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5.王様の結婚


 王女との晩餐(ばんさん)を終えてからです。

 王様がよく笑うようになったのは。


 王様は勉強や仕事に忙しく、今まであまり笑ったことがありませんでした。


 宮殿(きゅうでん)で暮らす人や、賢者(けんじゃ)たち、王様の家庭教師ですら王様が笑ったところを見たことがないほどでした。


 そんな王様が、にっこりと、太陽のようにほほえみ始めたのです。

 それにはみんなが(おどろ)きました。


 王様は愛を知らなかったため、愛を知るとその愛は深いものとなりました。その愛は、国に暮らす全ての民に及んだのです。


 賢者(けんじゃ)(おさ)は王様が愛を知ったことに驚き、(あわ)てました。しかし王様は、そんな賢者の長を許しました。


「お前は私のためを、国のためを思って愛の(おそ)ろしい面を教えてくれたのだ。感謝(かんしゃ)している。ありがとう」


 やがて王様は、海を(へだ)てた西の国の王女と結婚(けっこん)しました。その二人を(だれ)もが祝福しました。


 二人の結婚式には、天空の神々も出席したほどです。


 全能の神ゼウスは、王様に「寛容(かんよう)」を与えました。


「男は寛容でなくてはいけない。私のようにね」


 ゼウスはいたずら小僧のように笑いました。


 結婚の女神ヘラは、王女に更なる「(いつく)しみ」を与えました。


「全ての男性を慈しむのです。よいですね、美しい王女よ」


 ヘラの美しさには、みんなが息を飲みました。

 また海の神ポセイドンと(かり)の女神アルテミスは、王国に「繁栄(はんえい)」を与えました。


 そのために国はますます栄え、民はますます豊かに、幸せになりました。

 そして二人の愛も、ますます深くなっていったのです。


 そんな二人をうらやむ者がいました。

 冥界(めいかい)の王であるハデスです。


 ハデスは美しいものが大好きでした。しかしハデスの暮らしている冥界は(おそ)ろしいものばかりで、美しいものは何一つありません。


 ハデスは時々、人間の世界から美しいものを(うば)って冥界に持ち帰りました。


 それは例えば、美しい言葉をつむぐ詩人であったり。あるいは、美しい音色(ねいろ)をかなでる音楽家であったり。または、目もくらむような美しい女性であったりしました。


 ハデスはたまらなく、美しい王女がほしくなりました。


 ですからそっと王女のもとに毒蛇(どくへび)を送りこみ、王女の命を(うば)わせました。そして王女を(たましい)ごと、冥界へと持ち帰ったのです。



 王女の突然(とつぜん)の死に、王国は静まり返りました。


 その国で暮らす全ての民が、海の向こうからやってきた王女を愛しており、(なみだ)を流さない者は一人もいませんでした。


 そんな中、人一倍悲しんだのは王様でした。


 王様は王女から愛を教えてもらいました。その愛は永遠(えいえん)に続くと思っていたのです。


 でも王女はもう、この世界にはいません。

 温もりも、慈しみも、安らぎもないのです。


 王様は一日一日と元気がなくなりました。


 仕事も手につかず、王女といっしょに聞いた吟遊詩人(ぎんゆうしじん)の愛の歌も、今は王様を苦しめるばかり。


 そしてあるとき……。

 その苦しみと悲しみに()え切れず、賢者を集めてこう言いました。



「愛のために人は悲しむ。愛のために人は苦しむ……これより宮廷で、愛を歌うことを、愛という言葉を使うことを禁止(きんし)する。私は……愛が(きら)いだ!」



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