活躍
武装はしてない(らしい)はずの補給機からは凄まじい量の弾幕が張られている。今は射程外にいるが、それでも飛んでくる可能性はある。気を抜かずに補給機を見る。
「どうやって壊せばいい」
『んー、こちらの機銃は完璧射程外ですね』
「ミサイルはダメなのか?」
『相手は特殊なコーティングをしていて、ロックオンすらできません』
ロックオンしなくても撃つことはできるが当たる可能性は無に等しい。そもそもあの弾幕だ、機体にたどり着く前に撃ち落とされるのが関の山だろう。
しかし、このまま見ているというわけにもいかない。この機体に積まれている飛行燃料の魔力にももちろん限界があり、敵の応援部隊が来る可能性もあるのだ。ここでチンタラしている場合じゃない。
「相手に弾切れと言う概念は無いのか?」
『あの弾も魔力ですよ。補給機の魔力が尽きるなんて中の人たちが全員ぶっ倒れる以外ありえませんよ』
ちなみにこの機体の機銃の弾も魔力ですよ。と丁寧に教えてくれる。
しばらく考えていると、急に目の前からミサイルが飛んできた。
間一髪でそれを避ける。
『まさかAAMまで積んでいるとは』
「普通は積んでないのか?」
『補給機はなるべく魔力を使わないようにするため武装はしてないのが基本です。それなのに機銃はおろかAAMまで』
なるほど。ようやく補給機が武装をしていないという理由がわかった。しかし、それを知ったからと言ってどうにかなる問題ではない。
『急いであの補給機を壊す方法を考えないと!!』
アリサが焦っている。AIでも焦るときはあるんだな、とどうでもいい所でマキは感心する。
「補給機を墜とせばいいんだよな?」
『は、はい。そうですが』
「手荒でもいいか?」
『壊せるなら何でもいいです。お願いします!』
「了解した」
マキは機体を補給機へと向ける。補給機は未だに弾幕を張り続けている。
「……撃ち墜とされたらすまん」
『えっ!?えっ!?』
ボソッとアリサを不安にさせることを呟く。
機銃の嵐の中に入っていく。
避けることなど不可能。ならば、バーナーを炊き最速度で補給機へと向かうのみ。多少の被弾など気にしない。ただ目標目掛けて機体を進める。
機銃に交じってミサイルも飛んでくる。スレスレで回避する。
『敵補給機、機銃範囲内に入りました!』
マキは黙って機銃を撃つ。機体にではなく魔力を溜める場所とやらに。
『敵補給機無力化!! やりました!!』
アリサは喜んでいるが、無力化した当の本人は無表情のままだ。ただ、鼻で笑っただけ。それにどういう意味が含まれているのかは誰も知らない。
「喜んでいる暇は無いんじゃないのか?」
『ああ、そうですね。次は地上補給機の破壊に向かわなければ。位置はすでに特定しています』
次はレーダーに映し出された場所へと向かう。
「こちらマキだ。ローズ聞こえるか? 生きてるか?」
『こちらローズ、残念ながらまだ生きているぞ。どうした?』
「つい先ほど補給機を無力化した。俺は地上支援へと向かう。あとは任せた」
『そうか、助かった。あとは任せろ』
敵航空機部隊は交戦を続けているが、撤退を始めているものも少しだがいる。味方の士気は上がり、敵の士気は下がっている。恐らく空はもう大丈夫だろう。
さて、次は陸なわけだが。
「どうやって破壊すればいいんだ? さっきと同じ要領か?」
もしそうだとしたら難易度はさっきと比べ物にならないほど上がってしまう。
『いえ、陸は私の方で何とかします。準備をしますので、少々お待ちを』
「では、俺はそれまで航空支援を行っている」
なるべく遅い速度で地上と水平に飛び、敵地上兵器にロックオン。対地ミサイルを放つ。当たると思った瞬間、何かとぶつかったように爆発して消えた。
「シールドか?」
一瞬だが、半透明の半円のようなものが見えた。推測するに魔法で作ったシールドと言った辺りか。
「魔法障壁か……」
『よくわかりましたね』
ドンピシャだったようだ。
『この世界の兵器は基本リアルタイムで魔力を乗組員が提供しないと動きません。航空機の場合はパイロットが、地上車両の場合は乗組員が交換交換で魔力を提供しています』
