姫プレイと2回目のクラスアップ
「どうしてこうなった?」
「お嬢、ドロップした品を集めておきました」
「お疲れでしょう。お水をどうぞ」
「これはワシ等の今日のドロップ品じゃ。お納めください」
来た道を急いで戻って来た俺が見た光景は助けたおっさんズに囲まれたカノンだった。
「……お帰りなさい、ご主人様。もぐもぐ」
「ああ、ただいま…………何食べてんだ?」
困惑して立ち尽くしていた俺に干し肉を食べてるエルが声をかけてくれた。
「……干し肉。戦いが終わったらあの3人から貰った」
なるほど、自分達を守りながら戦っていた2人は謂わば命の恩人だ。なら感謝するのは当たり前だがあれは行き過ぎのような気する。
「エルはカノンみたいな扱いはされなかったのか?」
「……これ」
そう言って袋いっぱいの干し肉を見せてくる。
そんなに貰ったのか。でも帰ったら晩飯を食べるんだから今食べ過ぎるなよ……。
「ハルキさん! 助けてください!」
さっきまでオッサンズに囲まれていたカノンが俺に助けを求めて走ってくる。
何で助けてなんだ?
俺が訳のわからないままカノンは俺の後ろに隠れる。
「コイツはお嬢達を見捨てて逃げたクソ野郎じゃないですか!」
「そんな奴よりも俺達とパーティーを組みましょうよ!」
「戦いになったらワシ等が必ず守っちゃるけー」
「守って貰わなくても結構です!それにハルキさんは逃げたんじゃなくて離れた所にいた魔物を倒しに行ってたんです! 私もエルさんもハルキさんのパーティーを抜けるつもりはありません!」
この会話を聞いてなんとなく察せた。つまりコイツ等はカノンとエルをパーティーに引き抜きたいが2人共その気はない。だからしつこく付きまとっていると。
つーか、盾役のシールダーを守ってどうする。
あれか? 男性キャラが女性キャラを守りながら戦う姫プレイと言うやつか?
「悪いけどアンタ達がギルドでシールダーのクラスを馬鹿にしてたのを聞いてたんでね。そんな奴らのパーティーに2人を任せられない」
コイツ等はパーティーメンバーがやられて仮のメンバーにしか考えてないと思う。
どうせちゃんとしたメンバーが見つかればすぐに用済みとしてポイするに決まってる。というかコイツ等近くで見たら結構いかつい顔してんな。ヤクザ関係と言われても納得するレベルだぞ。
「シールダーの奴はダメだがお嬢は違う」
「そうです。金色の衣を纏いながら戦うお人が普通のシールダーな訳がない」
「ありゃあ、まさに光の女神様と言っても過言じゃあねー」
金色の衣って【ゴッドフォース】のオーラの事か?それならカノンだけじゃなく俺とエルも現在進行形で出てるのだが。
「それはお嬢の加護でパーティーメンバー全員に効果があるんだろ。なのに1人でさっさと逃げ出しやがって」
「あっちのお嬢ちゃんだって風属性なのに頑張って戦ってたのに」
「それでも男か? コラァ!」
やめろ、お前ら顔が恐いんだから顔を近付けるな!
