万引き。
「動機は?」
「すみませんでした・・・」
「いや、それはいいから。俺ら側としては動機を訊いて住所を訊いて警察にポイで済ませたいんだよ。最終的な結末は何ひとつとして変わらないから、早く言っちゃった方がいいと思うんだけどな」
店長が如何にも面倒くさそうに言う。そりゃ、責任は主に店長が背負うんだから、当然ではあるのだけど。
「じゃ、電話番号だけ一応訊いとくから、格好だけ」
おそらく、見切りをつけたのであろう。ここで言う"格好"とは、上に報告するという意味でもあるだろう。
しかし、このままでは彼女があまりにも不憫だ。もちろん、原因は彼女にあるから抵抗することもできないだろうし。
暫く思案していると、
「おい、松島。俺もう面倒いからお前がコイツの相手しろ。お前のタイムシフト中に起きた事件なんだから、お前が処理しろ」
声がかかった。
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それから30分後、僕はレジカウンターに戻っていた。
先ほどまであった事件が、無かったかのように。
「で、さっきの処分は?」
「随分反省していたようなので、厳重注意です」
「・・・・・・お前は甘いんだよ」
「は?」
「そんなに甘ったるい思考してると、こっちじゃ生きてけねぇぞ。肝に銘じとけ」
「それはどういう・・・」
「その内分かるさ」
レジに戻れ、と言って店長は奥に戻っていく。
しかし、どうしたことか。
僕は彼女を知っている。
それ故の判断だったのかもしれない。
何にせよ一件落着ではあるから、放っておいても問題はないと思う。
ここのコンビニでは、6時間交代3人ずつのタイムシフト、計12人+αでまわしている。
僕は深夜帯がいいのだが、仕事柄そういう訳にもいかない。
大学は若干サボり気味。大学4年のこの時期に内定はゼロ。だからこんなに必死をこいてバイトをしているわけだ。
今日あった万引き事件、如月結菜という女性の犯行によるものだ。
僕は彼女と暫くぶりに会ったのだけど、彼女は変わっていた。根本的な何かが。
明るかった彼女は何処へ行ってしまったのだろうか。
背中がムズムズする。
そして、これを有耶無耶にしたまま、次にバトンを繋いだ。
時間切れのようだ。