救出イベント
結局昨日も文字の勉強をしないで寝て、今もダンジョンに行く途中だ。
「この世界には奴隷がいるようだし、いっそのこと奴隷でも買って翻訳者になってもらうか?」
いや、そのためだけに人を買うのも面倒かもしれない。この案は保留にしておこう。
「他になにか……パーティーを組んでその人に読んでもらうか。でもずっとパーティーにいてくれるかわからないしな」
AIなのかそれぞれ意思を持っているからいきなりパーティーをぬける可能性ある。
「どうするかな…………ん?」
悩んでいるといつの間にかダンジョンの入口近くまで来ていて、そこに見知った顔がいた。いや、正確には顔は見えていないが【鑑定】で見ればわかる。
まえに会った誘拐犯でノッポ、チビ、デブの三人組だ。
それだけならよかったが、その3人組以外にもう1人女の子が一緒にダンジョンに入っていった。
カノン 14歳 女
シールダー Lv1
スキル
【生命力(大)】【鉄壁(中)】
最初のクラスアップでなれるクラスのLv1なら確実に初心者だろう。やはりあの3人組は初心者を狙った誘拐犯みたいだ。
今回のイベントは救出イベントらしい。女の子を助けて、3人組の討伐か捕縛が達成条件かな。
木に張り巡っているツタを適当の長さに切ってアイテムボックスにしまい、誘拐犯を追いダンジョンに入る。
1階層はいつも人が少ないので【サーチ】のスキルで奴等の場所はすぐにわかった。
やはり今いる階層の全体図がわかるスキル【マッピング】を持っているノッポが先頭に、行き止まりに向かって進んでいるようだ。
相手は3人で3人共が俺よりレベルが上だ。1人は前衛のソルジャー、2人は後衛のマジックユーザーとヒーラーだ。
さすがに3対1はキツイし、回復要員のヒーラーはなるべく最初に倒しておきたいが……。
「うおっと」
ヒーラーのチビがいきなり立ち止まり振り返った。
俺に気づいた様子はないが見張り役なのかチビはそこから動こうとしない。
これは好都合だ。相手は警戒もせずに壁にもたれながら欠伸をしている。
「【ブリューナク】」
殴るモーションで突き出した拳から拳大くらいの球体がチビに向かって飛んでいった。
「ぐえっ」
チビは俺が放った【ブリューナク】と壁に挟まれ呆気なく倒れた。死んではないので気絶したようだ。
【ブリューナク】は必中のスキルで、対象が見えていてその対象と認識できていれば必ず命中する便利なスキルだ。でも弱点もあり距離が離れれば離れるほど威力が落ちる。
今回は相手が気絶したから助かった。
チビの両手をツタで縛り、アイテムボックスには……入らなかった。やはり生物はダメなのか、それとも生きているからダメなのか。
まあいい、チビはその場に放置してあと2人がいる奥に進む。
「いや、やだ放して。誰か助けて!」
声が聞こえてきたがあまり悠長にしてられないようだな。
俺は走りながらアイテムボックスに入れていた石を取り出す。【ブリューナク】はもう1発ならギリギリ使えるが念のためMPは温存しておきたい。
通路の奥まで行くと女の子は捕まっており武器の大きな盾も地面に落ちていた。
「助けなんて来ないよー。だからおとなしグガッ」
女の子を羽交い締めにしていたデブに俺が投げた石が命中いた。石でもそれなりにダメージが通るのか女の子の拘束が解けた。
「早くコッチに来い!」
「え? あ、はい!」
女の子は訳がわかっていない様子だったが、すぐに状況を理解できたのか俺の所に走ってくる。
「逃がすかこのブフッ」
ノッポが女の子を後ろから斬ろうとしたので、ノッポの顔面を【ラッシュ】を使い殴り飛ばし女の子の前に出る。
「大丈夫だったか」
「は、はい。大丈夫です」
間に合ったみたいで見た感じ傷などはない。
ノッポは起き上がらないのでさっきの1撃で気絶したのかな。それならあとはデブだけだ。
「よくもアニキをー。オマエ絶体に許さないぞー」
「別に許さなくて結構だ。【バーストラッシュ】」
デブは魔法使いだ。俺だけならいいが、女の子に流れ弾が当たるかもしれないからさっさと終わらすために【ラッシュ】の上位スキルを使い殴り飛ばす。デブも1発で沈んだ。
これで誘拐犯の捕縛完了かな。意外と呆気なかったな。
「あ、あの……」
「ん?」
振り返ると女の子は顔を赤くし、両手を握りしめていた。
「私をあなたのパーティーに入れてください‼」