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12.ドッ死ボール③



「……あれ、だれもいない?」


 後ろを振り返り、次の攻撃に備えようと思っていた矢先。


 ボールも無ければ人もいない状況にほたるが目を丸くしていると、恐らく外野の方であろうそちらから男性の声が聞こえてきた。


「驚かせてすみません。僕は影無 朔(かげなし はじめ)、透明人間です。ちなみに、お探しのボールもここにありますよ」


 パッとまるで空中に浮いているかのように突如出現した球体に、ほたるは思わず「えぇ!?すごっ!?」と声を上げて驚く。


 自身だけでなく、触れているものまで透明化できるのか……!ドッジボールにおいてなんと強すぎるアドバンテージだろう。

 あぁ、あとこれは関係のないことだが――……


「めちゃくちゃ声が良いんですけど!?」


 ほたるの心からの叫びに、星羅(せいら)がうんうんと首を振る。


「気付いちゃったわね。そう、影無ってめっちゃ低音イケボ男子なのよ。裏では皆からリアル立体音響って呼ばれてるわ」


「最近では耳元で交互に九九を囁いてほしいとお願いに来る人が増えましたね。一回三分の500円で始めました」


「リアル立体音響で商売始めてる!?」


 なんだ九九を囁くって。

 テスト中とかふと思い出しちゃって笑いこらえるの絶対大変なやつじゃん……!


 でもまぁ、この腰まで響きそうな低音ボイスで九九を囁かれれば、確かに甘い愛の言葉のように錯覚してしまうのかもしれない……声は良いのだ。声は。


 ファンたちの気持ちも少し理解できるな……などと思考を飛ばしていると、浮いていたボールが再びパッと姿を消した。


 まるで手品だ、なんて感想が浮かんだが、実際は種も仕掛けもない完全超常現象なのである……。

 手品師もびっくり。


「あっまた消えた!うーん、ボールがどっから来るか分かんないって……けっこう詰みじゃない?」


 ここはやはり封印されし右目を使うときか……などと右目を押さえるほたるに、星羅が思わずといった様子で吹き出した。


「ぶっふふ、ほたるってば、意外とノリが良いのね……!ふふ、見えなくても大丈夫よ。そのための私ですからッ……よっと!」


「えっ、取った!?」


「……これは残念。あなたには僕の姿が見えているようですね」


「まぁ、ねッ!」


 影無の言葉で、ようやく一連の絡繰りを理解した。


 星羅は雲外鏡(うんがいきょう)という物事の真実を写す鏡の付喪神だ。


 真の姿を写す星羅()なら、透明人間の影無の動きなどお見通しというわけである。


 ほたるたちに目掛けて再び姿を現したボール――やはり速球である。妖怪の身体能力、げに恐ろしや――をまるで最初から来ることが分かっていたかのようにキャッチした星羅は、勢いをそのままに相手チームへと投球した。

 ひゅー、カウンターだぁ!!


 そして狙われたのは――……


「へっ!?まってオレっすか今日まだ出番なゴフゥッ!?」


 福、というこれまた癖の強い鉢巻を頭に巻いた少年――福来春祈(ふくら はるき)に、星羅のドリルのような豪速球が直撃する。


 綺麗な曲線を描いて2m程先で落下した彼の元に、ささっとハチが駆け寄って……


「あ……きれいな……かわと……いけめぇん……が、へへっ……」


「ピピー、福来春祈、リタイア」


 ホイッスルとともに、ドクロマークのついたカードを頭上に掲げた。


 おい待てなんだそのデッドカードは。どこにあった。


 ずるずると気絶した春祈を引きずっていくハチにツッコミつつ、初の脱落者にBチームも少しは焦りを感じてきただろうかと視線を移す。


「春祈くんが逝ったのね……まぁ問題ないわ。彼は四天王と言わずこの学年の中でも最弱……いてもいなくても、正直変わらないもの!」


 くわっ!とド直球にお前は戦力外だぞ発言する咲桜に、Bチームの何人かが頭を押さえ、何人かが「そうだそうだー」と野次を飛ばしていた。


 さ、咲桜……ほんとに容赦ないな……。福来くんもたぶん、頑張ってたと思うよ……。


 ほたるの心の内を代弁するように、星羅がちょっと!と口を開く。


「ひっどい言い草ね!春祈がいくら神格(しんかく)を持たない見習い福の神だからって、そこまで言わなくても良いでしょう!?アイツだって今日なんか良いことをっ!良い、ことをっ!……した……かったとは思うのよね……」


