最深部②
ボス戦です。
*17最深部②
オーマリカー
サンマリーカー
ゥオオオオオオ
ウオオオオオオオ
通路を進むにつれ、わけのわからない規則的な雄たけびがより大きくなる。
ドン
ズドドドン
雄たけびの合間にオオカミたちが地面を踏みつけているんであろう合いの手がはさまれる。
オーマリカー
ウォォオオオン
通路を抜けると、先の広間よりもさらに広く開ける場所へとたどりついた。
天井はさらに高く、あちこちにあの虫かごが設置されていた。
その大広間はオオカミやコボルトがひしめき合っている。
大量のモンスターたちは整然と並び、あの雄たけびや合いの手に執心している。
こちらに気づく様子はない。
静粛な面持ちに儀式めいた何かを感じる。
これはオオカミたちによる讃美歌か。
魔物の群れの行いはすべてその先にある崖の上へと捧げられている。
この群れをまとめる存在がそこにある。
第二の使命、最深部の魔物の討伐。
その討伐対象がそこにいる。
たてがみを揺らし、牙をひからせ、悠然とたたずみ狼男の姿がある。
コボルトの粗末な衣装であっても、できうる限りの装飾を施されたのであろう衣服をまとうその姿は僕らがよく知る狼男だった。
柏葉君だった。
オオカミ教の教祖にでも転職したのだろうか。
彼の横には十字架に張り付けられた柏葉君の幼馴の姿がある。
なにをするつもりだ。
というかどうなっているんだ。
絶句する者、多数。
倒すべき相手が、救いたい人といった相手だった。
後ろにつづく青山や委員長は顔をあおくしてたじろいでいる。
そんな中で、おそらく彼を殺す算段を進めるのは後藤田さん。
コボルトたちはこの儀式めいた何かしらが重要なのか、意識を柏葉君に集中しているようで、こちらに気づく気配がない。
「長谷部君は左、私は右。あらかた殲滅し終わったら、アレを挟撃するわよ。」
言わないでもわかる。
アレとはオオカミの教祖様のことだろう。
「数が多いけれど、気づいていないなら、多数に向けて殲滅できる攻撃ができるわ」
「あなたも似たようなことできるでしょ」
僕は無言でうなづきを返す。
気づかれていないとはいえ、この数に囲まれたらたまったものじゃない。
そうなってしまっては、後続の硬直した集団を見捨てるしかなくなる。
後ろのやつらも一応、クラスメイトなのだから、目の前で死なれたら、目覚めが悪い。
後藤田さんが足音を立てずに、右手のオオカミたちに忍び寄る。
僕も左手のオオカミたちに向かう。
それにしても数が多い。
広間よりもこの祭壇は広くできていて、そこにオオカミたちがひしめているのだ。
これだけの軍勢が控えていたことを思えば、先の戦いにおけるオオカミたちの追撃が嫌に多いことに納得する。
右手のオオカミたちが音を立てずに気絶していく。
あいかわらず、後藤田さんの能力は計り知れない。
どうやっているの、それ。
僕はオオカミたちに気取られないように、薄く、細く、身体を伸ばし硬度を高める。
いくらかの戦闘を重ねて、やつらの急所を正確に把握した僕は、そこに鋭い針のようにとがった自分の一部を突き入れる。
確実に敵を屠ったことを感じて、この攻撃の有効性を再確認する。
オオカミが次々に倒れていく。
どさっと音を立ててしまい、冷や汗が流れる。
後藤田さんの冷たい視線を感じるがそれは無視して、次のオオカミたちへと注意を向ける。
おかしい。
横のオオカミが何者かの攻撃を受けて、倒れてしまっているのに何の反応も示さない。
よく見るとオオカミたちは自分たちが攻撃されていることに確かに気づいている。
にも拘わらず、崖の上に向かって頭を下げたまま、雄たけびと合いの手を止めることをしない。
オオカミたちは冷や汗を垂らしながら自分たちに攻撃がこないことを祈っているようだった。
死ぬかもしれない攻撃を受けることよりも、恐ろしいことがあるようだ。
オオカミ教はとんだ邪教のようだ。
僕ならすぐに改宗する。
入信をする気はないのであるが。
僕はそれに気づいて、調子に乗ってさっきより大胆にオオカミたちを殺していく。
手前から順々に。
うちもらしはない。
まるで、作業のように四足動物たちを殺していく。
あ、いかん。
やりすぎたようだ。
それもそうだとは思うのだが、眼下に控えたオオカミたちがバタバタと死んでいくのだ、崖の上の教祖様が気づかないわけはない。
コボルトたちの頂点となった様子の柏葉君がこちらを見下ろし、ビルの高さぐらいはあるだろう崖からここまでひといきで飛び降りてくる。
グルルルル
ギャオオオオオオン
完全に狼男のそれになった柏葉君に向き直る。
鳴き声までオオカミじゃないか。
ホントに柏葉君なのか。
何度見てもこの狼男の顔つきはやはり柏葉君のものだった。
それでもオオカミたちを刺殺することをとめはしない。
いまさら気づく自分が恥ずかしいが、僕の身体は視覚を全方向に広げることができるらしい。
