借家と手作りご飯
仲介屋に連れられて向かった借家はそこそこ大きい2階建ての一軒家で、部屋も多く複数人住むには問題ない大きさだった。
おいおい、どこが丁度いい物件だよ。明らかに安そうな感じはしないぞ。
「こちらの借家は井戸からかなり離れていましてあまり借り手が着かないのです。それにあの家自体にも少々問題がありまして……」
「問題?」
いわゆる曰く付きというやつか。いやでも幽霊とかってアンデット系のモンスター扱いかもしれないけど。
仲介屋に促され家に入ると中は家具がほとんどなくあるのは最低限の物くらいだ。
「特に問題はなさそうだけど?」
「いえ、問題なのはこちらのトイレなのです。前の住人が勝手に水洗式に改装してしまいまして、もう1部屋何やらするつもりでしたが途中で止めましたが井戸から離れているのに余計に水が必要になってしまいましたので住む人がなかなか見つからないのです。ですから家賃もかなり安くなっているのです」
なるほど、物件は大きいし家賃もなんとかなる金額だ。水の問題も俺が魔法を使って出せばいい。これほどいい物件はないだろう。
「ならここにします。家賃は毎月そちらに持って行けばいいんですよね」
「は、はい。ならこちらの契約書にサインを」
「…………」
文字の勉強はやった方がいいのかも知れない。
◇
拠点になる家も借りれたので後は買い物だな。食器や調理器具、洗濯用の桶、水を入れる瓶、あとベッドもなかったな。などといる物を買ってアイテムボックスに入れていく。大きい物もアイテムボックスに入るのは利点だな。
「……あの、ハルキさん。なぜベッドを3つも買ったんですか?」
「え? カノン達もベッドはいるだろ? それに女の子を床に寝させるのもどうかと思うし」
俺の言葉にカノンの動きが止まった。ん?また俺変な事言ったかな?
「わ、私もハルキさんと一緒に住むんですか!?」
あれ、言ってなかったっけ? カノンがめちゃくちゃ驚いてる。
「部屋もあるし毎日パーティーを組むんなら一緒に住んだほうが手っ取り早いだろ」
「それはそうですけど……」
心の準備が……、まだ結婚もしてないのに……、とかカノンがブツブツ言い出した。
やはりパーティーを組んでいるとはいえ男と一緒に住むのは抵抗があるか。冒険する仲間は同じ拠点に住むなどと俺もまだゲーム感覚が抜けてないらしい。
「ごめん迷惑だったな。カノンが嫌ならもちろん強制は……」
「そんな事ないです! ぜひ私も住まわせてください!」
しないと続ける前に勢いよく遮られた。そんなに勢い込まんでもいいのにちょっとビックリした。
「な、ならいいんだけど……。エルもいいよな」
わざわざ奴隷であるエルに聞かなくてもいい気はするがそれでも他の人意見は大事だと思うわけで、後々文句を言われたくないし。
「……ん。ご主人様がいいなら、私もいい」
「そ、それとクエストの報酬の1部を家賃などに使う共同財産として貯めていきましょう。みんなで使う物をハルキさんだけのお金で買うのはどうかと思いますし」
などとカノンが言ってくれる。でも家が欲しかったのも、一緒に住みたいと言ったのも俺の我が儘なので別に気にしないのに、カノンがその方がいいと言うならそうしよう。
この日は買い物が終わった時には日が暮れていたのでダンジョンに行くのはやめておく事にした。
夜になり俺は自室のベッドで横になっていた。
「はあぁ~~。さすがにあれは想定外だった。まさかこんな事になるなんて……」
◇
少し時間を遡り腹が空きはじめそろそろ夕飯にしようと思いどこかへ食べに行こうと言ったら、「だったら私が作りますよ。父と暮らしていたときは私が料理を作ってたんですよ」とカノンが自信満々で言ってきたのでので任せることにした。
「さあ、できましたよ」
テーブルには黒パンと肉と野菜の炒め物、スープが置かれていた。
米を炊くのに時間がかかるので材料を買うついでにパンも買い、肉はリブピックがドロップした肉を渡しておいた。
「おぉ、これはうまそうだな」
しかも女の子の手作りならば余計にうまそうに感じてしまう。
俺は大皿に盛り付けされてる炒め物を小皿に取分けて食べてみる。
「…………」
率直な感想うまいか不味いかと言ったらハッキリ言って不味い!!
え? なにこれ、店での料理は普通にうまいけど家庭料理になったらこんなになんの!? 見た目がうまそうな分余計にダメージ大きいわこれ……。
俺には判断基準がないのでエルの方を見てみる。
あ、エルも1口食べた後なのか箸が止まっていた。いや、少ししてゆっくり食べ始める。絶対食べれないって程でもないが無理して食べなくてもいいんだぞ。
「どうですか? ハルキさんのお口に合えばいいのですが」
心配そうにでも期待した目でこちらを見ながらカノンが聞いてくる。そんなカワイイ少女に俺がハッキリ不味いと言えるはずもなく。
「お、……おいしいデスヨ」
「よかった。ならこれから毎日作りますね」
それは俺達にとってある種の死刑宣告だった。
俺とエルで咄嗟にアイコンタクトを交わす。
『エル料理はできるか?』
『できるけど私もそこまで美味しく作れる自信はないわよ』
『カノンの料理と比べると?』
『……私の方が美味しく作れるわね』
『なら十分だ』
などとエルの淡々とした口調を脳内変換するのはご愛嬌。
「カノンの気持ちは嬉しいけどエルがいるしエルに頼もうと思うんだ」
「……ハルキさんがそう言うなら」
カノンはチラリとエルを見るがエルも頷く。
「……ん。大丈夫。問題なし」
それを見てカノンも渋々と頷いてくれた。
ふう、これで俺達の平穏は守られた。




