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十年の眠りの間に、私の弟子は最強になっていた  作者: あさび


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第八話 欠けた星と、言えない名前

「あの、待ってください」


アウレリアは足を止めた。


通り過ぎようと思ったのに。


息を吐いて振り返る。


「はい、何用でしょうか……ルーカス・アルフェン様」


「あの、アメリア・ルシア嬢ですね。甥を助けて頂いたと聞きました。ありがとうございます」


声が、記憶のものより少し低い。


背も高くなり、男性らしい顔立ちになっている。


それでも、母と同じ青緑色の瞳は変わらない。


「当然の事をしたまでです。アルフェン公爵閣下のご令弟様にも感謝されるなど光栄です」


「やめて下さい。僕は名ばかりの公爵家令息ですから。兄上のように優秀ではないので、畏まらないでください」


「では、ルーカス様こそ私に敬語はおやめ下さい。私はただの街娘ですので」


ルーカスは目を瞬かせた。


「それは、考えてみればそうだね。なぜだろう。君をみていると……いや……なんでもない」


「医学書ですか?」


アウレリアが分厚い本に目をやる。


「ああ。僕もカイルの病状を調べていたんだけど、結局役に立たなかった。少しでも兄上と義姉上の力になれれば良かったんだけど」


彼は苦笑した。


「その気持ちが大事なのですよ」


自然と言葉が出る。


「カイル様の為にルーカス様が手を尽くしたことが重要なのです。結果は二の次です。それはレオニス様もセレナ様も、きっとわかっておいでですよ」


ルーカスは驚いたように目を丸くし、それから朗らかに笑った。


「姉上も同じような事を言っていたな」


胸の奥が、かすかに揺れる。


「お姉様……アウレリア様ですか?」


その姉がセレナではなく自分であることを、表情で悟る。


「ええ。姉上は本当にすごかったんだ。強くて優しくて綺麗だった。僕はアルフェンの息子なのに剣術の才能がなかった。魔術も人並みだ」


そう言って、後頭部を掻く。


昔から、強がるときの癖だ。


「だから、姉上が才能のある弟子を連れてきた時は嫉妬したな」


「弟子とは、ヴァルノクス隊長ですか?」


「ああ、リオは今では有名だものね。魔術は使えなかったけど、剣術は才能の塊みたいな奴だった。ダメな自分と比べていたよ。あと姉上を取られたような気がしてね」


「ヤキモチだったのですか?」


「そうだよ。僕も子供だったからね」


あの頃の二人の言い争いを思い出す。


理由はそんなところにもあったのか。


「でもね、姉上が言ってくれたんだ。僕が頑張ってるのを見てるって。頑張るのが大事なんだって。剣術も魔術もダメでも、その時は別のことで頑張ればいいって」


少し照れたように笑う。


「お陰で今では星学研究者になった。ルクシオンではそれなりに名も知られているよ」


星の加護を受けるこの国では、星学研究者は重要な立場だ。


立派になった。


ふと、本の間から何かがきらりと光る。


「ルーカス様、それは……」


本を開くと、挟まれていたのは星の髪留めだった。


留め金が曲がり、星の先端がわずかに欠けている。


「姉上のだ。子供の頃うっかり壊してしまってね。言い出せなかった。大人になってから見つけて、今はこうやって栞代わりに。姉上がそばにいるような気がして、お守りなんだ」


差し出されたそれを、アウレリアは見つめる。


触れずともわかる。


欠けた星の奥に、確かに残っている。


「ルーカス様。この髪留め、少しの間お預けして頂けませんか? きれいに直せるかもしれません」


「え……でも君の店は薬屋じゃなかった?」


「手先が器用なので」


にっこり笑うと、ルーカスは少し迷い、それから頷いた。


「じゃあ、お願いしようかな」


受け取った瞬間、確信する。


この髪留めには、まだ自分の魔力が宿っている。


一時的に治まっただけの結界。


根本は何も解決していない。


けれど。


欠けた星が、再び巡ってきた。


偶然とは思えなかった。

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