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野営と大群

 その後も多少の戦闘はあったものの、難なく終わり今は野営の準備をしている。


「それにしても君達、その歳でEランクなんてすごいね。魔物との戦いも馴れてる感じだし」


 そうなのか? そういえばクリスさんもEランクの最短記録とか言ってたっけ。


「特にハルキ君だったけ。君は感知系のスキルを持っているのかな? 魔物の場所がわかっていたようだけど」

「いえ、虫の知らせみたいな、なんとなくそんな気がするってだけですよ」


 魔物や人の場所を把握できるスキル【サーチ】、コピーした持ち主はこのスキルのせいでいろいろ大変な目に遭ったと聞かされたので、適当に濁しておく。

 利用されそうで嫌だな。もう少し目立たないようにしよう。


 晩飯の保存食を食べながらストレさん達と相談して、夜の見張りでもパーティーで別れて交代でする事になった。

 エルはもちろんだが、シールダーのクラスはあまり戦力として見てもらえないからしょうがないか。

 俺達3人は焚き火を囲んで他の人の睡眠妨害にならないように小声で会話をしていた。


「ならリスターバに着いたらエルさんのクラスアップとハルキさんの新居探しですね」


 今日の戦闘でエルはLv4になった。明日にはクラスアップができるレベルまでいくだろうが、リスターバまで3日は掛かるらしいからそれまでお預けだな。


 新居はなるべく家を買いたかったが、予算的に賃貸住宅になりそうだ。金に余裕ができたら追々かな。


「……」


 エルは俺とカノンの話を聞くだけで会話には参加しなかった。

 俺的にはもうちょっとフレンドリーな感じがいいのだが、エルは俺の奴隷なので命令と思われそうなのでなにも言ってない。


 奴隷なんて初めてだし同年代なので余計に扱いに困るな……。

 カノンは気にしてないようだ。この世界の奴隷の扱い方がよくわからないが普通に接すればいいか。

 その夜は魔物が現れる事なく交代時間になった。



 ◇



 町を出て3日目の朝、気付かれないような野営地から離れ【ウォーターウォール】を使い俺達3人は顔を洗う。


「顔を洗うだけで魔法を使うなんて贅沢と言うべきか非常識と言うべきか……」

 俺が出した水の壁の前で呆れたようにカノンが言う。

 なにを今更。喉が渇いた時も護衛期間で体を拭く時も【ウォーターウォール】の水を使ってたじゃないか。


 ちなみに【ウォーターボール】はスピードを抑えてもそれなりに速いので、水を出したいだけならその場に留まる【ウォーターウォール】の方が使いやすい。


 アイテムボックスから人数分のタオルを取り出し顔を拭き、さっぱりした後野営地に戻る。

 朝食を食べたらすぐに出発する。予定では今日の午前中には着くらしい。


 都市に近づくにつれ魔物の数が増えてきた。

 都市の近くにダンジョンが2つもあるからあまり間引けていないのか。

 などと考えていたら1つの魔物の群れがこちらに近づいてきている。

 その数12体と結構大きな群れだ。


 その様子を馬車内で見つつ俺は悩んでいた。

 俺が範囲魔法を使えば楽なのだが目立ちたくないし、支援(バフ)スキルはオーラを纏うから即バレだしな。


 唯一救いなのはレベルの概念がないから低レベルの俺が高レベルにならないと覚えられないスキルを使っても気付かれない事ぐらいだが、それでも俺のクラスで使えるスキルは2つだけだ。

