スサノオ様が教える秒で儲ける方法
俺たちは居ても立ってもいられず、スサノオ様に面会した。
お店が順調なので、仕事中と言われればさほど気にせず会ってなかったのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
「おう、榊君にクソ坊主やないか。すまんのう、最近バタバタしとってなかなか会われへんで。」
スサノオ様の霊的スペースは、悪趣味な調度品の乱立する事務所のようになっていた。
当のスサノオ様は身ぎれいではあるものの、縞模様のスーツにキンキラキンのネックレス。口に葉巻を咥え。一言でいえば下品な成金のような姿になっていた。
「……なんか、変な方向に霊威が増しとる。」
千住院の言葉に俺は無言で頷いた。
以前の穢れたスサノオ様のオーラは、煤か埃のような薄汚れたイメージだったが、今はそれが何か凝縮され、黒い水晶玉のような純度を持った穢れを感じる。
黒炭がダイヤモンドに昇華したような、不可逆な穢れの凝縮と精錬を感じる。
俺には、これが浄化された姿とは到底思えなかった。
「スサノオ様、さっき表で見たんですが、貧乏神たちに客寄せさせてませんか?」
なにか恐れすら感じるわけだが、ここまで来たからには引き下がるわけにはいかない。
俺の問いに、スサノオ様はにやりと笑いそれに答えた。
「さすが榊君や。ワシのビジネスモデルに気づいたようやな。」
「アレがビジネスモデルやて?」
忌々しげに答える千住院、それにスサノオ様は怒るでもなく満面の笑みでどこにあったのかホワイトボードを引っ張ってきて、汚い字と下手な絵で図を示した。
「つまりや、ワシら厄神のパワーで人間を引き寄せ、来た人間に負けてもらってお金と穢れを落としてもらう。そしてその中で選ばれた奴に金を分配し、幸せになってもらい。天罰と救済を同時に行う。と、こういうわけやな。これで胴元であるパチンコ屋にも金が落ち、我々は浄化されていくわけや。いやぁ、ええシステム思いついたもんやのう。」
なんだかよくわからない図を描いて自画自賛するスサノオ様に俺たちは複雑な顔で首を傾げ、互いに顔を見合わせた。
確かに、博打はそんなもんと言われればそうである。
我を忘れるほどの一時の遊興を楽しめば、憂さも晴れるし、汚れたお金を手放せば、自らの罪も消えていくだろう。
だが……。
「……それって、浄化進むんですか?」
「いやいや、計算上圧倒的に負けるやつが多いわけやから、こんな勢いでやったら貧乏な奴がますます貧乏になっていくやろ。3割くらいの救済のために7割を貧乏にして……あれ?」
俺の問いに、千住院も頭の中で計算しながら混乱している。
確かに、計算上お金を落としていくものの方が多いのだから、客は増えれば増えるほどこの格差は社会全体に広がっていく。その中には貧乏神に取りつかれ借金してまで来る者もいるだろう。
それはトータルでプラスなのか?
