10.ドッ死ボール
「だっははは!『困ってることがあったら力になりますっ!』て!あっはは、ちょ、面白すぎるって!」
「うぅ……そんなに笑わなくても……」
腹を抱えて笑い転げる赤毛の少女――黒皇トワの言葉に、ほたるは顔を覆って項垂れる。
「そりゃあそーよ。妖怪とか神様に力を借りたいんならまだしも、助力したいだなんて。アンタ…アホね!」
あ、アタシは加賀美星羅。気軽に星羅って呼んで〜。
濃い紫色のツインテールを靡かせ、ひらりと手を振る彼女。
これまた勝気そうな子だなぁ、などとほたるが苦笑していると、彼女の後ろからひょこりとふたりの…男…いや、女か…?が顔を覗かせる。
確か名前は…猫宮くろと奥座敷真紘だったか。
「にゃはは!ボク達の性別が気になるかにゃー?それなら実際にさわ」
「僕は男でコイツはどっちでもない」
上目遣いでほたるに擦り寄ろうとする猫宮を、奥座敷が問答無用に引き剝がす。
どっちでもない…?
頭にハテナを浮かべながら、「はなすにゃー!」「うるさい」と小競り合いをしている二人を眺めていると、徐に後ろから話し声が聞こえてきた。
「ふふ、皆さん楽しそうですね」
「あら、そういう貴方も随分と口角が上向きのようだけど?」
モノクルを光らせうっそりと笑う高身長の男に、これまた高身長の女がくすりと笑みを零す。
どちらもモデル並みのスタイルとルックスを持っているため、笑い合っているだけの今の様子もドラマのワンシーンか何かと勘違いしてしまいそうだ。
「えぇと、安座丸さんと六九六さん…だよ、ね?」
「うふふ、ほたるさんは記憶力が良いのね。当たりよ。私が六九六撫子で、こっちの胡散臭い男が安座丸桃李と申します」
「おや胡散臭いだなんて…心外ですねぇ」
「あら事実でしょう?それとほたるさん、私のことはぜひ撫子と呼んで下さいな。私たちはもうクラスメイトなのですから、もっと砕けた態度でも良いのですよ」
「同意見ですね。では、私のことも桃李と」
「えぇっ!?あ、はい!じゃなくて、わかった…さすがに、呼び捨てはできないから、とりあえず撫子さんと桃李さんで良いかな…?」
おずおずと見上げるほたるに、桃李は頷き、撫子は満足そうに笑みを浮かべている。
「デュフ、デュフフフ…!新しい転入生は太陽のような金髪美少女…!特徴的な自己紹介で気難しい星羅氏やオラオラ系のトワ氏からの『おまえ面白い女だな認定』をゲッチュするに飽き足らず、年上お姉さんキャラの撫子氏とのフラグを急速建設中ッ!そして極めつけは常に他人と一線を引く高嶺の花で有名な咲桜氏とO☆SA☆NA☆NA☆JI☆MI☆関係ですと…!?ほたる氏、なんという主人公気質…!デュフッデュフデュフ!かわうぃ女の子たちの絡みは真に甘美でござるなぁ~」
「えっと……あれは」
「あぁ、あれは百合園護…名前の通りのオタクよ。害は無いから気にしないのが一番ね」
少し離れた隅でぶつぶつと変わった笑い声を上げながら何か言葉を発し、縦も横もかなりボリューミーな男に視線を向けるほたるへ、星羅が慣れたように紹介する。
言葉の意味はほとんど分からないが、
「新星百合の女王ほたる氏の戴冠に最大限の敬意をッッ!!」
とこちらに膝をついて頭を下げているため、嫌われてはいない…と思う。
あ、星羅ちゃんに蹴られた。
そうして一通りのチームメイトと会話を交わし、最後のひとりに話しかけようとしたのだが――……
「あの…」
「……」
「物草くん、だよね」
「……」
ヘッドホンを装着して、気怠そうにスマホを触っている
向日葵色の男に声を掛けるも、全く応答が返ってこない。
「えっと…」
「おい鷹介ー!ほたるが困ってるだろー」
「うわ、ちょっと…勝手にヘッドホン外すなよ…」
協調性のないお前が悪いな!と彼─物草鷹介にヘッドホンを返しながら、トワが全く悪びれる様子もなく言い放つ。
うげ、お前にだけは言われたくない…と明らさまに眉を顰める鷹介の言葉は、残念ながらトワには届いていないらしい。
「はぁ…だって、向こうとの戦力差が圧倒的すぎて作戦会議も何もないじゃん」
溜息をつく鷹介の言葉に、いつの間にやら集まっていた一同が「それな」と首を縦に振った。
チームメイト、戦力差、作戦会議――ほたるたち2年D組は一体をしようとしているのか。
それは、少し前に遡る…
『お前らには今から2チームに分かれて全力でドッジボールをしてもらう』
三限の総合の授業が始まり、何故かジャージに着替えて
体育館に集合させられたほたるたちD組に放たれた言葉。
そう、上記のものである。
状況が掴めず隣の咲桜やその他を見回すと、皆困惑の色を浮かべていた。
良かった。どうやらおかしいのは聖の方らしい。
『ルールは簡単、外野を除いた相手チーム全員をこのボールで当てれば勝ち。つまり殲滅戦だな。霊術、妖術、神術…使えるモノは全て使用を許可する。…あーあと、負けたヤツらは6月のプール掃除当番な』
瞬間、ざわりと空気が騒ぎ出す。
「はぁ!?」「聞いてないぞ!」「イヤァァァァ!!」とあちこちで怒号と悲鳴が飛び交っている。
「どんだけ嫌なんプール掃除…」
「あはは、まぁウチは色々と特殊だからね…」
あの咲桜でさえもフォロー不可能なプールとは…もしや水中にハチのようなとんでもない妖怪でも住んでいるのだろうか?
気になって試しにハチに聞いてみれば、
「ふふ、確かにあそこには誰も近付きたくないだろうね」と楽しそうに答えられた。
…もし人間状態であったら、確実にニッコリという効果音が付いていた笑みだっただろう。
完全に理解した。
これは絶対に負けてはいけない勝負だ。
皆も同じなのか、場の空気がピリリと戦前の殺伐としたものに変化している。
『じゃあ、チーム発表だ』
ゴクリ。
息を飲み、ホワイトボードに貼られたチーム表を凝視する。
そこには――
〇Aチーム
天星、安座丸、黒皇、加賀美、百合園、物草、奥座敷、
六九六、猫宮
〇Bチーム
神代、赤坂、土野、福来、桑原、影無、成瀬、海呼、
白峯
『今から3分間の作戦会議タイムを取って、その後すぐに試合開始だ。ちなみに、試合時間は無制限。自己紹介でもして、せいぜい相互理解を深めておくことだなァ。それじゃあ、総員解散』
様々な生徒達の阿鼻叫喚を無視して、聖はポチッとスポーツタイマーのスイッチを押した。