 うん、無理。

 しょうがない、ここはエルに役立ってもらおう。



 ◇



「くっ、数が多い。悪いが君達も加勢してくれ!」


 群れで来た魔物はハントハウンドという黒い大型犬だった。

 名前からして猟犬かな。連携をして狩りをするらしくなかなかのコンビネーションだ。


 数が多いうえ機動力もあり、かなりキビシイだろうが土の壁を作り出す【アースウォール】を使い、上手く敵を誘導さして善戦している。

 クエストが護衛でなければ加勢の必要はないかもしれないが、それは仕方がない。


「カノンはブレンさんを守るのに専念してくれ。エルは俺と一緒に魔物を倒しにいくぞ」

「わかりました」

「……うん」


 俺達は馬車から出て戦闘に参加する。

 どうやらLv3からLv7と低レベルの群れのようだ。

 ブレンさんはカノンにまかせ、俺はエルを連れてこちらに来るハントハウンド達を迎撃しようとするが、そこでエルが小さく震えているのに気付いた。


 しょうがない。今まで1体や数が少ないときにだけ少し戦わせていただけだし、こんな大群は俺も初めてだ。

 だがこればかりは馴れてもらうしかないな。


「エル、大丈夫だ。ちゃんと守ってあげるから心配するな」


 こんな言葉で恐怖が消える訳ではないがしないよりマシだろうと思ったが、エルは俺の言葉を聞いてポカンとした表情をした。

 珍しいな、基本無表情のエルがこんなリアクションをするなんて。

 まぁ、気が紛れたのなら結果オーライだろう。俺は戦闘態勢にはいる。


「エル頼む」

「フ、【フレイムストーム】」


 杖を持った(・・・・・)エルがスキル名を唱えると犬達が炎の竜巻にのまれた。

 俺は別方向から来る奴を斬り伏せる。

 ストレさん達は大丈夫みたいなので俺達は荷馬車を近付いて来る敵を倒すのに専念しよう。


 こういう時に挑発みたいな自分に敵が集中するスキルが有効なのだが無いからしょうがない。

 単体で来るなら剣で、複数で来るなら【フレイムストーム】で倒し、途中【フレイムストーム】で倒せなかった奴は剣でトドメをさしていく。


 数は多かったがそこまで苦戦する事なく戦闘は終わった。下手に広がって誰もいない逆側から荷馬車を攻撃されなくて助かった。


「依頼人と馬車は無事か?」

「ええ、過半数がそちらに行ってたので無事ですよ。エルありがとう。助かったよ」


 ストレさんが急ぎ足で聞きに来たが俺の話を聞いて安心していた。


「そうか。そっちの子はマジックユーザーなのかい? 今は杖を持っているけど前の戦闘では剣を持っていたよね?」


 よし、狙い通りだ。杖を持たせたのはエルのクラスをマジックユーザーと思わせる為だ。

 クエスト中、エルにはあまり戦わせていなかったからゴリ押しでなんとかなるだろう。その為エルには使い手から飛んでいく【ファイアーボール】を使わずに離れた所から現れる【フレイムストーム】一択で言うように指示ををしていた。


 ちなみに杖はグランマーブルのドロップ品だ。ギルドで売ろうとしたけど武器、防具、装飾品の買い取りはしていなかったのでアイテムボックスに入れたままだったのだ。


「ええ、以前に盗賊団と戦いまして、その時彼女に攻撃が集中したのでカモフラージュとして剣を持たせていたんですよ」


 おそらくステータスに反映されなかったり、武器の付与スキルが使えないだろうが持つぐらいならできる。


「確かに対人戦では後衛クラスは狙われやすいからね。しかも火属性のマジックユーザーなら尚更だね」

「だな。火属性の魔法使いがいればパーティーの殲滅力があがるからな。俺は土属性だから羨ましい……」


 俺とストレさんが話しているとゼストさんも加わってきた。

 2人の話からして属性毎に威力が違い人気にも差がありそうだ。

 まあ、威力に関しては弱点の属性があるため一概には言えないだろうけど。


「それじゃあ俺達は馬車に戻りますのでこれで」


 それっぽい言い訳を適当に作ったのでボロが出ないうちにエルの手を引いて馬車に避難する。


「カノンお疲れ。ブレンさんは何か言ってた?」


 馬車に戻りカノンに依頼人の反応を聞いておく。被害は出てないが後々イチャモンを付けられたら困るからね。


「そうですね。今回の護衛はアタリだって喜んでいましたよ」


 どうやら杞憂だったようだ。同じEランクでもやはり強さに違いがあるのか。でも俺達はそこまでレベルは高くないんだけどな……。ま、いっか。

 その後は俺達のパーティーが護衛をしている時に三体のハントハウンドと出会ったがエルが使ったと見せかけた【フレイムストーム】で焼き払い、残った奴は俺とカノンで倒して特に危険な事もなく都市が見えてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の冒険者にクラスや使える能力について虚偽の説明が多いと、いつか虚偽だとバレる形で再会する事もありそうだけどね。 その場かぎりの虚偽は多用し続けるといつかバレると思う。
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