「俺は提供も何もしていないが」
『この機体は例外ですよ。話を戻します。地上車両は何人も乗れます。だから、魔力はその分だけあるということです』
「ということは、その多くある分をシールドなどに回せるのか」
『そういうことですね。航空機は基本一人乗りなのでなるべく最小限に消費を抑えるんですよ』
魔法と言うのは便利でもあり不便でもあるようだ。
「シールドを破る方法は?」
『今は補給機からの提供もあるので破るのは相当難しいですね。ひとまず、攻撃を続けてください。相手の気を引くことにもなり、味方も動きやすくなるでしょう』
「了解した」
素早くUターンし、対地ミサイルと機銃を同時に放つ。やはり、魔法障壁に防がれてしまう。
これを続けるのも少々気が滅入る。が、マキは攻撃をやめない。地上車両から見れば、空からの攻撃はかなり厄介である。おまけに今の制空権はどっちかというとこちらのものだ。一方的に攻撃し放題である。
攻撃を続けている間、味方車両も着実に前進を続けている。戦況は少しずつだが、確実にこちらへと傾いているようだ。
対地ミサイルが残り少なくなったあたりでようやくアリサの声が入ってきた。
『お待たせしました。準備整いましたよ』
「相当大変みたいだな」
『まあ、いろいろあるもんで。さて、攻撃は私がしますが、お願いがあります』
「なんだ」
『なるべく敵補給機の真上から、それもなるべく遅い速度で向かって行ってください』
「わかった」
機体を空高くまで上昇させ、十分上がったところで地上へ目がけ下降させる。ブレーキをかけ、スピードを殺しながら。
地上補給機はでかいトラックみたいなものだった。今は移動もしていない、細かい微調整をしながら、なるべく真上から向かうようにする。
『私が攻撃したらすぐに機体を上げてくださいね』
返事をしたいができない。少しでも気を抜けば意識が無くなりそうだ。一瞬だけ何も感じないアリサが羨ましく思えた。
『魔法パルス発射!!』
機体の先から小さい球状のものが飛んで行った。それを見た瞬間機体を上げる。
「上がれ……!」
歯を食いしばり、出せる力をすべて使い、操縦桿を引く。
地面ギリギリのところで機体は上がった。
「成功したのか?」
『はい、おかげさまで。これで空・陸ともに補給路をつぶしたことになります』
実際にトラックはピクリとも動かなくなり、車体から黒煙を上げていた。素人でも成功したのだとわかる。
「で、魔法パルスってのはなんだ?」
『んー、電磁パルスの魔法版ですね』
「それくらい予想できる」
元いた世界でもそれくらいはあった。しかし、戦争などでは使ってはいけないという暗黙の了解があり、実際に見たときは無いが、知識は持ち合わせていた。
『魔力を圧縮して放っただけですよ。相手の魔法機器は容量オーバーでショートして動かなくなります。まあ、魔力を溜めるのに時間がかかる、効果範囲が小さい、などと言った欠点がありますが』
「連発はできそうにないな」
比較的最終手段になるものらしい。
「さて、残りを片付けるとするか」
補給路断絶から数分。相手は不利と思ったのか、撤退していった。無線からは味方の安堵の声が聞こえてきた。
『それじゃ、帰りましょうか』
マキは何も答えずに、機体を王宮の方へと向けた。
だいぶ久しぶりの実戦だったが、いつも通り終わらせることができた。なら、あの訓練結果はなんだったのだろうか。そして、出撃する時にサラに言われた『その機体に乗ると、パイロットはその負荷に耐えられなくなって死んでしまうの!』が、気になっていた。アリサに聞いてみても、
『そのままの意味ですよ』
と、教えてくれない。いや、解答にはなっているのだが。
(まあ、サーシャとの約束も守れたしよしとするか)
シートに体を沈める。なんか、いつもより疲れた気がした。
『運転変わりますよ』
「頼む」
操縦桿から手を離し、残りの操縦をアリサに任せる。
味方にもだいぶ被害が出たが、街の方までは被害は及んでないみたいだ。
『王宮に帰ったら女王様にいろいろ言われるかもですねー』
「かもな」
マキはひとつだけ大きい溜息を吐いた。