恋心フリーズドライ(五百文字お題小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
今回はお気をつけください。
それはまさに雷に撃たれたような衝撃的な恋だった。
会社の受付を担当して早三年。
その人は取引先の営業マン。
黒系のスーツをパリッと着こなしアタッシュケースを携えて私の前に現れた。
「今度一緒に飲みませんか?」
勇気を振り絞ってメモを渡した。
数日後願いは叶い、私は彼と二人きりでお洒落なバーにいた。
夢見心地で彼とグラスを傾け、会話した。
すっかり打ち解け合い、三軒梯子してしまう。
「僕の家、この近くなんだ」
そんな下心が透けて見えるような三流の誘い文句にも全く警戒する事なくついて行った。
どうなっても構わないと思った。
彼の住んでいるのはデザイナーズマンションだった。
酔いも手伝って私は大胆になっていた。ブラウスのボタンを二つ外して胸元をわざと見せた。
「今日は帰りたくない」
カビの生えたような甘える言葉を臆する事なく吐き、彼にもたれかかる。
「貴方に恋しちゃったの」
「そう」
彼はニコッとして私にポリエチレンの袋を被せた。
それはかなり大きなもので全身がすっぽりと覆われてしまう。
「何?」
ふざけているのだと思って笑いながら訊くと、
「その恋心、真空凍結乾燥させてとっておくんだよ」
彼はニヤリとしてそう言った。
ということでした。