3.王様の質問
ある日のことです。
王様は賢者たちに尋ねました。
「愛とは、いったいどんなものか?」
すると賢者の長は困りました。
王様はまだ若く、学ばなければいけないことが沢山あります。
王様が「愛」を知ることで、勉強や仕事をおろそかにしてしまうのでないかと恐れたのです。そして何と答えようか考えました。
王様は今まで沢山の人に会ってきました。中には嘘をつく人、王様をだまそうとする人もいました。
そのため王様は人の目を見て、嘘を見抜くことが出来るようになっていたのです。
賢者の長は迷ったあげく、こう答えました。
「愛とは、国を滅ぼすものにございます」
それを聞くと王様は驚き、賢者の長の目を見つめます。
「なんだと! 愛とは国を滅ぼすものなのか!?」
賢者の長はうやうやしく、王様に答えました。
「わが王よ! その通りでございます。はるか東にトウと呼ばれる国がございました。この国の王様は、愛を知るまでは立派な王様でした。しかし愛を知ると、仕事をそっちのけにして国民を困らせ、やがて国は滅びました。これが噂に聞くところの、ヨウキヒの物語でございます」
それを聞くと、王様はうなだれました。
「そなたの目は嘘を言っていない。なんと恐ろしい! 愛は兵を用いずして国を滅ぼしてしまうのか」
しかしそれで納得しない王様は、別の賢者に尋ねました。
「賢者の長はあのように答えたが、そなたはどう答える?」
すると別の賢者はこう答えました。
「愛は人を残酷にさせます」
それを聞くと王様はまた驚きました。賢者の目をじっと見つめます。
「なんと! 愛は国を滅ぼすだけでなく、人を残酷にさせるのか!?」
賢者はうやうやしく、王様に答えました。
「わが王よ! その通りでございます。かつては砂漠の真ん中にサマルカンドという国がございました。この国の王様は国民から尊敬され、そしてお妃様をとても愛していました。しかし、お妃様はやがて他の人を愛するようになりました。すると王様はお妃様を深く愛していたからこそ悲しみ、女性嫌いになって、一日ごとに女性を殺しました。これが噂に聞くところの、センヤイチヤ物語でございます」
それを聞くと、王様はまたしてもうなだれました。
「そなたの目は嘘を言っていない。なんと恐ろしい! 民から慕われていた王が、愛によって民から恐れられることになるとは」
そして最後に、一番若い賢者に尋ねました。
「あの賢者はあのように答えたが、若いそなたはどう答える?」
すると若い賢者はひれふして答えました。
「わが王よ! 私には愛を語ることができません」
若い賢者の答えを聞くと、慌てて賢者の長は答えました。
「この者は賢者ではありますが、まだ若くあります。賢者にとっては、知らぬことを知らぬというが当然の作法です」
そう答えると、王様の周りにいた人たちが一斉に笑いました。
「よいよい、若い賢者の賢さを見せてもらった」
王様もつられるように笑いました。そして賢者の長にほうびを取らせて言いました。
「愛とは国を滅ぼす。愛とは人を残酷にさせる。なんと恐ろしいものか。賢者に、そして国民に約束する。私は決して、愛にまどわされぬようにすると!」
そして王様はますます勉強にはげみ、ますます仕事をこなしました。
そのため国はますます豊かになり、誰もが王様をほめたたえました。