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虫嫌いと新事実

 7階層に降りてきた俺達はカノンの魔物講座を聞いていた。


「7階層の魔物は百足(ひゃくそく)ムカデです」


 百足と書いてムカデと読むのは言わない方がいいんだろうか?

 ムカデか……。うん、ここのダンジョン嫌い。なんで虫やら人の心を抉る魔物が多いんだ? 次黒光りする奴が出て来たりしたら即帰るぞ俺は。ここの階層はなるべく無視したいんだけど……。


「百足ムカデは固く安物の武器なら弾かれてしまうらしいです。ハルキさんの武器なら大丈夫だと思いますが気を付けてくださいね。でもその分ドロップアイテムで作れる防具はとても丈夫です」


 いい防具が作れるのはいいんだけどこの階層を周回する気にはならない。しょうがないMPが(かさ)むけどあのやり方で倒すか。

 カノンの魔物講座を聞き終わり魔物のいる場所へ移動する。


 百足ムカデ Lv20

 スキル

【毒の牙】【硬化】【百足嵐武(ひゃくそくらんぶ)


【毒の牙】

【一定確率で相手を毒状態にする】


【硬化】

【一時的にVITを上げる。稀に自身のVIT以下の攻撃を弾く】


【百足嵐武】

【縦横無尽に走りながら敵を攻撃する】


 毒状態に防御力アップか。耐久戦にもちこまれたら厄介な魔物だな。だがそれ以前にこれ以上あいつを直視したくない。だから。


「【ブラックアウト】」


 魔法を唱えると黒い空間が広がり百足ムカデが見えなくなった。だが時折ギチギチと嫌な音がする。うん、早く倒そう。

 近付きたくないので離れた所から範囲魔法を使うと【フレイムストーム】3発で終わった。黒い空間も消えそこにはドロップアイテムだけが残っていた。


【硬い甲殻】


 これを集めればいい防具が作れるらしいけど……。防具は頭、上半身、下半身、腕、足全部作れるが必要個数が少なくても30個もいる。……30個かぁ。


「……ご主人様なんで剣使わなかったの?」

「そうですね。あまり魔法を使っていませんでしたし。てっきり今日は剣で戦うものだと」


 くっ、2人共よく見てらっしゃる。この世界の女子は人並みの大きさの虫なんか日常茶飯事だからなんともないですか。そうですか。


「えぇっと、あんなの初めて見たからちょっと近付きたくないなって……」

「……ハルキさんにも苦手なものがあったんですね」

「……虫嫌い?」


 虫は嫌いじゃないけどカブトムシとかはいいけどああいう虫は苦手なんだよ。


「でもさっきみたいに見なければ大丈夫だから攻略は続けるぞ」

「なら17階層あたりも難しそうですね」

「……どゆこと?」

「えと、11階層以降の魔物は1から9階層の魔物が強くなった状態で出て来るんです。だから17階層の魔物に今の方法がきくのかどうかと……」


 ここで新事実判明! つまり11、21、31、41階層には1階層の敵のパワーアップバージョンがいて今までのワームや蜘蛛がまた出ると!


「……大丈夫ですか?」

「……ご主人様。目、死んでる」

「だ、大丈夫! 大丈夫……うん……大丈夫」

「……ご主人様、声どんどん小さくなってる」


 くっ、ここで怯んでいたらあるかどうかわからない威厳が更にマイナスに限界突破してしまう。

 まずは馴れるところからだ。しばらくしたら(感覚が麻痺して)なんとも思わなくなるはずだ。

 そうして何体かの百足ムカデを遠くから倒した後覚悟を決めても接近戦に挑む事にした。


「今はそこまで戦い方にこだわらなくてもよいのでは?」

「いや、余裕があるうちに馴れておいた方がいい。魔法が使えないと戦えないなんて言われたくないからな」

「……ご主人様ファイト」


 仮にもソルジャーのクラスなんだ。魔法の方が楽だけどそればかりに頼っていていざというとき動けなかったら困る。


「よし」


 気合いを入れて百足ムカデを見据えて構える。


「【インパルス】……【スラッシュ】」


 スキルはゲームによっては途中で強制終了(キャンセル)できるけどこの世界ではできないみたいだ。

 だから刺突攻撃があたった瞬間に別のスキルを使い攻撃を繋げる。相手のVITが高いようだけど弾かれることなく連続攻撃ができた。

 そのあと攻撃を避けながら1擊入れて百足ムカデは倒れた。


「斬った後に体液とか出ないのが救いだわ」


 もしそんなのが体にかかりでもしたら即帰りますよ俺は。はあ、いい加減タオルで拭くじゃなくて風呂に入りたい。

 などと考えていたらカノン達が俺の近くにやって来ていた。


「やはりと言うかなんと言うか一方的な戦いでしたね」

「……もっと苦戦してくれていい」


 勝ったのになぜこの言われようなんだ?

