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そろそろ現実を見よっか

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/29

スーパーの棚の前で、ため息混じりの声が聞こえた。

「高くなったよなあ」

まるで呪文みたいに、誰かが言う。


私は値札を見る。

確かに安くはない。

でも、それだけだ。


その人は続ける。

昔はいくらだった、

あの頃はもっと買えた、

前はこんな値段じゃなかった。


話はいつも過去形だ。

現在の話をしているはずなのに、

参照しているのは何年も前の記憶ばかり。


私は思う。

その「昔」は、もう存在しない。

失われた楽園みたいに扱われているけれど、

戻れる場所でも、取り戻せる基準でもない。


物価が変わった。

収入も、環境も、価値観も変わった。

それなのに、

値段だけが昔のままであるべきだと信じている。


高い、高い、と繰り返す声は、

実は「理解したくない」という意思表示に聞こえる。

考えたくない。

受け入れたくない。

調整したくない。


だから現実そのものを否定する。

これはおかしい、間違っている、

自分の感覚のほうが正しいのだ、と。


私は、別に楽観的でも前向きでもない。

ただ、今の数字を今の数字として見るだけだ。

高いなら、高いなりに買い方を変える。

無理なら、諦める。

それだけの話だ。


過去の物価にしがみついて、

今を「異常」と呼び続けるのは、

現実と交渉することを放棄しているのと同じだと思う。


いつまでも昔の値段表を握りしめて、

世界のほうが間違っていると言い張る。

それは抵抗でも批評でもなく、

ただの停止だ。


レジに並びながら、私は思う。

現実を見るというのは、

諦めることじゃない。

更新することだ。


それができない人ほど、

声だけは大きくなる。


そして今日も、

「高い」という言葉だけが、

何も変えずに繰り返されていく。

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