4.海を隔てた国の王女
そんなある日。王様の評判を聞いて、海を隔てた西の王国から王女がやってきました。
王様は決まりにのっとり、うやうやしく王女を迎え入れます。
豊かな民の暮らしに、豪華な宮殿。
そして謙虚で、真面目な王様。
王女は、今までそんな国を見たことがありませんでした。
王女を迎えての晩餐のことです。
王女は王様に尋ねました。
「あなたの国は、どうしてこのように豊かなのですか?」
王様は自信をもって答えました。
「それは、神様をみんなが大事にしているからです。そして民は私を尊敬し、また私も民を尊敬しています。そのようにお互いがお互いの期待に応えられるように、真面目に仕事にいそしんでいるからです」
そこで王女は感動し、王様に再度尋ねました。
「すると民はあなたを愛し、またあなたも民を愛しているからなのですね?」
その王女の言葉に、王様は慌てふためきました。
「そのような恐ろしいこと! 愛しているなどと! とんでもない!」
王様の答えに、王女は不思議そうな顔をしました。
「愛が恐ろしい? それは一体、どういうことなのでしょうか?」
王様は落ち着きを取り戻し、大きな声を上げた無礼を謝り、賢者たちが王様に教えてくれた通りに答えました。
すると王女は王様を悲しそうな目で見ました。
「確かに……愛にはそのような力があるかもしれません。しかし、愛とは決してそのようなものだけではありません」
王様はそんな王女の目をじっと見つめました。
王女の悲しい目は、決して嘘を言っていませんでした。
王様は動揺をしずめるために、手元に置いてあった水を飲みます。そして一息つくと、王女に尋ねました。
「それでは尋ねます。愛とは……一体どのようなものなんですか?」
王女は王様に尋ねられると、手をそっと握りました。
「愛とは、温もりです」
王様は動くことができなくなりました。
「愛とは……温もり?」
今まで、そのような温もりを知らなかったからです。
王女の手が王様から離れると、とたんに寂しくなりました。
そのことを王様は不思議に思いました。
続いて王女は席を立ち、後ろから王様を抱きしめました。
「愛とは、慈しみです」
王様は味わったことのない感動に包まれました。
「慈しみ……?」
母親を知らない王様は、そのように自分を優しく包んでくれるものを知りませんでした。王様は、自分の心がやわらかくなっていくのを感じます。
王女は今度は王様を抱きしめたまま、王様の頭をなでました。
「愛とは、安らぎです」
すると王様のひとみから、急に涙があふれ出てきました。
王様はそのことに驚きました。
父親が亡くなったときも、どんなに辛いときでも、王様は決して泣きませんでした。それなのに王女に抱きしめられ、頭をなでなれると、自然と涙がこぼれてくるのです。
王様はそこで、今まで欠けていた何かがぴったりと埋まったように感じました。
「今、あなたが感じている温かい物。それが愛です」
その一言に王様は言葉をなくし、また熱い涙をぽとぽとと流しました。
心を温かくさせるものの正体を、ようやく認めたのです。