こっちもいろいろ言いたい事があるけど今は早くギルドに行きたいんだよな。
「はあ。このパーティーのリーダーは俺だ。本人も嫌がってるし諦めてくれ。行くぞ」
俺はそう言い放ちカノンの手を掴んでオッサンズの前から立ち去る。エルも後からついて来た。
「お、お嬢~~」
「せめて一緒のクランに……」
「ぬぅぅおぉぉぉ~~」
さて、あんな奴らはほっておいて早くギルドに行こう。
「あ、あのハルキさん。急いで何処にいくんですか?」
「あ、悪い。歩くの速かったか?」
「いえ、それは大丈夫ですけど。手を……」
「あっ」
そういえば手を握ったままだった。
俺はあわてて手を離す。
「ご、ごめん。咄嗟とはいえ嫌だったよな」
「いえ、別に嫌というわけでは……」
「…………」
「…………」
なんだ! このなんともいえないむず痒さというかなんというか……。
「それで……どこに行くの?」
「うわ!」
び、びっくりした。けどエルのおかげで外れかけた話題が元に戻った。
「えっと、これからギルドに行くつもりだ」
「ギルドですか? もしかして高く売れそうなアイテムがドロップしたんですか?」
「あ~、ドロップはしたけどこれを売る気はないな」
俺は自分の腕に着けてある銀色のバングルを見せながら言う。
【アスカノのバックル】
【装備者を対象にしたステータスアップの効果をパーティー全員に少し与える】
レフケンスからドロップしたアスカノのバングルはシルバーアクセサリーみたいに点と1本の線が刻まれていた。文字か何かの図形なのかよくわからないな。
そして効果もいい。
これを装備していれば自分自身にしか効果を発揮しない【剛腕】などのパッシブスキルがパーティーメンバーにも少しだが効果の対象になる。つまり俺がコピーしたパッシブスキル全てが少しずつパーティーメンバーに効果を与える。
チリも積ればなんとやらだ。STRを強力する【剛腕】を3種類を持っていれば少しといえどバカにはできないだろう。
「では何をしにギルドへ?」
「それはな……クラスアップだ」
「え?……えええぇぇ~~~!」
俺もレフケンスを倒してから自分のステータスを見て気が付いたからな。
カザマハルキ 16歳 男
ソルジャー Lv34★
カノン 14歳 女
シールダー Lv33★
エル 16歳 女
マジックユーザー Lv37★
カノンとエルにも★マークが出ている。俺達3人共クラスアップができるけどクラスアップをしたらLv1になってしまう。
やるなら1人ずつなんだが1つ気になる事があるんだよな。
「無理です無理です! 私達ほんの数日前にクラスアップしたばかりじゃないですか! 普通なら早くて1ヶ月もかかるんですよ!」
「言いたい事はわかる。けど俺にはクラスアップできるかできないかわかるんだ。理由はちょっと言えないけど」
2人にレベルだの★マークだの言ってもわからないだろうしな。それならいっその事言わない方がいい。混乱させるだけだしな。
「ハルキさんは【クラスアップ鑑定】のスキルも持ってるんですか?」
そんなスキルもあるのか。なるほどギルドで調べれるのはそのスキルを持った職員がいるからか。
「あ~、それに近いスキルかな。とりあえずギルドに行くか」
急いでいるにしても走る程でもないので2人と並んで歩いて行く。
◇
「カノン聞きたい事があるんだけどいいか」
ギルド前まで来て俺は気になっていた事を聞く事にした。
「はい。なんでしょうか?」
「クラスアップの事なんだけどクラスアップをすぐにするのとしばらくしてからするとで違いってあるのか?」
クラスアップをすればLv1に戻ってしまう。こういったシステムなら大抵レベルに応じてステータスにボーナスが付くはずなんだよな。元のレベルが高い程後々強くなるみたいな。
「え~と、私はよくわからないですが……。それってそれぞれ違ったりするんですか?」
「……スキルの違いもある」
「だよな」
ゲームならセーブデータを複数作って違いを見たり、面倒ならネットの攻略掲示板なり見ればいい。
でもここではエルが言ったように人によってスキルも違うしそもそもステータスが数値化されていない。そんなのでクラスアップ後の違いなんてわかるはずがない。
「あ~、さっきの質問は忘れてくれ。で、次が本題なんだが。誰がクラスアップをするかだ」
クラスアップ後Lv1になるなら全員をクラスアップさせるのは危険を招く。
レベルが下がるなら当然ステータスも下がる。明日も同じ所で戦うならダメージを与えづらく、逆にこちらがくらうダメージが大きく今日みたいにスムーズに進めないはずだ。
