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「ふおぉぉぉ……!」
頬を紅潮させて両手を握りしめるハレは、感動でうちふるえているようだった。さっさとバスから降りたネムとアヤナがそれを観察する。
「ハレってさー、ほんと国語力関連に対する情熱っていうか興味? すごいよねー」
「もはや変人レベルだよねー。そう言えば、この間のカメカメ先生の小テスト百点だったんだって」
「えー。あれって、渡された歌詞を改変して先生を笑わせろってやつでしょー。百点なんてとれるの?」
「おーなーかーなぜなるの♪ おなかはひるにおいしいおべんとうがまつからよー♪ 解説『お腹空きました』」
「なるほどー」
ネムが歌ったのを聞いて、アヤナは全てを理解した。
「まさかの『七つの子』かー」
「そー。よくやるよねー」
「まあ国語力が好きなら、ここはもう聖地だよねー」
「うん。高校球児にとっての甲子園みたいなもんだもんねー」
「おーい。夢路兄妹ー行くぞー」
『いいんちょーうるさーい』
「うるさいって何!?」
鞄を背負い直して憤慨しているアサトや、それを指差して笑っているフユキのすぐそばでは、いつの間にか頭にたんこぶを作っていたハレがマツリに引きずられていた。その後ろをユリノが苦笑しながらついていく。
「まったく。なんでアンタはこう、すぐにどっかにいくんだよ!」
「うぅ……。ちゃんとバスから見えるところにいたよー」
「ああ、そうだよ。バスが見える駐車場と歩道を仕切るフェンスの上にね! 危ないでしょうが! バスから見えるっていうのは、高い所にいるから見えるよねっていうのと違うだろ!」
「落ちなかったからいいじゃん……いたぁ!」
あわれハレはマツリから見放され、地面に尻餅をついた。慌ててユリノが助け起こす。
「大丈夫? ハレちゃん」
「うん……。ひどいよ、マツリちゃん」
「お黙り。だいたい、なんでそうアンタは毎度ここに来るたびに興奮すんの?」
「だって夢の舞台だよ? ボクはここでテッペンとるんだー!」
「知ってるよ。でもそれは大会であって、会場じゃないでしょうが。会場のテッペンとるとかやめてよ。アタシが笑い死にするから……ブッフ!」
「もう笑ってんじゃん! ボク泣くよ!?」
「まあまあ。ところで、ハレちゃんってそんなにここに来てるの?」
「うん! ツカサ君がコネでチケット用意してくれるから、見に行けるときは行ってるんだ!」
「コネ?」
「そ。夜霧先輩相当強いから、よくエキシビションとか頼まれるらしいんだよね。それで」
「この前の冬だっけ? 新人戦の開幕エキシビションすごかったー!」
「ああ、あの空中滑空ね。あの小さいウサギの姿でギュンギュン回るから、そのうちどっか飛んでいくんじゃないかと思ったわ」
「へー。いいなー」
「今度からは、ユリノちゃんの分のチケットも用意してくれるように頼んどくね!」
「え、いいの? ありがとう!」
『…………』
三人の会話をじっと聞いていた夢路兄妹は、さっきまでの自分たちの会話を反芻する。そして、
『ハレのバカーーーー!』
「ええっ!? なんで!?」
二人でハレに飛びかかった。
「なんだよ! ハレが初めてここに来て感動してるのかと思ったのに!」
「恥かいたじゃん! わたしたちのほのぼのを返せー!」
「あいた! 痛いよネム! ごめんって! アヤナ背中蹴らないでー!」
「……委員長、GO」
止めるのも面倒になったマツリは、アサトに全てを投げた。
「えー。もうほっといてもいいかなー」
だがアサトも投げ出したせいで、痺れを切らしたハルカが笛を吹くまで、三人のじゃれ合いは続いた。




