最深部③
毎日9時に投稿していたのですが、間に合いませんでした。申し訳ないです。
*18最深部③
巨大化したスライム男(僕)と野獣化した狼男(柏葉君)の戦いは、徐々にスライム男が優位に進んでいく。
狼男の得意とする爪やかみつきがスライム体の前では無意味で、先の咆哮もタメの時間が絶好の攻撃チャンスとなって手も足も出せない様子だ。
僕は狼男の速度に徐々に慣れていき、というかこの巨体の扱いに徐々に慣れていき、相手が避けようもない多方向からの攻撃を無数の触手によって成功させていた。
攻撃を命中させること、つまり、触手の数や速度を重視するあまり威力は幾分か落ちているようだが、確実に狼男の命を削っていいっていた。
必殺技を繰り出す前の戦隊ものや仮面のヒーローよろしく、巨大な敵に柏葉君は防戦一方だ。
地面に薄くはった僕の身体に足をとられ、柏葉君が盛大に転倒する。
柏葉君が不思議な力に目覚める前に僕は彼の息の根を止めようと触手を尖らせて彼の胸元へ走らせる。
これで死ぬだろう。
第二の使命も達成だ。
そう思った。
バキーン
僕の渾身の一撃はあえなく見えないバリアに阻まれた。
この薄く光った防御壁には見覚えがある。
しかし、この光の壁は処女にしか効果がなかったはず。
いらない超能力に目覚めてしまったのは委員長だったか。
級友を護るべく立ち塞がる委員長の姿は仲間を守る聖戦士とでもいいたげだ。
光り輝く一角をその額に生やして勇ましいことこの上ない。
僕は悪役か。
邪魔をするな。
その思いが通じたのか、光の壁がボワンと揺れる。
壁の内部で委員長が柏葉君からの不意打ちをくらっていた。
即座に壁の内部にもう一枚、薄い壁を張ることで追撃を許しはしなかったが、委員長の背中から足にかけて血がしたたりおちている。
かなりの重傷だ。
そいつはもう人間の意識なんて全くないぞ。
委員長は自分を殺しにかかってくる者すら救おうとするのか?
でも、それが当然というようにこの場の雰囲気は委員長に傾いている。
ギロリと睨む視線から後藤田さんは僕と同じく柏葉君を倒すべき相手だと認識しているようだ。
いや、青山も仕方ないというような顔をしている。
この柏葉君を助け隊の構成メンバーは全て委員長グループの面々だ。
「おかしいだろ、人間同士で殺しあうなんて。」
傷の痛みをこらえながら、委員長が僕に語り掛ける。
意識もなく、人として生きていないものを僕は人間だとは思わない。
やるかやられるかの状況で人道を持ち出すんじゃない。
それは今、思考の枠外、論外っていうやつだ。
柏葉君の度重なる攻撃が原因か背中の傷が原因か、委員長を守る光は薄れてきている。
それでも柏葉君と委員長の両方を守る防御壁は強い光を保ったままだ。
委員長が死んで、壁が消えれば、そのまま柏葉君を貫こう。
そう思った。
ブワンと光の壁が大きく揺れる。
好機。
壁に進路を遮られたままの触手にさらに力を加える。
回転し、ドリルのように穴をえぐるよう触手に力を込める。
つらぬけぇぇぇぇええええ!!!!!
