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出撃

体に染み込まれた癖のおかげで、警報が鳴ると自ずと格納庫へと足を運んでしまう。

「ああ、マキ。いい所に来てくれた」

 いつでも戦闘機に乗れるような恰好をしているローズがマキに気づき近づいてくる。

「出撃か」

「ああ、今現在ここに攻め込まれているのだ。国防軍の隊長が動かないでどうする」

 誇らしげに言う。しかし、その表情もすぐに曇ってしまう。

「マキ、頼みごとをしていいか?」

「俺にも出撃しろってか」

 すでに覚悟していることだ。相手はこの首都へと攻め込んでいるのだ。数は相当のものとなるだろう。それに対してこちらは明らかに人手不足だ。今動ける機体も少ないだろう。

「違う」

 予想外の回答だった。

「じゃあ、なんだ愛の告白か」

「茶化さないでくれ。これは真剣な頼みごとなんだ。……嫌だったら断ってもらって構わない」

 ローズは俯いてしまう。

「時間が無いんだろう」

「ああ、そうだな」

 覚悟を決めたらしく、ローズは顔を上げる。綺麗な碧い眼には涙が浮かんでいた。

「この国を、女王様を守ってほしい」

 感極まってしまったのかついに目から涙が零れ落ちる。同時に嗚咽も上げてしまっている。国防軍の隊長としての立場が強すぎて忘れてしまうかもしれないが、ローズだって立派な女性の一人なのだ。泣きたいときもあるだろう。泣きたいときは泣けばいい。

「これから私は出撃する。命を落としてでもここを守る」

 マキは真剣にローズの話を聞く。

「だから、もし私がいなくなったとしたら、ジャックとしてこの国を、女王様を守ってほしい」

 ローズはすでに死を覚悟している。ここの空を死に場所と踏んでいる。マキはその覚悟と勢いに押された。

「……すまんが、約束できんな」

「そうか、すまん。こんな約束守れるわけが」

 マキはその言葉を遮る。

「必ず生きて帰ってこい」

 ローズの目が見開かれる。

 マキは戦場に行く前から死を覚悟していくやつが嫌いだ。なぜ死ぬことを前提として戦場へと向かわなければいけないのだ。

「国防軍隊長とやらがそんなに弱気でどうする。この国を守りたいなら、女王を守りたいなら必ず生きて帰ってくるんだ」

 ローズの頬を流れ落ちる涙を拭いてやりながら、微笑みかける。

「ふっ、私としたことがな。わかった、生きて帰ってきてやるさ」

「無事帰ってきたら一杯奢ってやるよ」

「約束だぞ」

 そしてローズは自分の機体へと向かう。その表情は生きて帰ると決意した表情だった。

 マキは持っていた最低限の装備を身に纏う。

 格納庫を見渡すと、端の方に誰も使わない機体が置いてあった。近づき、乗る。

 座席に置いてあるヘルメットを被り、キャノピーを閉める。

 急に通信画面にサラの顔が映る。

『その機体から降りて!』

 顔や声からも必死さが見受けられる。

「なんでだ」

『その機体に乗ると、パイロットはその負荷に耐えられなくなって死んでしまうの!』

 負荷で耐えられなくなって死ぬ戦闘機。長い間戦闘機乗りとして生きていたが初耳だ。そもそもパイロットが死んだら機体はどうやってここに戻ってきているのだ。

『今あなたを失えないの。だから、今回は出撃しないで……』

 悲しそうな表情を浮かべる。

「大丈夫だ。そもそもC判定のジャックなんていなくなっても変わらんだろう。むしろ、清々するんじゃないのか?」

『あなたはなんでそんなことを!!』

 感情が高まったのかサラは身を乗り出してくる。すぐに冷静さを取り戻したのか元の体勢に戻る。

『と、とにかくその機体から降りて』

 マキはひとつ溜め息をする。

「部下の心配をするのも立派な仕事だと思うが、部下を信じてやるのも大事なことなんじゃないのか」

 サラの目を真っ直ぐ見て言う。そんなマキの目を見て何かに気づいたような、呆れたような表情を浮かべる。

『わかったわよ。好きにしなさい』

 無線が切れた。

 滑走路に出ようとすると、再び無線が入ってくる。

『マキさん!』

 無線を飛ばしてきたのはサーシャだった。映像から見るに通信塔にでもいるのだろうか。

「なんだ」

『帰ってきてくださいね』

 一言だけだった。しかし、その一言でマキはすべてを悟った。

「努力しよう」

 マキはサーシャに笑いかける。サーシャはそれにニッコリ笑い返してくれる。そして、通信が終了する。

 どうやら、この世界には自分より人の心配をする人が多いようだ。

『みなさんお人好しですね』

「……AIか」

 今までの会話を聞いてたのか、AIが話しかけてくる。

 マキはAIが嫌いだ。計画と少しでも違うことをすると、指示をしてくる。打ち込まれたプログラムが最優先。今は技術が進化してきたためある程度の融通が利くようになっているが、所詮機械は機械だ。話しかけても機械的な回答しかくれない。そんなAIがマキは嫌いだった。

 画面を操作してAIの電源を切るスイッチを探すが見つからない。

『残念ながら私を切ることはできませんよ』

 何をしようとしているかばれていたらしい。

「そうかい」

 今回だけは我慢することにする。

 滑走路に出ながらAIに聞く。

「武装は?」

『対空ミサイル、対地ミサイル共に30ずつ。機銃は、尽きることは無いでしょう』

 数は十分。

「フレアとジャマーは?」

『ありません』

 即答される。嫌な予感が頭を走る。

「ローリングは?」

『タイミングさえ合えばどんな攻撃でも大抵弾けます』

 この世界の戦闘機は地球の戦闘機と構造が違うらしく、高速でローリングや素早く宙返りをすることができる。ローリングはタイミングがシビアだがミサイル等の攻撃を弾くことができ、宙返りは後ろについている戦闘機の後ろを素早くとることができる。しかし、両方とも慣れていないせいか軽く酔ってしまう。できればなるべくしたくない操作だ。

「了解。ちなみに何と呼べばいい」

『アリサと呼んでください』

「わかった。よろしく頼む」

『よろしくお願いします。C判定のジャックさん』

 マキは苦笑いを浮かべながら、離陸をする。

次から戦闘に入れそうです

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