ウィスプと即死スキル
階層を降りて5階層にたどり着いた俺達はMPが全回復するまで休憩している間にカノンからこの階層の事を聞いていた。
「この階層の魔物はウィスプなんですがいろいろと問題のある魔物なんです」
「問題?」
ウィスプ。正確にはウィルオウィスプだったか。鬼火などの伝承の1つで現世に漂う死者の魂と言われている。
「はい。ウィスプには普通の攻撃が効かないみたいなんです。だから魔法が有効な攻撃法らしいです」
え、なにそれ。幽霊だから物理攻撃が効かないとかそんな感じか?
魔法ならエルも使えるし、まあ大丈夫かな。
「それともう1つ。ウィスプのドロップなんですが使い道がよくわからないんです」
今までのドロップ品は生活に使われたり武器、防具やら冒険者に必要な物だ。
「【道具鑑定】を使ってもわからないのか?」
「なんでもアイテムの内容がわかっても意味ががわからないらしいです。なんかよくわからないですけど……」
んー。英語が読めても日本語訳ができない感じかな。無理あるな。この例え……。
なるほど、それでこの階層には人がいないのか。最弱のジャックコボルトの所でも数人はいたぞ。
でもこれなら人がいない所を選んで進まなくていいから楽だな。
「ま、なんにしてもこの階層も進まなきゃいけないし魔法は俺とエルで、ドロップの事は気にしないでおこう」
その後はご飯を食べたり他愛ない話などをして時間を潰してMPの回復を待った。
「さてと、MPも回復したからスキルを使ってみるな」
「……あの~。ちなみにどんなスキルなんですか?」
カノンがおそるおそる聞いてくる。
そんなに怯えんでも……。俺が戦闘で使ってるスキルはクラスで覚える習得スキルだ。
ならそこまで珍しいスキルじゃないはずなんだけど。
「今から使うのはパーティー全員の全ステータスが上がるスキルだ。今まではMPが少なくて使えなかったけど今なら使えるかもって思って」
「よく分からないですけどそんなスキルがあるんですね。……ハルキさんだからしょうがないです。そうですハルキさんなんだから……」
カノンは苦笑いをした後なにやらと小声で言い出した。
ん?俺何か変な事言ったか?
「……すてーたすって何?」
ああ、ステータスの意味がわからなかったのか。
「ステータスっていうのは攻撃したとき与えられるダメージや攻撃されたときダメージを軽減する数値とかの個人の能力値の事だ。それが上がると強くなれる」
「……そうなの? ……だから私のスキルで魔法が強いの?」
「そういうことだ」
エルの個別スキルは【魔力強化(大)(中)】だ。魔法の攻撃力などに関係するINT値が高いため魔法の威力が高いんだ。
「……全部のすてーたすが上がるなら私もご主人様と一緒に前衛で戦える?」
そこなんだよな……。ステータスが数値化されてないからどのくらい上昇するのかわからない。だからあまり危険な事はさせたくないな。
「さすがにそこまで上がらないと思うからエルはそのまま後衛で戦ってくれ」
「……そう」
なんでガッカリするんだ? 今でも十分戦力になってるのに。
これも乙女心なのか? ……わからん。
「それじゃあいくぞ。【ゴッドフォース】!」
「ふぁ!」
「……きれい」
スキルを使ってみるとキラキラと輝く金色のオーラが俺達を包んだ。
あれ? 光属性は黄色のオーラだったけど色が変わってる。強さか能力によって違うのか? んー、わからん。
ってうわっ! MPがゴッソリなくなってる! さすが上級クラスで覚えるスキル。最大MPが上がる【魔力量(大)(中)(小)】揃ってるのに半分以上なくなった。MP消費量ハンパない。
「……これで強くなったの?」
「そのはずだ」
「なんか身体中に力が溢れる感じです」
「消費が激しいから頻繁に使えないけどな」
もう1つスキルを使ってみたかったけど今日じゃなくてもいいか。スキルの持続時間がわからないからさっさと行こう。
先に進むと青白い火の玉が浮いていた。
「たぶんあれがウィスプですね」
「……火には水」
「ウィスプは水属性が弱点なのか?」
「…………そうなの?」
質問に質問で返されても……。エルの事だから普通の火と同じように考えてるな。
「水属性も弱点かもしれないけどここは光属性でいこう」
「……ご主人様全部の属性使える?」
「まだ全部ではないかな」
「…………そう」
