空き物件あり〼
「……そうか、外国の神さんが縄張りをぶんどりに来たか。さすがにそこまでは考えてへんかったなぁ。」
ひととおり、事情を聴いた明石さんは、さすがに深刻な面持ちでせんべいをかじった。
元の明石さんが戻りつつあると思いたいが、いま一つ外見と行動に緊張感がない。
「スサノオさんはいずれ飽きるやろうとは思ってたけど、昔とちごて、外国やネットから影響を及ぼしてくるんやなぁ。向こうも生き抜くためにやっとるんやろうけど。こちらに類が及ぶとなると流石に黙っとれんな。」
「じゃぁ、戻ってくれます?」
「当たり前や!」
言いつつ、残りのせんべいを食べつくし、お茶で流し込む明石さん。
やってることはともかく、やる気は戻ってきたようだ。
俺はどっこいしょと言いながら立ち上がる明石さんに若干の頼りなさを感じつつ、一先ず状況が前に進みつつあることに安堵した。
「さて、補助金のおかげで力はあるけど、さすがに頭数が足らんな。散っていた神々を集めんと、いざ向こうを追い出しても空白地帯があったら元の木阿弥や。」
「前にいた神々とは連絡つきそうですか?」
実際、担当だったこともあり、一番顔が広いのが明石さんだ。彼女を探していたのはそれをあてにしていた部分もあるのだが、彼女は渋い顔で携帯の電話帳を探る。
「うーん、あれからみんなどこへ行ったか解らんような状態やからなぁ。果たして無事でおるんかどうか……。」
「……南さんもあの状態ですからね。」
「しかも、相手が強力な武神である以上、尻込みする神々もおるやろ。声をかけても来てくれるかどうか……。」
「安全になってからなら、来てくれそうなんですがね……。」
確かに、電気街に居たのは基本的にほとんどが守り神、福の神ばかりである。
いったん取られた縄張りを取り返しに行くというのは専門外ではあるだろう。
「誰かがやらなあかん仕事なんやけどなぁ。この時期に手が空いてる神なんて……。」
「居る、ここに一杯。」
俺たちの会話に割り込むように与根倉さんがつぶやく。
それに俺たちは、ポン、と手を叩いた。
一時間後、稲荷大社の一角に人だかりならぬ神だかりが出来ていた。
壁には明石さんが作った、張り紙が堂々と飾られ注目を集めている。
そこには
「大阪有名商店街!空き物件あります!疫病解決済み!」
とでかでかと書かれている。
反響は上々で、行き場を失ったお稲荷さんたちに明石さんが次々と声をかけ、同行者を募っていた。
一応伏見のお稲荷さんからも許可を得ているのだ、これは渡りに船というものである。
しかし……。
俺は集まって来るお稲荷さんの受付作業をする与根倉さんを見ながら一抹の不安を感じていた。
「この広告、よく見たら関公様との話は全然出ていませんけど、大丈夫ですか?」
そうなのである。
お稲荷さんを集めるのは良いのだが、空き物件とは要するに関公様を追い出した後の話である。よく見たらその前提条件がすっかり抜けている。
それに明石さんは、悪びれもせず胸を張って答えた。
「大丈夫や。ここに小さく『細かい条件は契約後説明』って書いてあるやろ」
「それ、アリなんですか?」
よく見れば、実にわかりにくく、かつさりげなく、そして小さく書いてある。
まるで質の悪い詐欺広告のようなやり口だ。
一体どのタイミングで説明するつもりか知らないが、一定数脱落する神は出るとみていいだろう。
「まぁ、こうでも言わな集まらんやろし、うまくいったら空き物件になるんやから同じことやろ。」
「元々の守り神たちと衝突しません?」
「まぁ、そんときは、新しくできたホテルに一室づつに入ってもらお。それに……。」
「それに?」
「いくらかの神々は、解決する前に力尽きて消えるか逃げるやろ。」
「……ちょっと酷すぎません?」
まるで騙して兵隊を募集して最前線に送り込むようなやり口だ。
俺は受付の列に並ぶ大量のお稲荷さんを眺めながら。
一体その「細かい事情」を説明するのは誰なんだろう?
と真剣に考えていた。
空きがあったら入られるから
一先ず神様集めて行こう!
みんな行き場がないはずだから
ウインウインで募集中!
負けたら笑ってごまかすと
いざ大阪へ帰ります!
次回商店街はまだ無事か?
次回更新お待ちあれ!




