ランタンと無双ゲー
ウィスプを倒してながらしばらく進むとボス部屋が見えてきたのでいつもどおりカノンからボスの情報を聞く。
「5階層のボスはジャックランタンです。ウィスプと違って魔法以外でも倒せるので5階層では比較的倒しやすいのですが……。私達には関係ないですね……」
ここまで来るのに倒したウィスプは全て1撃で終わってる。俺達にとってはウィスプの方が狩りやすい相手だった。
「ジャックランタンは手に持つランタンから火を放って攻撃してきます。他にも宙に浮いてたり一瞬で移動したりとトリッキーな動きをしますから気を付けてくださいね」
カノンの話によるとそれらもスキルによる効果なら最低でも3つはスキルを持っている事になる。その内攻撃スキルは1つだけか。
「よし。それじゃあ行くか」
「はい」
「……ん」
ボス部屋に入り現れたのはカボチャ頭の魔物だった。
ジャックランタン Lv25
スキル【誘う者】【火球】
頭には三角帽子、マントがつけられ両手に白い手袋をしている。片手には青白く光るランタンが持たれているがそれ以外の体がなかった。
つまり頭と両手に攻撃を当てないとダメージを与えられないやつだな。マントに当たり判定はないだろうし攻撃してもおそらく無駄だろう。そしてスキルは2つだけか。
【火球】
【火属性:敵1体に火の球で攻撃する】
【誘う者】
【空中での移動、短距離での瞬間移動ができる】
なるほど、この【誘う者】のスキルは複合スキルだったか。
当たり判定が厳しいうえに瞬間移動持ちか。めんどくさいな。
「エル、範囲魔法で一気に終わらせるぞ」
「……ん」
「【フレイムストーム】」
「【ヴァンストーム】」
エルはジャックランタンのいる場所、俺は少し奥の方を狙って範囲魔法を放つ。
だがジャックランタンはスキルを使い俺達の魔法の範囲外に瞬間移動して避けた。
チッ、浮いてるだけでも攻撃が当てづらいのに瞬間移動もするなんて。これは長期戦になるな。
「……あ、【挑発】!」
俺が長期戦を覚悟しているとカノンが【挑発】のスキルを使った。
え、今回必要か? 今まではカノンに【挑発】を使ってもらい近付いて来る魔物を途中で魔法を使い倒して来た。でも今回は瞬間移動をしてくる魔物だ。範囲魔法を使ったらカノンまで捲き込んでしまう。だからといって単体魔法じゃあ当たらないし。
そうこう考えてるうちにジャックランタンはカノンを標的にしたのか突っ込んでくる。
「【フレイムストーム】」
相手が突っ込んでくるのに合わせて魔法を使うがさっきと同様に瞬間移動で避けられた。
クッソッ! あっちもMP消費でスキルを使っているのなら相手のMPが無くなるまでの長期戦だがMP消費なしだったらかなり面倒だぞ!
「……カノン後ろ」
「ッ!」
エルの言葉でジャックランタンの位置がわかったが距離が離れてるため魔法じゃないと届かない。でもカノンがいるから無闇に魔法を撃つ訳にはいかない。
ジャックランタンはカノン目掛けて殴り掛かる。腕がないため不規則な動きで端から見ても予測しづらい攻撃だ。
「【バッシュ】!」
だがカノンは盾の面の広さを利用して手をぶん殴る。
手への攻撃も本体に連動しているようでカボチャ頭も動きを止めた。
「…………」
「ハルキさん今です!」
「あ、あぁ……」
イグニス・ファトウスの戦いからバフは切れてないので動けないジャックランタンを一撃のもと切り伏せた。
シールダー、攻撃には問題があるけどある意味最強じゃね? まぁ、味方に左右される クラスだな。
【ランタン】
【水に浸けても消える事のない火で辺りを照らす】
ジャックランタンのドロップはランタンだった。これが通常ドロップなのかわからないけど便利そうだ。
金属みたいな四角形の骨組みにガラス張り。どこにでもあるような普通のランタンだけど中にある火種が青白い炎だった。それに燃料らしき物もないし宙に浮いている。……考えないようにしよう。
「わぁ、ランタンですか。これがあればロウソクの消費も抑えれますね」
「……ん。部屋が多いからロウソクもいる。……でもランタンはかなり高い。でも便利」
ふむ。ならあと何周かした方がいいかな。でも今日はこれで切り上げよう。明日にすればいいし無理は禁物だ。
そして俺達はダンジョンを出た。
まだ【ゴッドフォース】の金色のオーラがあったけどダンジョンの裏側に出るから見つかってないと思う。多分。