闇属性がコピーできてないし、まだみんなの前で風属性は使ってないけど複数の属性の魔法を使ってたらそう思われるか。
話を止めまずは【鑑定】で見てみると厄介な相手だった。
ウィスプLv13
スキル【魂の体】【私怨】
【魂の体】
【無属性の攻撃を受けない】
【私怨】
【闇属性:火の玉を出し、その火に触れた敵のMPを減らす】
魔法しか効かないってのは【魂の体】のせいか。しかもMPを減らすスキルも持っている。
MPがなくなればスキルが使えなくなりウィスプを倒せなくなる。これは戦闘が長引けばじり貧だな。
でも俺の武器は風属性が付与されているエアーブレイドだ。これならウィスプの【魂の体】も意味はない。
でもまずは弱点だと思う光属性で1番弱い魔法を試してみるか。
「【ホーリーライト】」
スキル名を唱えるとウィスプの周りが光に包まれるとそのまま霧になった。
い、1撃かよ……。弱点の属性に極端に弱いのか、それとも【ゴッドフォース】のバフが強いのか。
MPの回復を待ってる間にかけていたバフは全部時間切れで今かかってるバフは【ゴッドフォース】のみだ。
そしてウィスプがドロップしたのは透明な小さなクリスタルだった。
【魂の結晶】
【散らばった魂の欠片】
これか用途不明のアイテムは。確か【鑑定】で見ても使い道がわからないな。
でもこれってゲームでいう収集アイテムだろ。特定のアイテムを一定数集めてNPCに渡せばイベント発生みたいな。
「1撃で終わりました……。ハルキさんが言うように光属性に弱いんですね。魔物が特定の属性で弱点があるなんて初めて聞きました」
「弱点がない魔物もいるかもしれないから一概にはいえないけどアンデット系には光属性が定番だろう」
「…………アンデット?」
「ん? ウィスプは死んだ後もこの世を彷徨う魂と言われているんだけど。知らない?」
エルの質問に答えるが2人共知らなかったらしい。
地域や国によって呼び方が変わり日本では鬼火、不知火などがある。狐火は鬼火の1種やら異なると言う2つの説があるのは蛇足か。
「まあ、そんな訳でウィスプには光属性に弱いんだ。なら今度は剣でやってみるか」
「え? でもウィスプに剣は効かないのでは?」
「この剣は風属性が付与されているから効くはずだ」
「へぇー。そうだったんですか。そういえばハルキさんこの武器の付与スキルほとんど使ってないですね。どうしてですか?」
「あ~。それは……」
ヤベェ……。付与スキルの事完全に忘れてた。
コピーした自分のスキルで十分だったから使う場面がなかったんだよな。このスキルって斬撃を飛ばすけど、どのステータス依存なんだろう。STRなら俺は前衛のソルジャーだからかなり有利になる。
ん? でも仮にINTとしても【魔力強化(大)(中)(小)】揃ってるから使えなくもないのか?
「ふ、付与スキルより魔法のボール系の方がMP消費が少ないんだ。だから今は使わなくてもいいかな~と」
「…………そうなんですか。確かに消費は少ないに越した事はないですからね」
な、納得してくれたかな。少し間があったから言い訳がバレたかと思った。
気を取り直してウィスプのいる場所に進む。
ウィスプLv15
スキル【魂の体】【私怨】
む、さっき倒した奴よりレベルが高いな。でも今度は剣で戦うんだスキルを使わなくてもいいかな。
俺はウィスプ目掛けて突っ込む。ウィスプも俺に気付いたのかウィスプより小さな青白い火の玉を飛ばしてきた。
おそらくこれが【私怨】のスキルだな。スピードは遅いので余裕で避けれる。
「っ!」
俺は【私怨】の横をすり抜けウィスプに肉薄しようとするがいきなり【私怨】が軌道を変え俺に当たりに来た。
パキンッ
青白い火の玉に当たると何かが割れる音がした。
ステータスを見るとMPが減少していなかった。そういやあ前回のボス戦で【障壁】を使ってそのままだったな。
【障壁】のおかげで【私怨】をキャンセルできたのか。おっと、考えるのは後にしてウィスプを倒そう。
「ふっ!」
ウィスプを袈裟斬りにして呆気なく煙になった。
予想はできてたけど1撃か。
やっぱり属性を付与されてる武器なら攻撃も通るな。
もしかしたらウィスプはHPが低いのかも知れない。【魂の体】で属性のない攻撃が効かなかったり、ホーミング機能のある【私怨】。その分HPが低い仕様になってたりとかなのか?