 あのムカデの攻撃防ぐの難しいんだぞ。体をぐねぐね動かして動きがよめないし死角から尾で攻撃してくるし。


「接近戦も問題なくできたからあと何体か倒してボス部屋まで行こう」

「この階層はもういいんですか?」

「クエストもあるし今日は早めに切り上げよう」


 正直精神的に疲れて今日はもう帰りたい。でも今から帰るなんて言ったら2人から戦い足りないなんて言われそうで怖い。なのでこの後は2人がメインで戦ってもらおう。

 そうして数体倒した後ボス部屋へ向かった。


「7階層のボスは十足(じゅっそく)ムカデです」


 足が百から十になるのか? 弱体して……るわけないか。


「足が百から十になりより太く強靭になっています。戦い方は百足ムカデと変わらないので大丈夫だと思いますが気を付けてくださいね」


 スキル構成が同じなら戦いやすい。【毒の牙】に注意して戦えばそこまで苦戦はしないだろう。

 カノンからあらかたの説明を終えボス部屋へ入ると百足ムカデと同じくらいの大きさの太い足が10本あるムカデがいた。


 十足ムカデ Lv31

 スキル

【毒の牙】【硬化】【毒脚】【毒嵐武】


【毒足】

【攻撃があたればたまに毒状態にする】


【毒嵐武】

【縦横無尽に走り毒脚で攻撃する】


 前言撤回! スキル構成が毒まみれになってるじゃないか!

 これは遠距離からチクチク攻撃した方がいいわ。


「カノン今回【挑発】は使わないでくれ。エルは俺と離れた所で魔法で攻撃だ」

「剣は使わないのですか?」

「そうだ。コイツは初見だし毒状態にされそうだからな」

「……バンバン打つ」

「悪いけどエルの方は頼む」

「はい。わかりました」


 などと作戦会議をしていると十足ムカデが突っ込んで来たので2手に別れて避ける。

 十足ムカデはエル達の方へ行ってしまったので【挑発】を使いこっちに誘き寄せる。カノンなら下手に攻撃を受けないと思うけど毒消し草は俺が持っているから毒状態になってもすぐに対処できる。

 あまり俺との距離が近過ぎたらエルが攻撃しづらいと思ったので時折牽制として魔法を放つ。

 そうしてチクチク魔法で攻撃していたら十足ムカデは倒れ足が1本落ちていた。


【毒足】


 また素材アイテムか。レアドロップなら武器、防具が落ちればいいんだけど。ドロップするだけマシか。


「なんか釈然としませんね……」

「……ご主人様にばっかり行ってた」

「あー……、そんな時もあるよ。うん」


【挑発】を使ったのは言わないでおこう。

 ボスも倒したので俺達は帰路につく事にした。


「それでここが依頼主の店なのか?」

「はい! ここら辺ではちょっとした有名な飲食店です!」

「……ん!」

「なるほど……」


 俺達はリスターバに戻りクエストのハチミツを届けに来たのだがその店には看板にはハチミツと蜂が描かれていた。

 なるほど甘味ですか。今まで菓子などを売ってる店が少なかった。ならばうちの女性陣がやや興奮してるのも致し方ないな。


「いらっしゃいませ~」


 店内へ入ると女性の店員があいさつをしてきた。

 内装はシンプルで落ち着いた雰囲気で奥にはカウンター席もある。


「あ、俺達は客ではなくクエストのハチミツを持ってきた者です」

「そうなんですか~? ご苦労様です~。今店長を呼んで来ますね~」


 おっとりとした店員はカウンター奥に消え

 俺達3人になってしまった。

 この店本当に開店しているのか? 客が1人もいないのだが。まあたまたまかもしれない。カノンも有名な店っていっていたし。


「アンタらかいクエストを受けてくれた冒険者は?」


 しばらくしたら奥から店員と女性が1人出てきた。この人が店長か。美人だがなんか怖そうな人だ。例えるなら同じクラスの一匹狼のヤンキーって感じ。


「怖がらなくてもいいからね~。只単に目付きが怖いだけで店長優しい人だから~」

「ノワうるさいよ。それで依頼の物はどこにあるんだい?」

「今出しますね」


 俺は近くにあったテーブルにアイテムボックスからハチミツを取り出す。


「へえ、珍しいスキルを持ってるね。にしても50個か。アンタら3日くらいダンジョンに籠ってたのかい?」

「いえ、途中で別の階層に移動したので半日もいませんでしたよ」

「そうなのかい……」


 ふむ、3日籠ってこの数くらいのドロップか。かなり渋いな。


「にしてもこの数はなー。悪いけど30個にしてもらえないかい?」

「それはいいですけど」

「失礼ですが30個で足りるんですか? この店は評判がいいと聞いたのですが?」


 カノンが聞き返すと店長は顔を歪ませノワさんは頬に手を当て困ったようにする。


「ちょっと愚痴に付き合ってくれ」

「はぁ……」


 これは問題事の予感

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