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3.持つべきものは心の友


「はぁ、はぁっ、ごめんっ…!はっ、…時間、遅れちゃって」


「ううん、全然大丈夫だよ。私もさっきついたばっかりだから」


肩で息をしながら謝罪の言葉を口にするほたるに、目の前の少女はふわりと笑みを浮かべて雫が滴るスポーツドリンクを差しだす。


「はいどうぞ。買ったばかりだからとっても冷たいよ」


「うぅ〜神様、女神様、さくら様ぁ〜!」


部活もあって丁度飲み物が切れていたほたるは親友の思いやりに感謝しつつ、勢いよく蓋を開けて喉に流し込む。

うん、おいしい。


「ふふ、良い飲みっぷりだね」


神代 咲桜(かみしろ さくら)―名にふさわしく、春の可憐さと儚さを纏う彼女は、ほたるの様子に満足そうに目を細める。それに合わせて揺れる泣きぼくろの何と色っぽいことか。


「はぁ〜生き返ったぁ〜!まじでありがとう…あ、お金払うよ?いくらだった?」


ほたるの言葉に少女はゆるりと首を振る。

拍子に揺れる小波のような群青色の髪の毛に思わず視線を奪われてしまう。

全く、美人薄命とは言い得て妙だ。

桜に攫われてふわりと消えてしまいそうな彼女を見る度に、ほたるは一種の感動さえ覚えるようになっていた。


…まぁ、内面は桜よりも真っ赤な薔薇が似合う可憐で強かな筋金入りの乙女なのだが。


「いらないよ。これぐらい気にしないで?」


「えぇ、でも…」


「ふふ、いつも言ってるでしょ?私がやりたくてやってるだけなの」


「うぅ〜んそうは言うけどさぁ…」


「あ、もう電車来ちゃう!行こっ!」


「わっ、!?えちょ、さくらぁさーーん!?」


粘るほたるを押し切るように、咲桜はぐいぐいと手を引っ張って駅まで走り出す。


彼女とは小学校からの幼馴染で、かれこれ10年来の付き合いになる。


中学と高校は別々の場所に通っているが、こうして月に一回は顔を合わせて近況報告会を開くほどには良好な関係が続いている。

ほたるにとっては、唯一無二の大切な親友だ。


「うひょ〜!このパンケーキちょうおいしぃ〜!」


「ふふ、このパフェもおいしいよ?ほら、あーん」


「むぐ、…!お、おいしぃ〜!」


地下鉄に揺られること約30分。

地上に出て細い裏道をしばらく進むと、その隠れた名店がひっそりと顔を出す。

落ち着く色味にオシャレなジャズソングが流れる店内で、2人は届いた甘味を楽しみながら最近あった面白いことや驚いたことなどを共有し合っていた。


「…で、そん時橋本が思いっきりジャンプしたら体育倉庫の床が抜けてさぁ〜!」


「ふふっ、そんなことあるだ。相変わらずほたるちゃんの周りは賑やかで楽しそうだね」


「そーお?ちょっと騒がしすぎる気もするけどねー…あ、そいえばここに来る前も色々あってさ」


そうやって2人が会話に夢中になっていると、いつの間にやら窓の外から夕日が差し込んできている。


「えぇ!もう18時!?」


ふと目を落としたスマホの時刻表示に、ほたるは思わず目を見開く。


「あらら、ほんとだ。もうすぐ暗くなるし、そろそろお開きにしよっか」


「えぇ〜そんなぁ…!」


「ふふ、ワガママ言わないの」


まだまだ話し足りないよぉ…と肩を落とすほたるに、また今度のお楽しみねと咲桜は優しく頭を撫でる。


「…あ、」


「ん、どうかした?」


会計を済ませていると、不意に咲桜が鞄の中を見つめながら声を上げた。


「…学校に忘れ物した」


「あちゃー、大事なやつ?」


「…うん。生徒会の資料で、今日中に内容全部まとめないといけなくて…」


「あー咲桜書記やってたもんね。取りに戻る?門限まで時間あるし私は全然ついてくよ!」


二カッと笑いながら親指を立てるほたるに、咲桜は大きく目を見開く。


「え、でも…」


「良いの良いの!咲桜ひとりで行かせたら変な事件とかに巻き込まれちゃうかもしれないし!それに…」


”私がやりたくてやってるんだから”


そう言って悪戯っぽく笑う少女に、咲桜はもう…と苦笑する。

やられたらやり返す。恩返しである。


「それじゃ、名門安倍学園までレッツゴー!」


「わわっ、ほたるちゃん!?」


行きとは逆に今度はほたるが咲桜の手を引いて、茜色の街並みを駆け抜ける。


「あはは。ほんと、ほたるちゃんには敵わないなぁ…」


靡く金色をいつの日かの思い出と重ね、咲桜は誰にも聞かれぬようひとり呟くのであった。


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