今回は様子が違う。


「どうしてそこまで攻撃に拘るんですか? 生きていくためのお金を稼ぐならもっといいやり方があるはずです」

「…………」

「黙っていてもわかりません。何か理由があるのなら言ってください。じゃないと俺達も力になりたくてもできません」

「…………俺には夢がある」


 ジェイルさんは最初にそうきりだして話しだした。


「神々の試練。それを達成できれば大きな力が手に入るっていう言い伝えだ」

「ある場所で特定のアイテムを捧げると挑む事のできる試練だな。だが神々の試練は伝説で本当にあるかは眉唾物だぞ」

「…………」


 その試練というイベントをクリアーしたらレアなアイテムが手に入るって事か。


「水を差すようで悪いけどその試練? もっと詳しく教えてくれない?」

「教えるっと言っても何を教えればいいのだ?」

「あの、ハルキさんは記憶喪失でたまにこういう時があるんです」

「……そのわりに私達の知らない事知ってる」

「そういえばそうですね」


 まずい。記憶喪失の設定を忘れてたうえにいろいろゲーム知識を言ってしまったから不審がられたか?


「でもハルキさんですからね。しょうがないです」

「……ん。……しょうがない」


 何故か2人揃ってしょうがないという事で落ち着いたらしい。結果的には良いのだがどうにも腑に落ちない。しょうがないってなんだよ。


「よくわからないが試練と言うのはさっき言ったとおり特定のアイテムを捧げて試練として強い魔物と戦い打倒すれば強力な武器や防具、スキルが手に入るのだ。だがこの試練を達成できるのは1つのパーティーだけだ」

「しかも場所も強さもバラバラで早いもん勝ち。だがボス部屋と違って失敗扱いにはなるが途中でやめる事もできるってんだからみんなすぐにやりたがる。もちろんその時捧げたアイテムは戻らねーぞ」


 フィアさんに続きジェイルさんも説明してくれる。

 1回限定のドロップ確定ボスみたいなものか。

 死ぬリスクもなく、強さもバラバラならレベルが低くてもワンチャンいけるかもというならこぞってやりたがるのは当たり前か。


「手に入るスキルは1人だけなんですか? それともパーティー全員?」

「スキルを覚えれるスクロールがドロップするので1人だけだな。だからいらないスキルだと売る事もできる。極稀に強力なスキルのスクロールがオークションで高値で取引される事がある」


 オークションなんてあるのか。ならそのスクロール以外にも普通の店なんかに置かれない強力な武器、防具、装飾品などがありそうだな。


「…………話戻してもいいか?」

「え? あ!? すみません」


 ついつい話を脱線させてしまった。


「神々の試練は普通の試練と違って何回もクリアーできる特殊な試練でな。俺はその試練に出てくるドラゴンと戦って勝ちたい。それが俺の夢なんだ」


 定番だけどドラゴンもいるんだな。そんな特殊な所に出てくるドラゴンなんてメチャクチャ強そうじゃん。最悪負けイベントだったりして……。


「ふむ。そっちの言い分はわかった。だがさっき言った通り神々の試練は……」

「そんなの知ってる! でもな。それではいそうですかなんて納得できるか! この夢は俺の人生を掛けてでもやりたい事なんだ! そこに他人がどうこう言われても諦める理由にはならねぇ!」


