備蓄と再会
「卵は牛乳と同じダンジョンの3階層でドロップしますけど2つとも取りに行くんですか?」
「ああ、牛乳と卵以外は適当に進むから5階層までだったらすんなり行けるだろ」
昨日は専属でのクエストが決まった後で正式なクエストはまだ先と言われた。
ガラスのコップの事で商人との話し合いやらフレンチトーストをより美味しくする為の練習だったり店で提供するのはもう少し先らしい。
昨日作ったフレンチトーストの分量は適当だったからな。ここは専門家に任せよう。
クエストはまだだけど俺はアイテムボックスのスキルがある。アイテムボックスに入れておけばいつでも新鮮な牛乳と卵が出せるので何個か余分に入れておこう。
ウチの女性陣はフレンチトーストをいたく気に入ったようで次はいつ作るか相談していたのは余談か。
なので今日はもう一方のダンジョンへ行くことにしてその道中クリアできそうなクエストがないかギルドへ向かう。
「どうかしたんでしょう?」
「ん?」
カノンの目線の向こうにはギルドがありその入り口に見知った人が仁王立ちをしていた。
これは関わらない方がいいな。俺は回れ右をして来た道を戻る事にする。
「どうしたんですか? ギルドは目の前ですよ」
「離してくれ。急に来た道を戻りたい病が発症してしまったから俺は帰る」
「なんですかその訳のわからない病名は……」
「とりあえずここから離れさせてくれ」
「そこの3人組のパーティーちょっといいか?」
ああ! 遅かった!
「君はあの時の少年じゃないか」
「どうも……」
「お知り合いですか?」
そこにいたのはこの前俺の装備品を買ってくれたフィルトリアさんだった。彼女は名字持ちだがフィアと名乗って身分を偽っている。
「……ハッ! ……ご主人様に貢いだ女」
エルさん説明する前なのになぜわかった。
「……私のシックスセンスが……そう言ってる」
え、なにそのサイドエフェクトみたいなの。でもようするに勘だろ。女の勘、末恐ろしいな。
とりあえずカノンとエルにフィアさんの事を説明するために場所を変える。
「なるほど。そんな経緯があったんですね」
人が来なさそうな路地裏に移動して話をした。もちろん最後の変態チックな発言は伏してますよ。第1印象は大事だからね。
「ところでなんでギルドの前に立っていたんですか?」
「ああ。それは昨日からシールダーの女性を酷使している冒険者がいると噂になっていてね。だからシールダーの君が目に入ったから声をかけたんだ」
俺を見付けて声をかけた訳ではないのか。
でもその噂の冒険者は確実に俺を指しているんだよな~。
そもそもシールダーの冒険者がいない。今までカノン以外のシールダーは見た事がない。それだけシールダーは不遇のクラスなのだろう。
「あー、その冒険者なんですが、たぶん俺です」
「やっぱりか!」
おい! なんだよ! 1回しか会ってない人を悪人と決めつけるな!
……にしてはなんで嬉しそうなんだ?
「私は実はソロで活動しているのだが君のパーティーに入れてくれないか?」
え? なんでそんな話になった?
「この場でハッキリ言おう。私はシールダーが嫌いだ。だからそのシールダーの子をパーティーから外して私を入れてくれ」
は? 何言ってんのこの人。よく分からないが1つだけわかることがある。
「私はこれでも名が通っていてな。私を入れるだけで有名に「遠慮します」…………え?」
話に割り込んで拒否したらフィアさんは固まってしまった。
「すみませんがカノンは大事な仲間です。わざわざ抜けさせて貴女を入れる気にはなりません」
「で、でも私は……」
「それと俺の仲間を悪く言う人をパーティーに入れる訳にはいきません。言葉を借りるなら俺は貴女のことが嫌いです」
「はう!」
おれが睨みをきかせて言うとフィアさんはその場にへたりこんでしまった。
「ハルキさんそれはさすがに言い過ぎでは?」
「…………」
カノンがおずおずと俺に言って来た。
自分が嫌いだと言われて庇う必要なんてないのに優しいな。エルなんかフィアさんをジッと見ているがあれは睨んでいるのか? 只単に見てるだけなのかよくわからん。
だがカノンよその心配は杞憂だろう。
「えへへ、やはりいい……」
へたりこんでいる当の本人は嬉しそうだ。
やはりマゾの変態さんだったか。お巡りさ~ん。
「用がないなら行きますね。俺達も暇じゃないので」
「……はっ! ま、待ってくれ! 悪かった! 謝るからパーティーに入れてください!」
すげぇ……。へたりこんだ状態からジャンプしてその場で土下座しやがった。なにが彼女をここまで駆り立てるんだ?
