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国語力でテッペンとれ!  作者: 霧ヶ原 悠
第三章  百聞は一見に如かず? ぬるいわそんなもの!
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 そのままの流れで、なんとはなしにハレはマツリ、ユリノ、アサト、ネム、アヤナと一緒に帰ることになった。

 「ボクも髪の毛染めよっかなー。赤色とかかっこいいよねー」

 「えー! ハレは全部染めるより赤とか青のメッシュいれるほうが似合うんじゃない?」

 「そうかな? あ、でもネムたちは地毛が水色だもんね。いいなー」

 そのとき、どこからか騒がしい男の声が聞こえてきた。

 「でよー。そんときそいつなんて言ったと思う? 『うぎょえああああ⁉』だぜ、『うぎょえああああ⁉』! マジウケたわー!」

 「んだそれ! ダッセー!」

 「おもちゃのゴキブリぐらいでわめくんじゃねえよってなあ!」

 だが、ハレたちは自分の話に夢中で、まったく気がついていなかった。

 「それよりさ、名前どうする? やっぱ漢字がいいかな?」

 「まってよアヤナ。漢字でもカタカナでもいいけど、先に音を決めないとダメだよ。漢字があてられない」

 「あ、そっか」

 「じゃあ三人から一つずつ取ってみるとか……いった!」

 「って!」

 器用にも後ろ向きで歩いていたハレは、角を曲がって歩いてきていた四、五人の高校生とぶつかってしまった。 

 「ご、ごめんなさい!」

 「ってーな。どこに目ぇつけてんだよ! 思いっきりぶつかってきやがって!」

 ハレよりもゆうに三十センチ以上背の高い高校生たちは、揃ってガラが悪かった。腰までだらしなく下げられたズボンは共通、場所は違えどたくさんつけられたピアス、染められた髪は奇抜な形にがっちり固められていた。黒いズボンは制服のようだが、上に着てるのは柄が入ったシャツだったりパーカーだったりして、どこの学校の生徒かわからなかった。

 (ひええええええヤンキーだー!)

 最近ではめったに見かけなくなった絶滅危惧種に、ハレは怯えながらも一種の感動を覚えていた。

 「聞いてんのかよ、てめえ! どこに目つけて歩いてんだって聞いてんだよ!」

 「あ! は、はい。すみません……」

 「はあ〜聞こえないんですけど〜」

 ヤンキーの一人が片耳に手をあてて身を乗り出してきた。

 「ど、どど、どうしよう⁉ ねえ、早乙女さん、春野さん……って、あれ? 春野さんは?」

 「け、けけ警察呼んだほうがいいよねマツリちゃん……あれ? マツリちゃん?」

 ハレから数十歩離れた後ろでおろおろして意見を求めれば、いつの間にやらマツリがいなかった。しかしどこに行ったか探すまでもなく、

 「はいはい、ハレは下がった下がった」

 「この距離で聞こえないとか耳遠くないっすかー?」

 「耳くそつまってんじゃないんすかー?」

 「いてててっ!」

 ネムとアヤナと一緒になってヤンキーたちにケンカを売っていた。ネムにいたっては、身を乗り出してきていたヤンキーの耳を引っ張っている。

 (何やってんじゃコラー⁉)

 真っ正面からヤンキーたちとにらみ合う三人を見たアサトとユリノの心がひとつになった瞬間だった。

 「おい、てめー! 何しやがんだ!」

 「それはこっちのセリフだよ。ハレはちゃんと謝ってんじゃん。聞く気もない耳なら、取っちゃってもいいでしょ」

 「ああん? ケンカ売ってんのか、てめえ!」

 「売ってるように見えんの? あったま悪いなー!」

 ハッと鼻で笑ったネムに、血管を浮かべたヤンキーたちが指を鳴らし始めた。一触即発のそこへ、マツリが追い打ちをかけた

 「そもそも、アンタらだって前を見てなかったんだから、おあいこだってーの。それも分かんないとか、バカじゃないの?」

 「なにぃ⁉」

 「ああ、違った。馬や鹿だってもっと広い視野を持ってるから、ハレのことは見えるか。じゃあアンタらはそれ以下ってことで」

 ブチッと沸点の低いヤンキーたちの血管が切れる音がして、それぞれ拳を振り上げてきた。

 「うわああああ! ちょっと待った! ね、ね? ちょっと待って、落ち着いて話しましょ? ね?」

 慌ててアサトがヤンキーとマツリの間に割り込んだ。

 「うるせえ、クソガキ共!」

 「いや、あの、だから話を……」

 「こらー! お前ら何やってんだー!」

 その時、ヤンキーたちの後ろから誰かが走ってきた。アサトの胸ぐらを掴んだままヤンキーたちは振り返り、大きな舌打ちをひとつした。

 アサトを掴んでいたヤンキーの手を無理矢理外し、アサトたちとヤンキーたちの間に強引に入り込んだのは、メガネをかけて黒い髪を七三分けにした、いかにも真面目という風貌の白ブレザーを着た高校生だった。