俺たちは霊的な原罪の救済と罪の量について考えてねばならならなかったが、今の結果を見るに到底プラスに働いているように見えない。
ギャンブルはほどほどに、という枠を厄神のパワーで破壊している状況なのだ。
そして、俺はもう一つの問題にたどり着き。恐る恐るスサノオ様に尋ねた。
「……あの、勝って大金を手に入れた人たちは……?」
「ん?おお、人にもよるけど大抵は味をしめてまた来てくれるで。金持ってるからええカモやがな。」
「……結局ギャンブル狂いを増やしとるだけやないか。」
無邪気に笑うスサノオ様にさすがに突っ込みを入れる千住院。俺はそれにこめかみを押さえて顔をしかめた。
どう考えても割に合っていない、ギャンブルで不幸になる人々を増やし、ざまぁ見ろと憂さは晴れるかもしれないが、構造上利益を得るものが圧倒的に少ないうえに、執着して再び貧乏神に取りつかれいたら結局お金を失い、良くてもプラスマイナスゼロである。
やはり、ギャンブルは引き際が肝心、ということだろう。
「ワシな、思うねん。このビジネスモデルは他にも使える。この方式をみんなでいろんな商売に広げていけば。きっとワシ天下が取れると思うねん。」
「……疫病神が夢を語っとる……。」
澄んだ瞳でろくろを回すように手を出して語るスサノオ様にもうドン引きの千住院。
どう考えても露骨にダメな悟りを開いてしまっている。
俺はかける言葉が見つからず、ある意味ピュアなスサノオ様を呆然と眺めた。
しばし沈黙ののち、俺は絞り出すような声でスサノオ様に問うた。
「あの……具体的にはどうされるおつもりで?」
「そうやな、ちょいちょい浄化される神々も出てきたけど、まだまだ面倒見たらなあかん奴はたくさんおる。そいつらと協力して。まずは世話になった電気街のみんなにもこの方法で福と金をもたらそうと思ってるんや。まさにギブアンドテイクっちゅう奴やな。」
「……それは、やる前にみんなに言った方が……。」
「かまへんかまへん。お客が増えて喜ばん福の神がおるかいな。急に儲かってびっくりするみんなの顔が目に浮かぶようや。」
「そらびっくりはするやろけど……なぁ?」
もう千住院も突っ込む言葉が見当たらず俺に同意を求めてきた。
具体的にどうやるかは知らないが、絶対ろくでもないことになるのは目に見えている。
何とか言ってやれ、と目で合図する千住院だが、言葉に表し、かつ説得できる内容が見つからず俺はもう一度声を絞り出して、スサノオ様に問うた。
「しかし、この方法で本当に穢れた神々を浄化できるんですか?」
「安心せい。もう何柱かの神が浄化していったがな。」
そういうとスサノオ様は指を鳴らす。
すると、まるで軍隊のように一糸乱れぬ行動で部屋の中に制服を着た神々が集まってくる。横一列に並んで気を付けの姿勢を取る彼らは小ぎれいではあったが一様に青白く鶏ガラのように痩せこけていて存在が希薄だ。
多分そのパワーを使いまくっているのだろう。
これを浄化と表現するのはいかがなものか
「今ワシが一番目をかけてるやつらや。みんなガンガン利益を上げて、どんどん浄化していく。ゆくゆくはそれぞれに大きな店を持ってもらおう思てるんや。」
「はい、今あるのはスサノオ様のおかげです!」
「スサノオ様のようになるのが私の夢です!」
「いや、そっち目指したらあかんやろ。」
頼んでもいないのに大声を上げる手下の神々に突っ込み疲れしていても反射的に突っ込みを入れる千住院。
言わされている感満載だが、スサノオ様は満足げである。
「よっしゃ!今日もみんなこれかも死ぬ気で働くんや。ノルマが達成でけへん根性なしはワシがどつきに行くからな!わかったか!」
「はい!」
ヤクザの組長みたいな言葉に必要以上に元気に答え部屋を退出していく神々。俺はそれを感心していいのか呆れていいのかわからず呆然とした表情で見送った。
「……なんかブラック化してません?」
「あれは、巡り巡って親玉の疫病神がどんどん業をため込んどるんやろな。恐ろしいこっちゃ。」
俺と言葉を交わし。最後に手を合わせる千住院。
そんな俺たちを背に、スサノオ様は満足げに鼻歌を歌いながら高そうなウイスキーを注いでいる。
「ワシはどこまでも行けるで!」
そう言ってグラスを掲げるスサノオ様に俺は卒倒しそうな思いがした。千住院も頭を抱えて絞り出すように俺に言葉をかける。
「……すまん、ワシにはこいつは救えん。せめて類が及ばんよう、はよ帰って実家で祈祷しとくわ。」
その言葉に絶望のため息を放ち、首をうなだれた。
穢れた力の疫病神でも
お金儲けは簡単です。
流石は神とは思うけれど
これって本当にサステイナブル?
お金を儲けていい気になって
他も頑張る気だけれど
それはほんとに大丈夫?
この勢いは続くのか?
続きは次回のお楽しみ