「ハルキさん大丈夫でしたか?」
「……熱かった?」
戦闘が終わるとカノンとエルが心配しながら駆け寄って来た。……エルのは心配なのか?
「ああ、大丈夫。【障壁】のスキルで無力化できたみたいだからな」
「そうですか。よかった」
「……ん」
俺がなんともない事を確認すると2人は安心していた。
ダメージのないスキルのはずだからそこまで心配しなくてもいい気がするが純粋にうれしとも思う。
「そうだな。次はエルが倒してくれ」
「……ん。やってみる」
「カノンは後ろにいてくれ。今回は【挑発】もしなくていいから」
「わかりました」
また1体の所へ進みエルに倒してもらう。
「……【ウインドボール】」
今回も1撃で終わった。俺が魔法で倒した奴と同じLv13だった。
エルの個別スキルは【魔力強化(大)(中)】で魔法の威力がかなり上がっているが今まで1撃で倒せた事がなかったのに。それだけ【ゴッドフォース】のバフが強力みたいだ。これならあのMP消費もうなずける。
「これならここの階層は楽に進めそうだな」
「……ん。……問題ない」
「そのぶん私の出番がないですけどね……」
自分も今の状態でどこまで強くなったか試したかったのだろう。カノンがしょげてる。
つ、次の階層では頑張ってもらおう。
そのあと俺の【ウインドボール】でも1撃で倒せる事もわかったが、なぜかエルに2人同時に【ヴァンストーム】を使いたいと言われ使ってみた。
……今後通路など狭い場所で使うのは止めようと固く誓った。
それとウィスプの通常攻撃がどんな攻撃が気になって待ってみたら体当たりだった。
魂の体なのに物理攻撃をするな! と抗議したいがたぶん俺の言い分をわかってくれる人はいないので心の中で叫んでおいた。
「エルもう少し行ったら1体いるから頼むな」
「……ん」
ウィスプは俺とエルの交代で倒して行った。複数いても範囲魔法で一掃できるしな。
真っ直ぐ進むと1体のウィスプがいた。でも色が今までとは違う赤黒い火の玉だった。
アレ? もしかして他の魔物か? そう思い【鑑定】で見てみる。
「あのウィスプなんか変じゃないですか?」
「違う。あの魔物はウィスプじゃない。もっとヤバイ奴だ」
イグニス・ファトウスLv25
スキル【魂の体】【死者の悲鳴】【地獄の業火】
【死者の悲鳴】
【闇属性:その声を聞いた者は命を落とす】
【地獄の業火】
【火属性:地獄の炎で全てを焼き払う】
なんだよこれ! 今まで倒してきたウィスプの倍くらいのレベルじゃないか! 特に【死者の悲鳴】のスキル説明を見た感じ即死スキルみたいだし! ヤバ過ぎる!