バキン
光の壁がガラスが割れたように砕け散った。
けれど、僕の攻撃はやはり柏葉君に届かない。
そこには委員長を庇うように、柏葉君を制し、かつ僕の攻撃も黒曜石ナイフでいなしてしまうゴブリンの姿があった。
芦原だ。
「何をする気だ。」
「その男はもうダメだ。」
「わかっているだろう。」
僕の言葉は口で話すよりもっと具体的に何かの力を借りて発せられているようで、低重音で響くそれはラスボスの声みたいだった。
僕の言葉も僕の身体を操る不思議な力によって支配されていた。
「それでも、ダメだ。」
「人を殺してはいけないんだ。」
まだ、言うのか。
そんなことはわかっている。
人として糾弾されるべきことかもしれないが、こんな世界にきてまで人道的に生きようなんて甘い考えだろう。
「マーコーートーーー!!!!」
張り付けられていた女が柏葉君の名を呼ぶ。
空を飛べる誰かが、助けていったようだ。
彼女はもう十字架から解放されていた。
そんなこと無駄だろうと思っていたが、無駄ではなかったらしい。
柏葉君の目に生気が宿る。
野獣のそれでなく、人のそれだと思われる眼光だ。
そして、取り戻した人の言葉で柏葉君が僕らに懇願する。
「あ、芦原。俺を」
「俺を殺してくれないか。」
劇的なワンシーン、感動する面々をよそに突き放すような言葉が柏葉君から放たれる。
「俺を殺してくれ、芦原。頼む。」
この感動的な場面に涙を流す人もいたけれど、それを好機と受け取った者が数名。
ザシュッ
音も立てずに伸びる触手が柏葉君の心臓を貫いた。
「なんでだ!長谷部ぇ!!!!」
なぜと言われても、そうすべきだと思ったまでだ。
現に、柏葉君もそれを望んでいたから殺してくれることを願っていたんじゃないのか。
「意識があっただろう」
そんなことはわかっている。
触手を引き戻すと柏葉君の胸元から大量の血が流れだす。
これで、達成だ。
「おめでとうございます!!」
柏葉君の影からぬるりと現れた老ゴブリンは、僕らの問答を意に介さずつとめて明るい口調で僕らに話しかける。
「第二の使命をわずか数日でクリアするとは、前代未聞です。」
「あなたがたの召喚に携わることができて光栄の極みです。このルナンシェ、驚きを隠せません。」
「皆様の健闘を讃えて、わたくしから一つ、提案がございます。」
「そちらの御仁の命、救って差し上げましょう。」
老ゴブリンの甘い囁きは罠か何かなのだろう。
このゴブリンは信用してはならない。
僕はそう思うのに、そうは思わない人間たちがこの場の大半を占める。
委員長がその先陣をきって、懇願する。
「助らられるのか、柏葉が!」
「ほんとにできるのか?!」
「ええ、できますとも。」
「しかし、ルナンシェ一人では力及ばす、それは不可能ですので、皆様に協力していただかなくてはいけないのですがよろしいでしょうか。」
「わかった、なんでもするから真を救ってくれ!」
「ええ、よろこんで。」
「天の恵みと癒しの加護をこの者に。」
「イヤセスヒール!」
にやりと笑った老ゴブリンの考えがわからない。
「ちょっと、それホントに大丈夫なんでしょうね。」
「回復したってまた襲ってきたら意味ないのよ。」
「その心配には及びません。彼はすでに死んでいますから。」
「おいっ、大丈夫なのかよ!」
「ええ、もちろん。」
「死んでいるのはコボルトの部分が大半のようですし。」
「人間としては生き残ることは可能かと思われます。」
「しかし、このままではコボルトに引きずられて人としての命まで尽きかねません。」
「そこで、人間としての彼とコボルトとしての彼に分解してもらいたく存じます。」
「そんなことできるのか!?」
「ええ、できますともそこにいるスキル『分解』保持者の彼ならば。」
おう、まさかの僕だった。
級友との死闘の果てに待ち構えていたのは、発覚したばかりの新スキルのとんでも用法だった。
いやいや、そんなこと急に言われても、コボルトと人間の分解とかできんの?
【スキル『分解』を使用しますか?よろしければ「はい」と、それ以外なら「いいえ」とお答えください】
できるのかよ……。
迷うことなく「はい」を選択するが、大丈夫なのだろうか。
ゴブリンの治癒魔法によって傷がふさがった柏葉君から液体が漏れ出していく。
液体が徐々にまとまりだし、丸い球体になる。
スライムみたいだと思ったが口に出すのはよしておこう。
話から察するにこれは人になるのだ。
いらない思考を持ち出さないよう気を付けよう。
球体は細胞分裂のように自身を何分割にもしていく。
二個、四個、八個……とドンドンその数を増やし、複雑な形をつくりながら赤ん坊へとその姿を変えていく。
生物の授業の一場面のようだった。
赤ん坊は驚くべき速度でその体を成長させ、元の大きさへ戻っていくのかと思いきや、子どもの大きさで止まってしまった。
どういうこと?
狼男の亡骸を残して現れた柏葉君はあられもない姿でこちらを見つめる?
粘液まみれでちょっとキモイが、つぶらな瞳がこちらを見上げる姿は愛らしい。
「パパ?」
謎に単語を僕に向かってなげかけてくるこの生物は、ネトネトした姿から確かに僕がパパっぽいけど、君のホントのパパはこの世界ではない違う世界にいるからね!
この年でパパ呼ばわりはやめてくれ。
「これはこれは、まだ新しい身体になれないようですな。」
「元に戻るのも時間の問題でしょう。」
「無事とは言えないようですが、彼も生きながられることに成功いたしましたし、次なる試練の場へ急ぎましょうか。」
「アンスプリエーション サン ザ ゲート」
「彼の者たちを扉の先へ。」
「では、皆様、新天地でも健闘をお祈りいたします。」