「パーティーに入りたいならわざわざ俺達のパーティーじゃなくてもいいでしょう。有名なら尚更引く手あまたでしょうに」
「……ダメなんだ」
「え?」
「ダメなんだよ! 魔物の攻撃は奴隷が受ければいいだの、それは君の役目ではないだの。私は! もっと刺激的な! 冒険がしたいんだ!」
なぜだろう。俺には彼女の言う冒険の前に主に身体的なというワードあるようにしか聞こえない。
シールダーが嫌いな理由も自分より前出て攻撃を受けるのが気にくわないからだろうし。普通アタッカーがやられない為にその前に盾役を配置するのは当然だ。でも彼女は攻撃を受けるのは自身の攻撃力アップにもなるからな。自分の性癖で受けたいのかもしれないが……。
「でも女子供でも容赦のない君なら私にもきっと酷いことをしてくれるはずだ!」
「人を勝手に危険人物にしないでくれませんか。…………わかりました。カノンは外しません。それと俺の指示には従ってもらう。この2つをのんでくれるのであればパーティーに入れます」
「喜んで!」
フィアさんが食いぎみに返事をする。
その様子を見ていたカノンは苦笑いをしている。俺達よりも格上であるフィアさんが下手に出ているのが理解できていないのだろう。俺だってこんな状況あり得ないと思ってる。
そもそも俺達のパーティーには攻撃の火力が足りないんだ。エルもクラスアップでレベルも下がり俺とカノンもクラスアップ待ち。ここで1人戦力が増えるのは大きい。
「私のことは奴隷として扱ってくれて構わない。いや、むしろ扱ってくれ」
「扱いませんよ……」
「……ご主人様の奴隷は私だけ」
ん? どうかしましたかエルさん? なにやら威圧感がするのですが。
「ふむ……。ならペットならどうだ?」
「……問題なし」
おい。俺的には問題多ありなんだが。
あれかね。奴隷は自分だけで十分で他はいらないということですか? それとも俺の奴隷という役割が彼女のアイデンティティーになってしまったか。
後者だとしたらあまり良くない。俺は後々エルを奴隷から解放するつもりでいる。その後の事は自分で決めて欲しいので今はその選択肢を増やすために冒険者としてレベルを上げているんだ。
まあ、今すぐ解放できるわけじゃないからいいけどどうするか。………………その場合はその時考えよう。未来の俺に丸投げだ。
変な道草をくってしまったがフィアさんをパーティーに加え再度ギルドへ向かった。
◇
受けたクエストは2階層でドロップする白い皮5枚の納品。道中クリアできそうなクエストがこれしかなかった。しょうがない今回の目的は牛乳と卵のドロップだからな。
「確かこの辺りのはずなんですが」
カノンは辺りを見回し目的のダンジョンを探す。
リスターバを出て道沿いに1時間程歩いた所だ。周りは草原なのでダンジョンがあったらすぐにわかるだろう。
「フィアさんは場所わかります?」
「できたばかりのダンジョンには基本行かないな。ギルドから調査依頼が出されたら話は別だが」
へえ、そんなクエストもあるのか。普通に考えたらどんな魔物がいるかわからないのに率先して行くのは躊躇われるよな。レベルが低くても強い魔物がいるかもしれないしイグニス・ファトウスみたいに即死スキルを持ってる魔物だっている。用心に越したことはない。
「……あれ」
「あ、あれです。ダンジョンありましたよ」
エルの視線の先にダンジョンの入口の小さな丘があった。まだ距離はあるが目的地が目に見えてないより見えてる方が気持ち的に楽だ。
ダンジョンに近付くにつれ怒鳴り声が聞こえてきた。
面倒くさそうなのでさっさとダンジョンに入ろうと思っていたのにダンジョンの入口で絶賛開催中でした。
盾を持った短髪の男が首輪をした色黒の男を足蹴にしていたのだ。




