真実
4
家に着いて暫くすると、宅配便がやってきた。
実家からだ。
野菜に米、その他。
そういえばここ最近、帰省をしていない。
帰ってもどうせ、
『仕事は決まったの?』『彼女を連れてきたりしないの?』
等と現実を突きつけられるのがオチだから。
しかし、稼ぎが無いまま一生独り身という最悪の人生は送りたくはない。
だから一人せこせことコンビニなんかで働いているのだ。早く定職に就きたい。
部屋でゴロゴロしていても出会いはないので、雑踏の中へ繰り出す。
正直、街をブラブラというのは久しぶりだ。
ロングなストリートを通っていると、左右にビラ配りをしている若者達が見えてくる。まぁ、僕も若者で括られるんだけど。
あんなのが商売になるのだろうか。
「おねがいしまーす」
必死なのだろう。汗水を垂らして働いている。僕とは大違いだ。
というわけで、尊敬の意を込めて広告を受け取ることにした。
「・・・・・・安売り?」
どうやら、駅前の大型電器屋によるセールがあるらしい。
欲しい家電はそれ程ないが、寄ってみるか。
・・・・・・予想通り、混んでいた。ていうか、混んでるっていうのか?これ。言うならば"豚バラ肉100g 5円"という破格でタイムセールをしている店の商品棚と関係者以外立入禁止の扉の間の様な感じである。
頬を冷や汗が伝う。
わざわざ参加してやる義理も無いので帰ろうとしたその時、如月結菜の姿が目に入った。
彼女は展示品限りの赤いデジタルカメラをチラチラ見ている。俺の直感が正しければ、今すぐに彼女をここから追い出さないといけない。贔屓のし過ぎかもしれないけど。
僕は彼女の方へ歩みを進める。
人の波に揉まれながらも何とか前へ。
そしてついに、寸でのところで彼女の腕を掴んだ。
「ちょっと、こっちに」
「!」
彼女の肩が跳ねる。それから、必死に腕を振り払おうとした。
「大丈夫ですって。店員じゃありませんから」
その言葉を聞いて安心したのかどうかは知らないけど、取り敢えず、抵抗は止めてくれた。
5
今僕は、如月結菜を連れて街を歩いている。人気の少ないところを選んで。
「どうして物盗りをするんですか?」
彼女は答えない。
「無理に言えとは言いませんけど・・・」
「・・・・・・病気、らしいです」
「え?」
「私は、孤児だったんです・・・。高校一年生のときまでは、その事をうまく、かくしてたんですけど、それが原因で、高校のときにいじめられて、ひとりぼっちだったんです、ずっと。で、そのときに昔の記憶がフラッシュバックしてきて、そのまま家に引きこもってたんです。大人になって、このままじゃいけないと思って、一人で生活をはじめたら、自然に・・・。お医者さんに訊いたら、病気だ、って」
「・・・・・・」
大変、返事をし辛い。この場合は僕が悪いのだろうか。
しかし、精神的なものだとは理解できた。障害者届けを出したら、もし次に何かを盗っても罪は軽いんじゃないか。出せたらだけど。
「あ、あの、ありがとうございました。止めていただいて。前に私を解放してくれた人ですよね?ありがとうございます」
「どういたしまして。事情があったなら言ってくれればよかったんですけど」
「何だかあのとき、私に質問してきた人、高校のときに私をいじめてきた人たちと雰囲気が似てて、それで、こわくて言えなかったんです」
「・・・何かあったら、言ってください」
「わかりました。ありがとうございます」
「それじゃ、僕はこの辺で」
記憶力って凄いんだな、と、的外れなことを考える。
あ、連絡先教えるの忘れた。