ドッグファイト
「戦況はどうなっているんだ」
『空も陸も押されていますね。早く制空権を奪って陸の援護をしていきたいところですね』
離陸し、急いで戦場へと向かう。遠くに戦闘機の爆発が点々と見える。撃ち墜とされているのが知り合いが乗っている戦闘機じゃないことを祈る。
無線を通して様々な声が聞こえてくる。やはり、全体的に劣勢のようだ。
『敵戦闘機接近』
いつの間にか戦場へと近づいていた。相手は素早く後ろについてくる。
『後ろにつかれましたよ』
「わかってる」
素早く旋回する。敵も喰らいついてくる。
意を決して宙返りの操作を行う。あっという間に敵の後ろにつく。
機銃を撃ち込む。
『敵機撃墜』
一息つこうとするとレーダーに新たな敵が出てくる。今度は二機一緒。
さっそく機銃を撃たれるがなんとかローリングをして機体を守る。
『顔色悪いようですが大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃないな」
軽口を叩きながらも意識は敵に向けている。
(さて、次は…)
機体を上に向けて急ブレーキをかける。敵は急な減速についてこられずに前に出ていく。そのチャンスを逃さずマキはバーナーを炊き後ろにつく。いわゆるコブラという機動だ。
『ミサイルロックオン』
二機に目がけてミサイルを放つ。しかし、ローリングされミサイルは明後日の方に飛んでいく。さすがこの世界の住人、連続でローリングをしている。機銃を警戒しているのだろう。
「こういう場合どうしたらいいんだ?」
『排熱部分に機銃をぶち込めばいいんですよ』
「了解」
『えっ?』
驚いたような声を出すアリサを無視し、近くの機体に狙いを定め、撃つ。
敵がローリング中にも関わらず外すことも弾かれることもなく排熱部分に機銃を当てる。
『……一機、撃墜』
もう一つの機体はローリング中の仲間を撃ち落とされて身の危険を感じたのか、ローリングをしながら旋回をする。完璧に逃げへと徹していた。
「不抜けめ」
冷静に言い放ち、追いかける。
目の前の敵が無線で助けを呼んだのか四方八方から敵機体がやってくる。
マキはそんなのには目もくれず目の前の敵にだけ集中する。
『ミサイルアラート!』
ミサイルの群れが次々へと襲って来るが、機体を操作しすべてを避ける。
『クソッ!あれはバケモンか!』
敵の無線でも傍受したのか、唐突に怒声が聞こえる。
さきほどと同じ用に排熱部に機銃を撃ち込み、目の前の戦闘機を鉄屑へと変える。
『あなた、本当にC判定だったんですか!?』
アリサを無視して、援軍に来た敵の相手をする。
「敵の数は?」
『え?あ、ああ、合計六機です!』
会話中にすれ違った敵をインメルマンターンをし追いかける。
何も考えずに機銃を撃つ。エンジン部分に当たったのか相手は派手に爆発する。
『ミサイルアラートです!』
宙返りとローリングを組み合わせてすべてを避ける。吐き気が少し込み上げてくるが無理やり押し込む。
敵が三機ほど目の前に出てくる。そのうち二機に狙いを定め、ミサイルを撃つ。
『い、一機撃墜』
ローリングのタイミングがずれてしまったのか、一機が墜ちる。この世界のミサイルはローリングかフレアに邪魔される可能性が高いため運頼みの可能性が高い。あまり使わない方が得策かもしれない。
前方に二機、後方に三機。三機もの敵を無視するのは辛い。やはり、逃げに徹しながら一機ずつ墜としたいった方がいいのだろうか。
後ろ髪をひかれる思いを感じながらも目の前の二機を追いかけるのをやめ、逃げに徹する。
敵の機銃の雨を避けていく。ローリングも有効活用していく。さっきから繰り返しているおかげかだんだん慣れてきた。まだ、目が回ったりはするが。
『助太刀します!!』
無線が入ると同時に二機が墜とされた。
「あれは……」
『サイス・マリン。一番隊所属ですね。まだ入ったばかりの新人のようです』
無線の声でサイスとわかった。
いくらマキに集中していたとはいえ二機をほぼ同時に墜とすとは中々の腕だ。さすが精鋭ぞろいの一番隊と言ったところか。
「負けていられないな」
ひとり呟き、宙返りを決め敵機体の後ろにつく。
『ファイア』
アリサの声と共にミサイルが発射される。見事に着弾。機体は爆発し、姿を消した。
『いらないお世話でしたか?』
「いや、助かった」
どうやらローリングにも限界があるようだ。その隙をアリサが狙ってくれたのだろう。
次を探そうとすると、周りに戦闘機はすでに飛んでいなかった。
『では、私はこれで』
サイスがすべて撃ち墜としたようだ。
(あいつ、俺よりすごいんじゃないのか)
そう思いつつ、マキも新しい敵を探してその場を飛び去った。
遠くでドッグファイトが行われている。
「あれは誰だ?」
『ローズ・シュタイガー。国防軍隊長ですね。どうやら苦戦しているようです』
一対三。明らかに不利だ。
「無線をつなげてくれ」
『了解しました』
すぐにつながる。
「ローズ。今助ける」
『マキ!? なんでここにいるんだ!?』
「戦場だからだ」
『そんなことではない! 早く逃げろ、お前じゃ無理だ!』
どうやら信頼されていないらしい。自分で失った信頼は自分で取り戻さないといけない。
「アリサ、ミサイルに回転をくわえることはできるか?」
『それくらいどうってことないですよ、打ち消すんですよね?』
「ああ、その通りだ」
『こちらもローリングしながら撃てばいいんですよ』
至極簡単なことだった。目の前の二機にロックオン。ローリングしながらミサイルを撃つ。
相手と同じ方向に、同じスピード以上を出すことによって見事にローリングの効果を打ち消すことができた。二機とも塵と化した。
もう一つはローズが自力で何とかしたようだ。
「大丈夫か?」
『ん、ああ、まあな』
マキの働きを驚いているのか疑っているのか、少し口籠っていた。
『んじゃ、私は次へと向かう』
「了解。グッドラック」
画面に向けて親指を立てる。
「さて、マリサ。この戦いはどうやれば終わる?」
『そうですね。陸と空両方の補給路を断てば終わるかと』
「補給路? この戦いはついさっき始まったばかりだぞ、おまけにそう長引かない戦いだろう。補給路を断っても意味は無いと、」
話を遮るマリサ。
『その補給路ではありませんよ。この世界の兵器は基本魔法で動いてます。そして相手は最初から全力で今まで戦い続けています』
一息置いて続ける。
『このペースを保つにはどこかしらに必ず魔力を補給している機体があるはずです』
「しかし、その機体をどうやって探すんだ。片っ端から叩いていけばいいのか?」
『大丈夫ですよ。私を誰だと思っているんですか?』
アリサは意味深に笑った。