だから3人パーティーの俺達には戦力的にクラスアップさせるのは1人がいいと思う。問題はその1人を誰にするかだ。これは俺の一存では決められない。
「そうですね。…………私はハルキさんかエルさんのどちらか御2人がいいと思います」
「それは何でだ?」
「私達のパーティーで1番強いのはハルキさんです。強い人をより強くさせようと思うのは普通の意見だと思います」
まあ、当然だよな。弱い奴を育てるより強い奴を育てた方がいいのは納得できる。でもここで怖いのはそのクラスアップの方向性を自分で決められない所なんだよな。
俺は剣と魔法の両方を使って来た。ここで魔法主体のクラスになったら目も当てられない。まあ、今はソルジャーだから無いとは思うが。
「それでエルさんは早くクラスアップをしてもらってスキルの種類を増やしてもらいたいからですね。風属性でもスキルの種類を増やせばできる事も増えますからね」
確かに今エルが覚えてる魔法は攻撃魔法の【ウインドボール】【ヴァンストーム】と防壁魔法の【ウインドウォール】の3つだけた。
クラスアップをすれば補助魔法やより強力な魔法を覚えるかもしれない。
「なるほど、でもカノンはいいのか? その意見だと自分がクラスアップするのは最後になるぞ」
「私はそれでいいです。パーティーを強くするならその方がいいでしょうし。それに私なら今のスキルでも問題ないです」
カノンのクラスはシールダーだ。攻撃スキルを覚えないからハズレクラスと称されこのクラスになったら戦わないのが常識らしい。
それでもカノンは冒険者を続けているのは魔物への憎しみからだったが今ではパーティーメンバーや他の人を守るために戦っている。
こんなふうに他人のために戦える娘が評価されないのは気にくわない。だから俺はこの娘を強くさせると決めたのにその本人が乗り気じゃない。
でもさっきのカノンの意見に賛同している自分もいるんだよな~。
「…………ご主人様。……私、クラスアップしたい」
エルが家事以外で自分からやりたいなんて言うのは珍しいな。
「……クラスアップして、ご主人様の役にたつ」
「むう……」
それなんだよな。エルは自分が奴隷だからなのかやたら俺の役にたちたがろうとする。
例えば俺が言った事を嫌な顔をせずにする。たぶん嫌だとしても何も言わずにやりそう。
だからってそれを理由に如何わしい事なんて要求してませんよ! ホントに!
「わかった。俺の役にたつとかは置いといてエル自身がやりたいならそうしよう。カノンもいいか?」
「はい」
クラスアップをさせる人が決まったので俺達はギルドに入る事にした。
「いらっしゃいませ。今回の御用件はなんでしょうか?」
「この人のクラスアップをお願いします」
エルを前に出し受付嬢さんに伝える。
「ではまず、クラスアップ鑑定ですね。クラスアップ鑑定で銀貨1枚、クラスアップで銀貨5枚。合計銀貨6枚になります」
「いえ、鑑定はいりません」
「え?」
クラスアップができるとわかってるのに鑑定なんかして金を捨てたくないのでさっさと断ることにする。
しかも最初のクラスアップは銀貨3枚だったのに5枚になっている。クラスが上がるにつれ料金も上がるのか。
「鑑定をしておかないとクラスアップができない可能性もありますが……」
「あ、大丈夫です」
「おろおろ、あわあわ」
「……………」
受付嬢さんと俺の問答でカノンがどうしていいかわからない感じにあたふたしている。見ていて面白いな。
エルは相変わらず無表情で立っている。
「わ、わかりました。クラスアップで銀貨5枚いただきます」
「はい」
「では、こちらにどうぞ」
俺は出されたトレーに銀貨5枚置いたら受付嬢さんが案内してエルが奥の部屋に入って行く。
「よかったんですか?」
「ん?」
「鑑定の事です。私は鑑定のスキルがありませんからわかりませんが。私達は最初のクラスアップをしてから数日しか経ってませんし、あまり自分が強くなったとも思えないんですが」
普通ならクラスアップの最低レベルもわからないんだ。ならその規定レベルより上の状態でクラスアップしてるんだろうな。
「大丈夫だ。俺達はクラスアップのための最低条件はクリアーしてる。でもクラスアップができるにしてもそれが早い方がいいのかどうかはわからないけどな」
「はあ」
カノンはよくわかってないみたいだけど納得してくれたみたいだ。話が一区切り着いたところでエルが戻ってきた。
エル 16歳 女
ソーサレス Lv1
「………………ただいま」
「ああ、おかえ……り?」
戻ってきたエルはなぜか落ち込んでいた。




