プロローグ
第30回前期ファンタジア大賞応募作品ですが、すでに二次選考落選が決まりましたので、こちらのほうに転載させていただきます。
元々天気の悪かった空が、さらに色を暗くしていた。少年の腹の底から湧き上がる怒りとも恨みとも呼べる悪意が生み出した風が、立つもの全てをなぎ倒そうと吹き荒れている。彼と対峙するのは、二人の小学生ほどの女の子と、彼と同い年ぐらいの男の子一人。
「キャーー!!」
「ふざけんじゃねえぞガキがあ! なめやがって! ぶっ殺してやるっ!!」
血走った目で少年が吠えれば、ますます風は勢いを増す。
上がる悲鳴は一人だけのものではない。あちらから、こちらから、連鎖的に広がっていった。
ここは住宅街の中にポツンと残された空き地。近所の子供たちの遊び場の一つとして、親しまれる場所だった。
今日、この時を除いて。
「やめろ! 今すぐ止めるんだ! こんなことをして何になるんだ! むしろこのままでは、大変なことになるぞ!」
「うるせえ! 黙れ! テメェに指図されるいわれはねえんだよ!」
少年の全身から、彼の悪意をそのまま視覚化したかのような、濃紫色の靄が空に吸い込まれ、地を這っていた。
「オレを馬鹿にすんじゃねえぞガキぃ! てめえなんかより、オレのほうがずっと、ずっと、ずぅっっっっとすげえんだよっ!」
「待て!」
濃紫色の靄が少年の叫びとともに収束し、大口を開けた蛇のような怪物の姿をかたどった。
「くたばれよクズがあぁぁ!」
少年の腕が振り下ろされると同時に、女の子たちに怪物が迫る。そしてその前に飛び出した人影が一つ——
「だめだよ! 危ないから! やめて! 逃げて、——!」
人影は靄に飲み込まれ……
そして爆発した。