「……【ウィンド「ちょっと待っ」ボール】」
待ってと言う前にエルがスキルを使ってしまった。
エルの放った【ウィンドボール】はイグニス・ファトウスに直撃したがまだ奴は健在だった。
まだ見つかってなかったら逃げれたかも知れないがもう遅い。逃げた所で【死者の悲鳴】を聞いたら終わりだ。
射程範囲はわからないけどゲームならこういう技は命中率が低かったりするけど自分達の命がかかってるんだ。そんな危険な賭けはしなくない。
「【プロテクション】【障壁】! カノンもスキルを使って防御体勢!」
【プロテクション】を使って自分のVITを上げ、【障壁】はエルを対象にして使う。カノンにも【プロテクション】を使わせてこれでひとまずは【死者の悲鳴】以外で1撃では死なないと思う。
イグニス・ファトウスの火が大きく揺れると辺り一面炎の海に包まれた。
「ぐうっ!」
「きゃあ!」
おそらくこれが【地獄の業火】のスキルだろう。HPが3割程度削られた。
【生命力(大)(小)】【鉄壁(中)(小)】があり【プロテクション】を使ってるのにこのダメージか。普通ならこの1発で終わってたかも知れない。って痛ってぇ! なんだこれ? またダメージが入ってる。
このスキル継続してダメージが入るのか! 最初のダメージよりは少ないけど無視はできない。
「2人共大丈夫か!?」
「ま、まだなんとかもちそうです」
「……あまりもたない」
2人共まだ防具が初心者用だしエルは後衛クラスだ。最初のダメージはキャンセルできたけど継続ダメージだけで死にかねないぞ。
「【バイセクト】! 【ブースト】! 【ブレイジング】! 【シャイニングフォース】! これでもくらえ【エアースラスト】!」
俺は使えるバフを全て使い全力で武器の付与スキルを放つ。
スキルで放った斬撃は【地獄の業火】を切り裂きイグニス・ファトウスに直撃した。
「や、やりましたか?」
カノンそれはフラグだぞ! と思ったが結果は倒せていた。
さすが【シャイニングフォース】で威力を上げてたらオーバーキルだったか。それにHPが減った事で【不撓不屈】も発動している。
つか、10階層にもいってない下層でそんな化物いてたまるか!
イグニス・ファトウスを倒したせいか辺りの炎も消え、HPの減少も止まっていた。
「あんな危険な魔物がいるなんて情報ありませんでしたよ……」
「……ご主人様、回復お願い」
見た感じユニークモンスターだったからな。そこまでの情報はなかったみたいだ。
カノンは盾を杖代わりにしてるしエルにいたっては地面にへたり込んでいる。
「俺もあんなのとはもう戦いたくないな。【ヒール】」
即死スキルを持つ魔物なんて少ないと思いたいけど、1回ギルドで聞いてみるか。
【闇の首飾り】
【闇の女神の力が宿った首飾り。最大MPとMPの回復速度が上がり、闇属性の攻撃での威力が大きく上がる】
イグニス・ファトウスからドロップしたのは大きな紫色の宝石が填められた豪華な首飾りだった。
効果的に闇属性の魔法使い用だな。でもMPも上がるし回復しやすくなるから俺が使ってもいいかな。
そういえば前衛クラスで属性が付いたスキルをまだ見てないな。次のクラスアップで覚えたりするのか?
「あの、ハルキさんって魔物の情報を見るスキルって持っていますか? い、いえなかったらなかったでいいんです!」
闇の首飾りをアイテムボックスに入れるとカノンがおずおずと聞いてきていきなり慌てだした。どうしたんだ?
「あるけどそれが?」
「……あるんですね。まあハルキさんだからしょうがないですね……」
なんだか最近のカノン、俺が新しいスキルや教えてないスキルを使うとどこか遠い目をするんだよな。それが馴れなのか諦めなのか知らんが。まあいいか。
「ええっと。さっきの魔物の情報をギルドに売れないかなっと思ったので。普通は【魔物鑑定】を持ってる人がスキルを使って魔物の情報がわかるんですが、ユニークモンスターは滅多に現れないので情報が少ないんです」
そんなスキルもあるのか。普通の魔物ならそのスキルで魔物の名前やスキルがわかるけど稀にしか出ないユニークモンスターの名前やスキルがわからないと。
ん? ならレベルもわかるんじゃないのか? でもレベルの事2人共知らなかったしな。よくわからん。
「ならギルドに行ったときにでも言えばいいか。もう少し行けばボス部屋があるから今日は階層ボスを倒して今日は帰ろう」
「はい。わかりました」
「……ん」
2人の承諾を聞いて先に進む事にした。




