第一話 夜を裂く光
はじめまして、あさびと申します。
ファンタジー+恋愛ストーリーを目指しております。
序盤は恋愛要素薄めですが、徐々にラブストーリも書いていけたら…と思います。
じれじれの恋愛ストーリー好物の方是非お付き合い下さいませ。
漆黒と深い青を基調とした鱗には、星や光の紋様が浮かんでいる。
巨大な翼と尾、長く鋭い爪。
星のように光る目は、冷たい知性を宿していた。
優美な体躯から溢れ出す禍々しい魔力は、すでに美しかった王都を破壊し、炎の海へと変えている。
その巨体を前に、一歩も退かず立つ少女がいた。
銀に近い淡い金髪を夜風に靡かせ、細身の剣を構える。
アウレリア・アルフェン。
このルクシオン王国で、剣と魔術を同時に扱える唯一の存在。
最強の魔女であり、最強の騎士。
彼女の振るう剣――《ステラ・ノクティス》。
軌跡は星屑のように夜を裂く。
結界の修復に、すでに多くの魔力を費やしていた。
胸の奥が焼けるように痛む。
それでも、退くわけにはいかない。
国を守ること。
それがアルフェンの責務。
それを、物心つくよりも先に教えられてきた。
「先生!」
悲痛な声が夜を震わせた。
振り向かなくても分かる。
アウレリアをそう呼ぶのは、一人だけだ。
血にまみれ、満身創痍の少年が、それでも立ち上がろうとしている。
リオ。
彼女がただ一人認めた弟子。
王都に侵入した魔物をすべて斬り伏せてきたのだろう。
それでもなお、彼は手を伸ばす。
アウレリアは、ほんの一瞬だけ微笑んだ。
「来てはダメよ」
そして、静かに続ける。
「……リオ。もう十分よ」
少年が息を呑む。
「あなたは、私の弟子である必要はないわ」
夜風が、二人の間をすり抜ける。
「破門よ」
刃よりも鋭い言葉だった。
「私に囚われる必要はないの」
喉の奥が震える。
それでも、言い切る。
「あなたは、あなたの人生を生きなさい」
少年は首を振った。
違う、と言いたかった。
弟子でなくていいなど、望んでいない。
守りたいのは国ではない。
目の前の、ただ一人なのに。
けれど、声が出ない。
胸の奥が焼けるように痛む。
息がうまく吸えなかった。
破門という言葉よりも。
自分を置いていくと決めた、その静かな覚悟の方が、ずっと怖かった。
伸ばした手は、届かない。
夜を裂いて跳ぶ背中を、ただ見ているしかできない。
解き放たれたはずなのに。
その瞬間、リオの世界は、彼女だけになった。
だから彼は、目を逸らさなかった。
最期まで、その背中を焼き付けるために。
アウレリアは地を蹴った。
夜を裂くように跳躍し、竜の咆哮が空を揺らす。
《ステラ・ノクティス》が星のように光り輝いた。
一瞬の隙。
首元へ刃を突き立てる。
竜が暴れ、空気が軋む。
だが、離さない。
内側から魔力の灯火が削られていく。
怖くないわけではない。
それでも、手を緩めない。
――これで終わらせる。
閃光。轟音。
そして、静寂。
音が遠のく。
熱も、痛みも、闇に溶ける。
ああ。
アルフェンの責務を、果たせただろうか。
「……やはり、君はそうするんだね」
低く、甘い声が夜の残滓に溶けた。
王太子エドガルドの声だった。
その意味を問い返す前に、彼女の意識は、静かに途切れた。
夜が明けたとき。
竜の姿はなかった。
そして――アウレリア・アルフェンの姿も。
残されたのは、焦土と、ひとり立ち尽くす少年だけだった。