街道を歩けば目立つため林の中を歩く事にした。しばらくしたら【ゴッドフォース】の効果が切れオーラが消えたけど。【バイセクト】などのスキルより約2倍の持続時間だった気がする。効果も強いしこれからお世話になりそうだ。
MPの問題もレベルが上がればいいし今日ドロップした闇の首飾りを装備すれば回転率もよくなりそうだ。
「ん? これは……」
「どうかしたんですかハルキさん?」
「……魔物?」
エルの言うとおり魔物だ。ただその数が尋常じゃない。60体は絶対いるぞ。しかもその群れに囲まれてる人達がいる。……襲われてると考えてもいいだろう。
どんな魔物かわからないけど今の俺達なら大丈夫のはずだ。問題は俺が複数のクラスのスキルが使えるのを他人に見られる事だ。後々面倒な展開になるのは御免被る。
……よし、やれるだけやってみるか。
「この先に人が魔物に襲われてる。でも魔物の数がかなり多いんだ。俺は行くけど2人には強制はしない。どうする……」
さすがにあの数だ2人には危ない目にはあわせたくない気持ちもあるので自分で決めさせようと思った。
俺1人でも接近戦が使える相手ならなんとかなるだろう。
「人が襲われてるなら私も助けに行きたいです。それに守るのが私の役割ですからハルキさん1人で行かせられません」
「……ご主人様が行くなら私も行く」
2人共全然迷わずに言う。
この世界はゲームのようなHPやMPがありHPが0になったら死んでしまう。復活アイテムもなければリセットもできない本当の死だ。
「わかった。なら俺に付いて来てくれ」
【サーチ】のスキルで魔物の場所がわかるけどまずはどんな魔物か確認したい。
でもここは林の中だ。木が邪魔でなかなか見えないので一定の距離から走るのを止めてしゃがんで姿勢を低くしてゆっくり進む事にした。
ハントハウンド Lv12
ハントハウンド Lv16
スキル【ブラッドクロー】
ハントハウンド Lv13
ハントハウンド Lv14
ハントハウンド Lv19
スキル【ブラッドクロー】
【ブラッドクロー】
【このスキルを使うごとにSTRが10%上昇。上限200%。効果は日付が変わるとリセットされる】
うわー、これは想像以上だわ。
Lv10〜Lv20のハントハウンドがわらわらいる。以前倒した奴らよりレベルが高い。こんなのが60体程いるのか。
やっぱり助けるのやめるか? ここに来る間に6人から4人に減ってる。HPの残量は助けられるかギリギリのラインかもしれない。
「ハルキさん、あそこに人がいます」
カノンの指差す方を見るとハントハウンドに囲まれ1ヶ所に集まり背中合わせで攻防している人達が見える。
ん? アイツ等どこかで見た事があるな。……どこだったけな?
………………………………………………あっ!
ギルドでシールダーをバカにしていたおっさんズじゃないか!
助ける気失せたわー。見なかった事にするか?
「あ、あの助けに行かないんですか?」
俺がなかなか指示を出さないからカノンがおずおずと聞いてくる。
俺的にはもういいやと思うがバカにされていたシールダーのカノンに聞いてみるか。
「アイツ等シールダーのクラスの人をバカして笑ってたんよ。カノンはそれでも助けようと思うのか?」
「……それはしょうがないですよ。シールダーはなにもできない役立たず、冒険者のあいだではシールダーになったらクラスチェンジをするのが当たり前ですから」
カノンは苦笑いをしながら言うがその認識が間違ってると俺はわかっている。その証拠にカノンは自分の役割をちゃんとこなしているんだから。
「……でもハルキさんと戦うようになってクラスによって良し悪しがあるのはわかりました。シールダーの私でもやれる事はあるんだ、なにもできなかった私でも今なら誰かを守れるんだって。だから私は助けれる人がいるなら助けたいです」
なんか年下のカノンの方が俺より大人だな。俺なら助けない。むしろ死ねとさえ思う。器の小さい奴とか言われても構わん。
いじめで心に傷を負ったり人生が変わってしまう事もあるんだ。そういう奴等は報いを受けるべきなんだよ。
……私情はここまでにしてカノンが助けたいなら助けるか。
「さて、カノンはあの群れの半数ぐらいを【挑発】を使って誘き寄せてくれ。あの人達から離れた所に俺とエルで範囲魔法を使う」