 「ああ? んだよ、うっせえな! てめえにゃ関係ねえだろうが!」

 「大アリだ! さっさと家に帰れ!」

 「オレらに命令すんじゃねえよ、もやしが!」

 「命令ではなく指示だ。お前らのせいで地域の方々からも苦情がきてるんだぞ! 迷惑だと思え!」

 「あーあー! うっせえしうっっぜえ!」

 「めんっどくっせえなあ!」

 「いいから早くしろ!」

 ヤンキーたちは忌々しそうに、新たに現れた生徒も含めてハレたちを睨みつけると、地面に唾をはいて立ち去っていった。

 「……ふー。すみません、怖がらせてしまって」

 「! い、いえいえ! こっちこそ変に挑発してしまって……」

 「いえ、本当にご迷惑をおかけしました。三養の生徒さんですよね。僕は常春市立第一高校二年、塚山修つかやまおさむと言います。もし、怪我をしていたとか何かあれば、この番号に電話をお願いします。それじゃ、僕はまだ用があるあるので、これで」

 「あ、はい。どうもありがとうございました!」

 アサトが代表でオサムから電話番号が走り書きされたメモを受け取り、九十度のお辞儀を返した。音無兄妹やマツリはまだ機嫌が悪そうだったが、先輩への礼としてわずかに頭を下げる。ハレは、不思議そうに首を傾げているだけだった。

 「……あー! よかったー!」

 オサムが完全に去ったのを見て、アサトはヘナヘナと座り込んだ。

 「ほんっと、三人とも勘弁してくれよ。寿命縮んだよ〜」

 「いや、冬馬こそなんで出てきたのさ」

 「だって危ないじゃん! ほんとに何してんの!?」

 立ち上がったアサトの目に涙が浮かんでいたのは、まあ見ないフリをしておいてやろう。後ろでドキドキと行く末を見守っていたユリノが、ホッとした顔でハレに抱きついてきた。

 「大丈夫だって。いざとなったら、アタシがハレを小脇に抱えてユリノを引っ張って、ダッシュで逃げてたから」

 「男前! でももっと穏便に解決しよ!?」

 「いいんちょーが出てきても、あんま意味なかったけどね」

 「それはお前らが刺激したからだろ! 言っとくけど、お前らにもオレは怒ってるんだからな、夢路!」

 「えー。水に流してよー」

 「流せるかっ! だいたい、お前らだってヘタしたら殴られたりしてケガしてたかもしれないんだぞ!」

 「だーいじょうぶだって! 逃げ足には自信があるから!」

 「そういう問題じゃなくてだな……」

 「え〜。でも、いいんちょーが一番よく知ってるでしょ? 僕らの逃げ足が速いこと」

 言われて思い返してみれば、何かをやらかした二人を叱るために追いかけたことは多々あるが、はたして追いつけたことはあっただろうか。

 ……ない気がする。

 深々とため息をつけば、勝ち誇ったようにネムとアヤナが揃って「えっへん」と胸を張っていた。なんか腹が立ったので、デコピンしておいた。


          *          *          *


 そんなこんなの騒動も、たいやきを買い食いしたハレの頭からは、きれいさっぱり消去されていた。

 「ただいまー!」

 「あら。おかえり、ハレ」

 「おかえりなさい」

 「おかえりー」

 「こんにちは! ただいまです!」

 家の前ではハレの母と、ご近所のおばさま方が世間話に花を咲かせていたようだった。

 「お腹空いたー!」

 「あら、珍しい。今日は買い食いしてこなかったの?」

 「したよー。でもお腹空いたの」

 「相変わらず食いしん坊さんねえ。お肉にも身長にも胸にもなってないんだったら、一体どこへ行ってるのかしらね。あの養分」

 「むきー! 養分っていうなー!」

 正論なだけに言い返すこともできず、せめてもの対応としてハレは両腕を振って頬を膨らませておいた。そのまま母の脇を通り過ぎて玄関に手をかけた時、後ろでひそひそと話すのが聞こえた。

 「ねえ、あの制服ってたしか国語力の学校のじゃなかった?」

 「ええ、そうよ」

 「うそっ! またどうしてわざわざそんなところに?」

 「ハレちゃんはいい子だし、がんばり屋さんなんだから、何もあんな危ないところじゃなくても……」

 「そんなことないわよー。あの子が行きたいって言いだしたところだし、毎日楽しそうにしてるもの。それにほら、あそこには司くんもいるから、むしろそこらの学校より安心できそうじゃない」

 「ああ、夜霧さん家の……」

 「でも、だから余計に怖くないの? だってあの子があんなことになったのも国語力のせいなんでしょ?」

 そこまで聞いて、我慢がならなくなったハレは急いで家に入ると、乱暴に玄関を閉じた。

 それ以上は、聞きたくなかった。




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