ものを見るという行為に人間の見方に縛られる必要はないらしい。
スライムの身体のどこかしこも知覚機能を有しているようだ。
足でも背中でも音を感じるし、ものも見える。
だから、僕は背後に伸びる僕の触手たちをつかって以前の大樹のよう形でオオカミたちを正確に射抜くことができる。
目の前の狼男は何かいいたげだ。
それでも、狼男としての、いや、コボルトとしての言葉しか今はもってはいないのか僕に対して吠えつづけることしかしない。
ワォオオオン
ビシュっとコボルトの王様は僕を通りざまにするどい鉤爪で一閃していく。
お腹が大きくえぐれて、僕と上半身と下半身がこぶし一つ分ぐらい離れてしまう。
うにゅっとえぐれた箇所から触手を生やして断たれた胴体を修復する。
僕の身体もいよいよ人間らしくなくなってきたように思える、
その攻撃では無意味と悟ったのか、狼男は距離を保ったまま、大きく息を吸い込み何かの予備動作を行っている。
何をするんだ。
僕のは修復する時間すべてをこの敵の観察に費やした。
目は血走っていて、空気を大量に吸い込む口からはよだれがしたたっている。
スライムはおいしくないよ。
食べるつもりはないのだろうけど。
空気を大量に送り込まれた胸部は大きく膨れ上がり、もうこれ以上は吸引することはできないようで狼男は口を閉じた。
身体の修復が終わったのでこちらも反撃しようと身構える。
先はあまりのスピードに、スライム体を相手に付着させるお得意技が使えなった。
今回はあらかじめ、粘着性を高めるように身体をつくりかえておく。
がばっと僕を一飲みしてしまえるような大口を開けて敵がせまる。
ギャィイイイイイインンンンン
狼男の口から放たれた慟哭は、金属音にも似た騒音をたてながら地面や周辺の岩肌を振動させ、僕の身体を四散させた。
震える身体が粘着性を高めていたにも関わらず、震えあがってあえなくはじけ飛んでしまう。
はじけた僕の身体が後続のクラスメイト達にふりかかえり、なんか申し訳ない感じになる。
後藤田さんだけはすげなくたたきおそされてしまったけれど、手には僕がこびりついてしまったようでそれを不快そうにスカートの裾にぬぐっている。
意識が浮遊する。
微細になるにつれ、僕の意識は薄くなっていく。
スライム体に慣れずに意識を失いかけた先日と同じように芦原の声が僕を呼び起こす。
「長谷部っ!大丈夫か!!」
大丈夫なはずはない。
でも、ここで意識を手放すと死んでしまいそうだ。
細かくなりすぎた自分の一部だったスライム体は切り捨てて、ある程度の大きさをもつ、僕が僕だと認識できるサイズになった身体をモゾモゾと集めていく。
クラゲみたなことをしてる。
この復活作業を妨げるように柏葉君は僕の身体たちを踏みつけ、あるいは蹴り飛ばし、飛んだり跳ねたりせわしない。
散らばった分だけの視覚をもった僕はその行為を俯瞰しするように今まで以上に正確に観察することができた。
人としての意識は失っているようでいて、僕に対する攻撃はすごく効率的で人間めいている。
散らばった身体たちを包括する僕という存在がこの祭壇では霧散していて、それをつなぎ合わせているものが何かを感じる。
僕の身体は分裂していても、個々の意識を持つわけではなく、僕という意識は統一されているままだ。
目には見えない何かが、僕の身体をつないでいる。
このつながりを僕は強く感じた時がある。
宙を流れる川に触れた時、それと泉の精霊に加護を与えられた時だ。
それは電波にも似た何かでスライムである僕の身体すべてをつないでいる。
僕は確かにここにいる。
多面で映された視野が、360度すべてを近くする視野に集約される。
いくら細かく砕かれようと、何百何千と切り刻まれようとおそらく僕は絶えることなく存在しつづける。
自分がそんな存在であると確信する。
とても都合のいい妄想に、僕の身体たちは答えてくれる。
もう僕の電波も届かないかに見えた細かく宙を舞うほこりのような僕でさえも、答えてくれる。
『集まれ』
ギュインと空間がひずむような音がした。
すべては僕を中心に終結する。
というか、自分の身体以外のものまで一斉にこちらにむかってくる。
あたりの気温がグッと沈む気がした。
僕は狼男を見下ろすような巨体になって復活した。
どゆこと?
巨体化する魔物って、悪役っぽくて嫌になるが、細かいことを気にしていてもしょうがないので、僕はその物量任せに狼男に足払いを行う。
足のサイズを考えると足払いというよりは身体ごとなぎはらっていくようだが、狼男は機敏にそれを避け身体ごと払われてはくれなかった。
「おーい、はーせーべー。どうしちまったんだー。」
地上で芦原が僕になにやら話しかけてくるが、無視しておく。
俺だって自分がどうなっちまったんだか知りたいよ。
すみません。終わりませんでした。
次回で、最深部の戦闘は一区切りつく予定です。