「星羅氏、それフォローじゃなくてトドメでござる」


 どんどん尻すぼみになっていく星羅に、百合園(ゆりぞの)がそっと首を横に振った。


 まだまだ学園生活は始まったばかりである。


 これからの春祈の活躍を祈って、ほたるたちは静かに手を合わせた。


 南無阿弥陀仏……。



……さて、一人目の離脱者が出て五分ほど経過したが、当てては当てられての両者譲らぬ激しい攻防がこの狭い長方形内では繰り広げられていた。


 それと同時に、作戦会議で鷹介(ようすけ)が言っていた戦力差という言葉の意味を嫌という程理解させられる。


 邪眼封じで目隠ししてるくせに、「見えてるよねっ!?」ってレベルの反射神経と運動神経でどんなボールも軽々と避ける成瀬 彩波(なるせ いろは)


 D組で自分と咲桜以外の唯一の人間だからと勝手に親近感を感じてたのに、言霊(ことだま)とかいうトンデモ超能力で皆の動きを物理的に止めてくる赤坂 要(あかさか かなめ)


 そしてトドメと言わんばかりに、「私とボールの間にある縁はもう切ったから!」と絶対にありえない軌道の逸れ方をするボールを白峯 依都(しらみね いと)から見せられたときは……もう、ナニコレ珍百選である。

 恐るべし縁切りの神様。……あの、人とボールの縁ってホントに何ですか……?


 そんな色んな意味でイカれた軍勢を従えるように中央で仁王立ちしている我が親友のなんと恐ろしいことか。

……生まれて初めて、咲桜に対して本気の恐怖心を抱いた瞬間である。


 こちらもトワや星羅を中心に応戦してはいるが、いまいち決定打に欠けるといった状況だ。

あと、このはちゃんが強すぎる。かわいい顔したゴリ……おっとボールだ避けなきゃ。


「あいつらよく素手でボール取れるな……」


「うげ……黒皇(すめらぎ)土野(つちの)も瞳孔がん開きじゃん……真紘(まひろ)なんとかしてよ」


「無茶言うな……僕はただの座敷童だぞ」


「えぇ……じゃあ桃李(とうり)でもいいから」


 コートの隅で気配を消しながら当たれば即死のデスラリーを眺める鷹介が、どうすんのこれという表情で真紘に言葉を返す。


「いやぁ~難しいですねェ。私もただの刀ですので……主が居ない私など、それはもう本当に純真無垢な乙女のようにか弱く……」


「あ。やば」


「へっ」


 シクシクとわざとらしく涙を拭う桃李の胸部へ、小型の新幹せ……ボールが正面衝突した。


 ぐふぅ!?と綺麗な曲線を描いて落下した桃李に、「ごめーん」と間延びした声で鷹介が謝罪を口にする。


「あー、俺貧乏神だからさぁ……不運のおすそ分け……的な?」


「ふふ……なるほど。これもまた、運命の悪戯というわけですか……神様(あなた)も食えない方だ」


「浸ってるとこ悪いけど、お前らは早くその血をどうにかしてくれ」


 口と胸からドバドバと流血している桃李と、左手首が吹っ飛んでちょっとモザイク状態になっている鷹介に、真紘が頭を押さえながら声をかける。

 これでは見ている人たちのお茶を嗜む間がお茶を吹き出す間に変わってしまう。


「ピピー、安座丸桃李(あざまる とうり)奥座敷真紘(おくざしき まひろ)、アウト」


「ここに来てダブルアウトか。ははっ、いいねぇ面白くなってきたなァ……」


 外野にGOカードを掲げるハチの隣で、聖がうっそりと愉悦を含んだ目を弧にする。


 天星ほたる……オマエがその力を使えば、コイツらなんか全員簡単に殺せるだろうに。


 未だ避けるばかりで、力どころかボールすら触っていないほたるを眺めながら、

聖はくつくつと喉を鳴らして笑う。


「さぁ見せてくれ、お堅い神子様(みこさま)の行動理念ってやつをよォ?」


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