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ごっどぶれすゆー スサノオ様本気出す?  作者: 宮城 英詞
何事も、水に流すが世の習い
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一致団結!厄神連合!

 数か月して、パチンコホールは無事完成した。

 この間、まめにスサノオ様の所に顔を出した甲斐もあってか、事故もなく。無事に開店の日を迎えようとしていた。

 だが、開店の前日、南さんとお祝いの花を持って訪ねた俺たちは予想だにしていなかった光景を目の当たりにした。

 それは、店の周囲を埋め尽くす、みすぼらしい神々の群れだった。

「……これは。」

 唖然として周りを見回す俺。

 持ってきた植木がものすごい勢いで枯れていく。

 それは、間違いなく貧乏神、疫病神の群れだった。

「これは、以前ここに集まってくださった神々ですねぇ……。」

 冷や汗を流しながら言う南さんの言葉に俺は息をのんだ。

 そうである。この周囲には、スサノオ様に呼び寄せられたのか、あるいは自然発生的に集まったのかこの手の神々があちこちにいらっしゃる。以前はスサノオ様が追い出されないように抗議のため集まってもらったこともあったが、まさかこんな真昼間に、しかも大量に集まってくるとは。霊的に見た周囲の光景は、もはや炊き出しに集まったホームレスの群れそのものである。

 もちろん開店前日に貧乏神の大集会など、霊的には縁起でもない状態だ。

俺は言葉を失い、硬直した。

「おう、榊君やないか!お祝いに来てくれたんか?」

 遠くからスサノオ様の声が聞こえる。

 すると神々の山をかき分け、こちらにやってくるスサノオ様の姿が見えた。

「あの……。スサノオ様。これは何の騒ぎで?」

 周りを引きつった顔で見回しながら言う俺。

 スサノオ様は周りの神々を見回すと、ニッコリ笑ってこれに答えた。

「この辺にいて、いつもワシが面倒見たってる神々や。ここの開店を祝って集まってくれたんや。ありがたいもんじゃのう。」

「いや、スサノオ様が面倒見てるって……。」

 どう考えても、商売上いてはならない神々の集まりである。

 南さんはそれに。

「スサノオ様って、結構人望あるんですね……。」

 と、フォローなのか嫌味なのかわからないことを言う。

 俺はそれに二の句も告げず小刻みに首を振った。

 多分嫌味とは取らなかったのだろう、スサノオ様は南さんの言葉に感慨深げにうなずいていた。

「ここの所の、区画整理や町の浄化活動でこの辺の神々はみんな追い出され、嫌がられてひどい目に遭っとる。行き場を無くしたり、これから行き場を無くすかもわからん奴らばかりやというのに、ワシを妬みもせず。こうやって応援しに来てくれる。ホンマみんなええ神々ばっかりやなぁ。」

 そう言って涙を流すスサノオ様。

 いや、これだけ禍々しい神々から人望集めるってどういうことか考えてほしい。

 スサノオ様一柱でも難儀なのに、ここまで徒党を組まれるとバワーが増す上に集団意識も高まって、暴走しだしたらもはや制御のしようがない。

 見た目は食い詰めた労働者の集会のように見えていても、霊的には災厄の集結。宗教が変われば魔王の軍勢が集まってきたみたいな話である。

 だが、当の神々たちはあくまで純粋そのものであった。

 彼らはスサノオ様の言葉にあるものは黙って頷き、あるものは感涙の涙を流しむぜび泣く者もいる。

「なにを言うとるんですかスサノオ様。儂らいつも世話になっとって、こんなことでしか感謝の気持ちを示せんのです。せめて今日くらいは祝わせてください。」

「そうじゃ、ワシら貧乏神はどこでも嫌われもんじゃけど、スサノオ様はいつもワシらの面倒を見てくださる。そんなスサノオ様が新しい建物の守り神になれるなんて、ワシらにとってはこんなうれしいことはないんじゃ。」

周囲から次々と、そうだ!

と賛同の声が上がる。

 それにスサノオ様はいよいよ滝のような涙を流し周囲の神々の肩を抱いた。

「みんな、そんなにワシのこと思うとってくれたんやなぁ。……ありがとう。ありがとう!」

 思えば大阪の街がきれいになるとはいえ、それによって踏みにじられるものは確かにある。

弱きもの、義理人情。

そんなものを置き去りにして、我々は街を「キレイ」にしているのではないだろうか。

むせび泣く貧乏神・疫病神を見て、俺はそんなことを考えていた―

―が、

―それはさておき。この状況。果てしなく不味い状況なことは疑う余地がない。

しいたげられた者同士の団結、と言えば聞こえはいいが、別の見方をすれば人間に対するヘイトとそれに対する祟りのパワーの団結である。

もう、商売繁盛とは逆ベクトルの力が結集しているといっていい。

これ、どうしたらいいの?

俺は硬直したまま南さんと顔を見合わせ、必死に次の一手を考えた。

この勢いに逆らわず、穏便に……。

だが、その考えがまとまる前に感動に打ち震えたままのスサノオ様が声を上げた。

「榊君!ワシ、決めたで!」

「え?はい?」

 嫌な予感。

 そんな俺の心持を知ってか知らずか、スサノオ様は涙もそのままに高らかに宣言する。

「ワシがこいつらの面倒をここできっちり見たる!みんなしてお金を稼いで穢れを払い、みんなして人に愛される穢れなき神になれるよう頑張るんや!」

スサノオ様が高らかに宣言すると周囲の神々から歓声と拍手が起こる。彼らは感動に打ち震えながらスサノオ様を取り囲み、次々に感謝の言葉を述べ始めた。

やがて円陣を組みみんなで声を上げ始める。

終わった。

疫病神が貧乏神に励まされて商売の守り神として君臨する。

もうどこを取ってもうまくいく要素が見当たらない。

俺は胴上げされるスサノオ様を呆然と眺めながら、停止しようとする思考を必死で回転させ。すがるような眼で南さんを見た。

「……神様の不足は、解決しちゃいましたね。」

 おそらく同じ思いなのだろう、半泣き、半笑いの南さんはそう言って打ち震えていた。


人情溢れるスサノオ様が

周りの厄神引き寄せる

それならみんなで頑張ろうと

誓う決意の美しさ

ところで、一体厄神たちが

商売繁盛できるのかしら?

一体何を考えてるか?

続きは次回のお楽しみ


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