さすがにあの数だ。分断させて半数にしても1発で全滅は無理かもしれないがかなりの数が減るはずだ。もしかしたらそれで逃げ出すかもしれない。
「あの、【挑発】を使ったら全部の魔物が来るのでは?」
「カノンが意識してスキルを使えば大丈夫だ。奥の方の魔物は気にしないで手前の方の魔物に集中してスキルを使うイメージかな」
実際これは検証済みだ。カノンが【挑発】をした後に俺が1体だけに意識を向けて【挑発】を使ったらその1体だけ俺に向かって来た。
その後に何故かカノンに謝られたので居心地が悪かった。
「そんな使い方もあったんですね。わかりましたやってみます!」
カノンは立ち上がり俺達の前に出た。
「すうー、はあー。【挑発】!」
カノンは深呼吸をしてスキルを使う。すると半数よりも少数だったがそれでも十分な数のハントハウンドがこちらに振り向いた。
「よし、かかった! 俺達も下がって距離をあけるぞ!」
「はい!」
「ん」
こちらに走って来るハントハウンド達を確認して俺達も後ろへ下がる。そして冒険者達から充分に距離が離れたと思った所で範囲魔法を使う。
「【フレイムストーム】!」
「【ヴァンストーム】」
俺とエルは同時に互いの魔法が重なるように唱えると俺が放った【フレイムストーム】がいつもより大きく激しく燃え上がっる。
上手くいったようだ。風属性は他の属性より攻撃判定の範囲が広く【ヴァンストーム】が【フレイムストーム】の炎を巻き込んで炎と緑色のエフェクトを散らす竜巻ができた。
その竜巻にハントハウンドが次々とのまれる。
「これで半分くらいは減ったな。カノンは残りの魔物に【挑発】をかけてエルはこれを持ってあの人達を助けに行ってくれ」
念のため救助を優先してアイテムボックスから回復薬が入ったビンを4本取り出しエルに渡す。
俺が回復出来ない時用に買っといて良かった。
「わかりました。【挑発】!」
「むー、私も戦いたかった……」
エルにはなるべく大回りをしてハントハウンド達にターゲットにされないよう伝え行ってもらう。
さっきの攻撃にのまれたハントハウンドはほとんど倒したのに残ったハントハウンド達は1匹も逃げようとしない。むしろ余計に敵意剥き出しだ。これは殲滅戦になりそうだな。
ハントハウンドは俺達を逃がさない囲んで来る。
ソルジャーの俺が上級クラスの光属性の魔法を使う所を見られるのは嫌だが火属性の魔法では1発でHPを削りきれないと思う。ここは確実に倒せるように接近戦でいくか。
「【バイセクト】【ブレイジング】【ブースト】【プロテクション】」
黄色のオーラが出る光属性の【シャイニングフォース】は今回は使えない。
「よし、来い!」
俺の言葉と同時にハントハウンドが4匹飛びかかって来る。
先頭の奴に剣を振り下ろし攻撃、次の奴は噛みついて来たので左腕を噛ませておもいっきり蹴りあげる。後続の2匹は横凪ぎでまとめて倒す。
ヤバイ。この多さは思ったよりキツイな。
カノンの方を見ると【プロテクション】を使っているようで白いオーラを纏っている。
盾での防御を優先にしていて、たまに攻撃をしている。シールダーはSTRが低いのでたいしたダメージにはならない。
やはり俺が倒していかないとダメだな。
「HPが危なくなってきたら早めに教えてくれ。それとこれも渡しておく」
カノンに近づきアイテムボックスにある最後の1本を渡す。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「え、行くってどこへ? ……ちょっハルキさーーーん!」
一言言ってから俺はハントハウンド達目掛けて突っ込み思いっ切り剣を振り回す。それはまるで無双ゲームのように斬って斬って斬りまくる。
袈裟斬り、切り上げ、横凪ぎ、刺突、他にも回転斬りなんもやってみる。……回転斬りあんま当たんねー。
時折ダメージをくらうが回復はせずにただひたすら攻撃する。1撃で倒せるなら攻撃に専念して早く終わらせるにかぎる。
範囲魔法のおかげで最初60体いたハントハウンド達も37体程だ。なんとかなる。
現にハントハウンド達も徐々に減って後13体だ。これならいける。
「ウオオォォーーーン!!」
「……え?」
どこからか遠吠えが聞こえたと思ったら目の前のハントハウンドにドス黒いオーラが現れた。
これはいったい。