 ジェイルさんの目を見てそれが本気なんだってわかってしまった。なら俺にできる事なんて1つだけだ。


「わかりました。ならジェイルさんは攻撃もできるシールダーを目指しましょう」

「……本気か? 俺の夢どうこう以前にシールダーの攻撃なんぞたかが知れてるだろ」

「そこは追々。ジェイルさんにはシールダーの基本を覚えてもらいます。カノン頼めるか?」

「はい! もちろん!」

「…………」

「ジェイルさん。シールダーの武器は盾です。だからシールダーが強くなるには最低限盾の扱いが上手くないといけません。まずはそこからです」

「主よ。こう、なんと言えばいいかわからないが正気か? 彼の夢もそうだが攻撃のできるシールダーなどと」


 俺の方針にフィアさんは納得出来てないようだ。おそらく前代未聞みたいだからな。

 でもここで諦めたらシールダーは一生不遇クラスになってしまうと思った。


「シールダーで戦う人は元々少ない。なら知らないだけで本当は戦えるかもしれないでしょう?」

「それは、そうだが……」

「それに俺達は冒険者だ。冒険者が夢を追って何が悪い」


 冒険者は冒険する者だ。未踏の地、伝説のアイテム、夢。それらを目指して生きる事が悪いはずがない。


「坊主……。わかった。ダメで元々だ。バング! これからこの坊主の命令は俺の命令だ! 言う事聞かねーとただじゃすませねーぞ!」

「うっす」

「いえ、嫌なら嫌で構わないですよ……」


 この体育系のノリは苦手なんですが……。もうちょっと気楽に行きましょうよ。


「それで相談なんですが3手に別れて行きたいと思います。この階層はジャックコボルトなので6人でいる必要もありませんし」

「いいですよ」

「……ん」

「私も構わない」

「坊主の言う事は従う」

「うっす」


 全員の了承も得たので3手に別れる。

 まずはカノンとジェイルさんの2人組。この組はジェイルさんにシールダーの基礎を教えるためにカノンと組ませた。主に防御を教えるので戦闘時間は長くなってもいいのであえてアタッカーは入れず2人組にした。

 次にエルとフィアさん、バングさんの3人組。この組は積極的に魔物と戦ってもらってバングさんに戦闘と連携を覚えてもらう。

 最後に俺1人の組。

 これにはフィアさんが反論してきたがしょうがない。俺が倒した方がドロップ率がいいのだ。説明も面倒なので睨みをきかせたら嬉しそうに従ってくれた。扱いやすい人だ。……変態だけど。


「こっちの準備ができたらカノン達と合流してジェイルさんとバングさんが馴れてきたらボス部屋に行こう」

「準備ですか?」

「まあ、できたらいいなくらいの物だけどね」

「……いつもの。……気にしたらダメ」

「そうですね」

「おや? ひょっとして主は信認されてないのでは?」

「うるさい黙れ」


 リーダーなのに扱いが雑になるのはどういうことだ? 普段の行動に問題なんてないはずだが……。

 若干腑に落ちないが3手に別れて各々行動することにした。


「さて、パーティーには入ってはいるが久々のソロ活動だ。相手がちょっとものたりないけどタイムアタックと思えばいいか」


 パーティーに入ったままなのはいくつか理由があるがパーティーメンバーの位置が把握できるのが大きい。【サーチ】のスキルで位置がわかってもその目標が誰なのかわからなかったからこの効果はありがたい。

 それじゃサクサク作業をこなしますか。

 俺はまず近くにいるジャックコボルトを手当たり次第に倒しまくった。しょうがないじゃないか。一太刀入れただけで倒せちゃうんだから。

 Lv1になっても上位クラスだからなのか単にジャックコボルトが弱すぎるのか。まあいい、今はドロップ品だ。規定量が集まるまで狩りまくろう。

 時折ステルスと表して気付かれないように近づき背後から襲うなどして遊びながらアイテムを集めた結果ジャックナイフが30本手に入った。


「これで目的の物が作れる。予想通りの物になればいいんだけどこればかりはやってみないとわからないからな」


 俺はアイテムボックスに入れてある30本のジャックナイフを【武器製造・強化】で新しい武器を作る。


【クリティカルナイフ】

【誰にでも使えるお手軽ナイフ。攻撃力は低いが稀に会心の1撃が出る】


 できた。誰にでも使えるならシールダーでも使える。なんなら後衛の護身用も持たせてもいいくらい……。

 いやダメだ。これはジェイルさん用に作った物だ。ジェイルさんに使ってもらって使いやすいようなら複数作るもの視野に入れよう。


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