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4.恐怖の学校

「ごめんね、すぐに戻ってくるから…!」


駆け足で校舎へと入っていく咲桜を見届け、校門前でぼーっとショート動画を眺めては暇を潰す。


安倍学園。詳しくは知らないが、あの安倍晴明の子孫が理事長を務める超名門校である。


ここから一駅隣のど田舎高校に通うほたるとは違い、咲桜は由緒正しき神代神社のご息女様である。

頭脳明晰で品行方正な彼女にぴったりな学校だ。


辺りは山に囲まれてはいるが、その広大な立地を活かして校舎は無駄に大きくだだっ広い。


文化祭のときに足を踏み入れたことがあるが、

内装は一般的な高校と変わらない反面、新築並に綺麗であったことを覚えている。

恐ろしや私立高校…。


咲桜との待ち合わせでもここには何度か足を運んでいるため、特にこれと言って目新しいものは見つからない。


…強いて言うなら、今日はいつもの部活動生の喧騒が鳴りを潜め、ひとっ子ひとり見当たらない閑散とした雰囲気であるということだろうか。


「うわっ…なんか意識したら急に怖くなってきたんですけど…!」


薄ら寒い風が頬を撫で、校舎を囲む木々が不気味に揺れ動く。


先日ようやく春分を迎え、少しは日も長くなったと感じていたところだが…残念ながらお天道様は既に本日のお役目を終えてしまっていた。


あかん、めっちゃ怖い。


そんな中。ばさり、と突如飛び上がったカラスに、ほたるは思わずひぃ!と情けない悲鳴をあげて臨戦態勢に入る。


武器がテニスラケット一本なのは心許ないが、物理攻撃が通じるタイプの幽霊ならば一発ぶち込むくらいはできるだろう。…と、構えてみたは良いものの。


「うっ、ちょ、やっぱムリムリムリ!私幽霊とは共演NGなタイプなんだって!」


如何にも今から何か出てきますという状況に、

ほたるの恐怖ゲージがついにMAXになる。


「ちょ、さくらぁ…まだなのぉ…!」


今すぐにでも咲桜の小さいながらに温かい胸に飛び込みたい衝動に駆られ、校門から一歩足を踏み出したその時。


ドカーーーーン!!


「うわぁぁぁぁ!?」


大地を劈くような轟音と共に、視界が上下に大きく揺れる。

…いや、違う。

揺れているのは地面の方だ。


経験したことのない浮遊感に、ほたるは思わずその場にしゃがみ込んだ。


「…っ、なにこれ地震っ!?…でもっ、アラートとか、鳴ってないよねっ!?…」


「…っは!もしかして…今日が世界終焉のときだったりする!?」


混乱するほたるを他所に、地面の揺れは瞬く間に大きくなっていく。


「うわぁぁぁ!ちょ、鎮まれ世界ぃ!わたし、世界最後の瞬間は一見冷たそうに見えて恋人の前ではめっちゃ激甘な態度取ってくれる彼氏(未定)と愛のキッスをするって決めてんのよぉぉ!!!」


…先程までの恐怖心は何処へやら。

唐突なる世界の終焉に対して溢れ出る怒りや悲しみや煩悩やらにほたるが身を震わせていると、次第に揺れが収まってきたことに気が付く。


「…およ?鎮まった…?」


そうほたるが安心したのも束の間。

今度は、ドゴゴォ!と何か大きな物が崩れる音が向こう―学園の裏山の方から聞こえてくる。


ドォン!ドォン!

ドゴゴォォォ!!


「ひぃぃぃっ、ちょっと、今度は何っ!?」


せっかく冷静さを取り戻しつつあったのに、再び未知の現象への恐怖心が戻ってくる。

…ふと、恐ろしい予感がほたるの脳を過る。


「…え、もしかしてあれ、こっちに近付いて来てないっ!?」


木々を薙ぎ倒し、土砂を抉るように猛進する

”ソレ”は、どんどん勢いを増して裏山の斜面を下り落ちる。


…間違いない、山を降りてきている。

あわあわと慌てる暇すら与えず、ソレは勢いを増してこちらへ近づいてくる。


そして―


ドガァァァァンッ!


大きな破壊音と鉄筋がぶつかり合ったような鈍い音が、ほたるの肌と鼓膜をジリジリと揺らす。


まるで積み木の城を壊すかのように呆気なく5階建ての校舎を突き破った”ソレ”に、ほたるの本能がけたたましく警鐘を鳴らす。


―逃げなければ。


そう思って駆け出そうにも、足が震えて動かない。


「っ…、」


立ちこめる土煙の中から、その全貌がじわじわと顕になる。


紅く不気味に光る瞳をぎょろりと動かす8つの頭。

青白い表面にざらりと鱗のようなものが隙なく埋まった胴体。

その先で縦横無尽に地面を這う8つの尾。


朧に妖しく揺らめく白蛇が、目下に佇む小さな存在を、確かに捉えた。


ぎょろ。


「…あっは、まじですか」


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