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9.ようこそ2年D組へ



「…へ、先生?」


目を大きく開けて、これでもかと青髪長身のその男を凝視する。そんなほたるの様子がお気に召したのか、男はにやりと笑みを浮かべて、上機嫌に口を開いた。


「あれ、言ってなかったか?俺は2年D組担任の青葉聖(あおばひじり)。今日から君の()()()()になる男だよ」


末永ーく、よ ろ し く ね ?


態とらしくウィンクしてくる彼──聖に、ほたるは「はぁぁぁぁ!?」と驚きの声を上げ、思いっきり頬を引き攣らせるのであった。




「先生全く戻ってくる気配がないから探しに来たんですよ。2限のHRあと10分で終わるって知ってました?」


2年D組の教室へと皆で足を進める中、聖へにこりと笑みを浮かべる咲桜からは「おいてめぇ今までどこで油売ってやがった」という恨めしい言葉がありありと聞こえてくる。


咲桜さん、さすがの容赦の無さ…!

彼女の誰に対しても物怖じせず我を貫く性格はここでも変わらずに発揮されているらしい。

…が、仮にも担任に向かってそのような半ヤンキーな態度はよろしいのだろうか?


気になって聖の方に目を遣れば、ケロッとした顔で「いや〜探すついでに喫煙所行ったら美人で有名な白澤(しろさわ)先生がいたもんだからさぁ〜?つーい盛り上がっちゃったよねぇ〜!参ったなぁ〜」と肩をすくめている。


「いやっ、生徒放置・無断喫煙・不純交遊のスリーアウトじゃん!?」


「はは、股間に死球でも当たれば良いのにね」


「名案ね、4回くらい当てときましょう」


「はいはいそこ四球違いだからやめてね〜」


ハチと咲桜のゴミを見るような冷えきった視線を受けても全く悪びれる様のない聖に、なるほど確かにこれは…と先の咲桜の態度にも納得する。


「ヒドイなぁ〜流石にココでそーんなふしだらなことはしないって。俺もこう見えて神様なんだからサ」


「ははは…えっ、神様!?」


思わず聞こえた言葉をそのまま繰り返すほたるに、「あらぁ?2人からは何も聞いてないんだ?」と聖が面白そうに目を細める。


「そ、神様。青龍って言ってね、けっこうゆーめーな神様なんだけど、どう?聞いたことくらいはあるんじゃあない?」


「ええーーっ!?青龍ってあの青龍!?なんかあの青いでかいめっちゃ強そうな龍みたいなやつ!?」


神様系のことはほとんど何も知らないほたるでも、名前を聞けば姿形がぱっと思い浮かぶ…めちゃくちゃに有名な神様ではないか。


驚きと同時に、生まれて初めての神様との対面にほたるは子供のように目を輝かせて聖をまじまじと観察する。


「はは、そんなに見られると照れるなぁ〜…ネ、もっと近くで見」


「はーいストップほたるちゃんは私の後ろにいましょうねぇ〜神様だからって無闇矢鱈に近づいちゃダメよ」


「ふふ、そうだよほたる。それは青龍とは名ばかりの性龍さ。最低でも半径50mは距離を置くことを推奨するよ」


二人の言葉に、「いやいやまさか、だって神様だよ?神様がそんなこと…」と反論しようとしたほたるだが…そういえば初対面で5mの距離をぱっと詰められて壁ドンからの唇盗塁未遂をされたことを思い出す。


…やりかねん。

…目の前の男ならやりかねん…!!


二人の背からこちらを窺うほたるの目に警戒の色が宿った様に「あーらら、可愛い顔しちゃってまぁ」と聖は目を細める。


もう一言二言つついて彼女の反応を愉しみたいところであるのだが…残念ながら目的の教室の前に到着してしまった。


いやはや、本当に残念である。


今晩あたりに部屋にでも─…


「先生心の声がうるさいです。早くほたるちゃんを中に入れてください。…あと、彼女に無体を働いたら先生といえど殺しますので」


「……はいはーい、咲桜様の仰せのままにぃ〜」


じとりと睨みをきかせるほたるに、聖は「オンナノコってこわいなぁー」などと心の中で呟きながら、しぶしぶと教室のドアを開ける。


──その瞬間。

廊下まで聞こえていたざわめきが、シーンと静まり返った。


突然の静寂につい体が固まっていたほたるに、咲桜は「がんばってね」と小声でエールを送ると、聖の背を追うように教室へと入っていく。


彼女が席へ戻っている間…教壇の前に立った聖は、相変わらずの飄々とした態度で既に揃っている生徒達へ言葉をかける。


「よーし全員いるな?俺が遅れた理由はこの際どうでもいいとして…お待ちかねの、転入生ご対面タイムといこうじゃねえか」


そうしてこちらに視線を向ける聖に、コクリとひとつ頷きを返した。


どうやら出番が回ってきたようだ。


いつの間にかへび型で首元に戻っているハチに内心で苦笑しつつ、コツコツとローファーの音を響かせて歩みを進める。


懐疑、畏怖、睥睨─…こちらを見定めるような、鋭い視線が至るところから突き刺さる。


なんという重圧感。


常人であれば手足を震わせ歩くことすらままならないであろうそれらに、特に反応を示すこともなく聖の横に並んだほたる。


そんな彼女の様子に、好奇の視線がより集まる。


ふぅ…とひとつ、小さく息を吐いたほたるは───


ニカッ!と思わず見ているこちらまで拍子抜けしてしまう笑顔を浮かべ、揚々と口を開いた。


「えっと、天星ほたるです!妖怪とか神様とか、そこら辺まだ全然分かってないんだけど…なんか困ってることとかあったら、遠慮なく教えてください!力になれるようがんばるので!1年間、よろしくお願いしますっ!」


開けていた窓から、春の爽やかな風が通り過ぎた。


誰かが息を飲み、誰かはたまらずふはっと笑みを零す。


先程までの緊張感が、ウソのように霧散していく。


彼女に注がれる視線が、関心・興味の一色へと移り変わる様を、聖は愉快そうに目を細めて眺め、咲桜は自慢げに頷いている。


神に見初められし少女、彼女がここに導かれたのは偶然か、はたまた──…どちらにしても、楽しい一年になりそうである。


「はぁい、素敵な自己紹介ありがとう。そして俺達は歓迎するよ。ようこそ、2年D組へ」


キーンコーンカーンコーン──……


静寂を破るように、運命が動く、鐘の音が響いた。

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